第51話 灰滅の王 死の峡谷、合同出撃!
ロスウェル南方、《灰滅峡谷(アッシュ=クレーター)》
そこは、古の神々の咎が焼き尽くした“死の断層”。
裂けた大地は焦げつき、灰が永遠に舞い落ちる世界。
その荒野に、二つの影、豹団とTIGER GATEが並び立っていた。
先頭に立つのは、豹団リーダー・レオパルド・ゴールド=レオン。
紅のマントを風に泳がせ、唇に妖艶な笑みを浮かべる。
「さぁさぁさぁ! ここが舞台よぉ! 伝説級ドラゴンの再封印劇――開演の時間ッ♡」
「開演って言い方が軽いにゃ……!」
猫耳をピクピクさせながら、リオナがため息を漏らす。
「軽くないわよぉ? 命を賭けたショータイムってやつ♡」
バルド・グレンハンマーがその隣で豪快に笑う。
身長の倍はあるハンマー《ギアクラッシュ》を担ぎ直し、地にドンと叩きつける。
「いいじゃねぇか! 伝説の竜の鱗を砕くなんざ、職人冥利に尽きるってもんだぜェ!」
シェリルが弓を抱えて目を輝かせる。
「すっごい……あんな大きい影、見たことないよぉ!」
「落ち着け、シェリル」
サリヴァが眼鏡を押し上げ、淡く光る魔導陣を展開した。
「……魔力濃度、尋常ではない。封印術の残滓も反応している。気を引き締めろ」
リュミナスが祈りの杖を掲げ、淡い聖光を空へ放つ。
「灰に沈む地にも、光は届きます。みんな……共に歩みましょう」
その隣で、タイガが腕を組み、唇を吊り上げた。
「ふっ……この空気、最高だ。封印の地、覚醒直前の竜、混ざり合う魔力濃度……これはもう、RPGで言う最終章前のレイドボス戦フラグってやつだ!」
「またメタ発言はじまったにゃ……」
リオナが肩を落とすが、タイガは完全にスイッチが入っていた。
「来るぞ――灰属性モンスターの前座! 絶対くる! ほら、あの溶岩の裂け目、テクスチャ変わってるし!」
「テクスチャって何の話よぉ!?」
レオパルドがツッコんだ瞬間――
――ズオオオォォォッッッ!
空が裂けた。
灰をまとった翼の群れが、峡谷の上空から一斉に降下する。
「灰のワイバーン群だッ!」
最初に動いたのは、《鉄拳のガルム》
「吠えろ、神獣の血――《獣装解放》ッ!!」
その瞬間、背中の刻印が灼光を放ち、獣の腕が生える。
腕輪状の魔具が裂け、黒銀の爪が現出。
衝撃波が地を這い、灰の岩が粉砕された。
――彼のユニークスキル《獣装解放》
神獣ガルーラの残魂を宿し、一時的にその力を肉体へ宿す“神霊憑依”。
発動中、全能力値+三百%。ただし代償は「獣心暴走」。
「灰の竜だろうが……俺の前に立ちふさがる奴はこの拳でぶっ壊してやるッ!」
獣眼が輝き、暴走状態のガルムの咆哮が峡谷に響く。
続いて、サリヴァ・ミストレイが魔導書を掲げた。
銀の髪が揺れ、眼鏡の奥で紫紋が輝く。
「《完全詠唱展開》――コード:エデン、起動」
――その術式は、魔法学会で一度封印指定を受けた禁術。
サリヴァが兄弟弟子と二人で研究の果てに編み出した《法典詠唱》は、“世界の法則”そのものを一時的に再定義し、魔導現象を支配する究極の知性型魔法。
「定義を変更――“重力”とは、中心を失った光そのもの」
虚空に色の異なる六つの魔法陣が展開。崩壊した灰の岩が空へ浮き、逆重力の奔流がワイバーンの群れを突き上げる。
「来たれ、反転の理――《ノーブル・グラヴィオン》!」
空間が反転し、灰のワイバーンの群れが圧壊した。
「ふっ……重力反転、成功。あとは――あなたたちの番です」
レオパルドがくるりとマントを翻し、猫のように微笑んだ。
「ふふっ、舞台の幕が開いたわね♡」
彼女?のユニークスキルは――《霊宝器召喚》
「召喚――《神槍ロンギヌス・レプリカ》」
