第4話 洞窟で偶然、チート拾いました
洞窟の奥は静かだった。
風が通るたびに、湿った空気がひやりと肌を撫でていく。
「……ん? これ、風が奥から抜けてる?」
ふと気になって、ポケットライトを点けた。
白い光が岩肌を照らし、壁の亀裂の向こう――細い通路が続いているのが見えた。
体を横にしてギリ通れるほどの幅。
普通なら「無理、バッドエンド臭しかしない」で引き返すところだが、今の虎ノ門大河に“常識”というステータスは残っていなかった。
「どうせ寝れそうにないし、水も確保したいし……うん、探索イベント発生ってことで!」
息を整え、身を滑り込ませる。
岩はしっとりと湿り、頭上から時折、冷たい水滴が落ちてきた。
「おお……水、貴重資源! ありがたや!」
落ちてくる雫を空のペットボトルで受け止める。
ほんの少し溜まっただけの水を口に含むと――思わず目を閉じた。
「……うまっ。三つ星ホテルのミネラルウォーターより尊い……だが、飲んだことはない」
ライトの光を頼りに、さらに数分。
ふと空気が変わった。重くて、少し甘いような、不思議な匂い。
通路を抜けた先には、思わず息を呑むような空間が広がっていた。
天井には淡く光る苔がびっしり。
青白い光が、まるで天然のライトアップのように空間を包み込んでいる。
中央には石造りの台座。
その周囲を囲むように、六本の古びた柱。
どの柱にも、奇妙な文字と幾何学的な文様が刻まれていた。
「……え、これ……見たことないけど、なんか読めるんですが?」
意味が、頭の中に“流れ込んでくる”。
まるで脳内ナレーションが自動再生されているみたいに。
《古の加護、封じられし器、選ばれしものに再び力を還す》
「いやいやいやいや、何この主人公テンプレ台詞!? 俺そんなポジションじゃないって!」
思わず自分でツッコんだ瞬間――台座の中央が光を放った。
淡い光が床を走り、柱の文様が次々に輝いていく。
「うわ、やば、イベントトリガー引いた!? セーブポイントなしでボス戦とかやめろよ!」
全体が金色の光に包まれ、次の瞬間――ピピッ、と電子音のようなノイズが頭の奥で鳴った。
視界の端に、見慣れたウィンドウがポップアップする。
◇――――――――――◇
特異発見:【古代遺跡・断片001】
新スキル:【識解(Fragment)Lv1】を取得しました
効果:未知言語・古代文字の自動翻訳(範囲制限あり)
◇――――――――――◇
「おおおおおッ!? スキルきた! てか“Fragment”って何その厨二ネーミング! 断片って……伏線臭しかしないんですが!?」
光が収まり、再び静寂。
胸の