紅蓮の光が集束し、空中に現れたのは黄金の槍。その穂先が谷の瘴気を裂き、雷鳴を呼ぶ。
「この槍はねぇ……伝説の真似事、でも威力は本物よ♡」
投擲。紅の閃光が疾駆し、亜竜を次々と貫いていく。
「ショータイム、継続ぅ♡」
バルドが唸るように笑った。
「ほぉぉぉら来やがったか! この瞬間のために生きてるんだよォ!」
彼のユニークスキル――《鍛冶戦闘融合術》の派生スキル《魂装鍛造》
鍛冶の神との契約によって、己の魂を“武器化”する異能。
バルドのハンマー《ギアクラッシュ》が赤熱し、金属が歌うように鳴る。
「見せてやるぜ……職人の矜持をなァッ!!」
「《オーバーフォージ・ブラスターインパクト》ッ!」
地を砕き、火花の奔流が灰空を裂く。
爆炎の中から、バルドが笑いながら現れた。
シェリルが一歩前に出る。
弓を抱き、髪飾りのルーンが光る。
「……みんなを、守るのがわたしの役目だよ!」
彼女のとっておきスキル――《星詠歌》。
魔力を“歌”として具現化し、仲間に加護を与える古代精霊術。
弓の弦を弾くと、光の星が宙を舞い、仲間の身体を包む。
「《光翼の賛歌》!」
淡い旋律が風を渡り、全員の魔力が一斉に高揚する。
リュミナスの聖光と重なり、みなが“黄金の加護”に包まれた。
「ほんっとテンションおかしいにゃぁもう!」
リオナが爪を伸ばし、残りわずかになった亜竜に跳びかかる。
金色の残光を描き、喉を切り裂き確実に数を減らしていく。
「ナイスにゃ! てかお兄にゃん、さっきから立ってうん、うんとオタク解説してる場合じゃないにゃ!」
「いや、これは分析だ! 観察だ! このテンションこそ異世界バトルの華ッ! それじゃ俺も一丁いってみるかッ!」
叫ぶと背中から魔導焔の紋章を展開する。
「《焔紋式・エクスパンドギア》――燃え上がれ、俺の熱きハートよ! これぞ、異世界ロマンッ波ァァァ!!」
赤炎が爆ぜ、群れの中央に一筋の閃光が走った。
空が裂け、残りの灰ワイバーンが灼熱の爆風に包まれる。
その熱を背に、リュミナスがそっと祈るように呟いた。
「黎明の光よ、闇を裂け……」
聖光の柱が落ち、爆炎を洗い流すように地を清める。
そして、最後の灰ワイバーンが灰燼となって崩れ落ちた。
風が止み――。
「……ふぅ。前哨戦、終了。これは完全にラスボス前演出だな」
タイガが満足げに頷いた。
「お兄にゃん、なんのゲームしてるにゃ……」
「ふふ、でも面白いわねぇ。あなたたちのチーム、ノリが最高♡」
レオパルドが唇を吊り上げ、空を仰ぐ。
――そのとき、大地が鳴動した。
亀裂の奥、灰と紅の光が混ざり合う。
「全ユニット、戦闘モード継続」
アークが淡々と報告する。
「敵体温、急上昇。……《グラウズ=ネメシス》、覚醒マデ。一分」
「一分後って、めっちゃ具体的にゃ!?」
突如、空が裂けた。
山のような巨影が、灰の海から姿を現す。
溶岩の瞳が開き、世界を見下ろす。
「――目覚メタ」
アークの声とともに、天地が揺れ、空が紅と灰に裂けた。
――そのとき、世界が震えた。
灰と炎が混ざり、裂け目の奥から光が滲む。
空が赤に染まり、地平線が崩壊する。
封印の中心。
巨大な竜の心臓が鼓動を取り戻す。
灰の鱗が剥がれ、紅蓮の結晶がその奥から露出する。
眼光は、まるで“太古の記憶”そのもの。
「――我ハ、灰ヲ司ル神ノ竜。名ヲ……《グラウズ=ネメシス》ト呼バレタ」
その声は、雷鳴と同時に大地を揺らした。
燃え盛る翼が天を裂き、灰嵐が吹き荒れる。
「封印解除完了……ッ!」
サリヴァが叫ぶ。
「全員、対竜陣形を――っ!」
ガルムが拳を握り、タイガが叫ぶ。
「――来たなッ! ボス戦BGM、完全突入!!」
そして、灰の竜が咆哮した。
天地が反転し、光と灰が交錯する。




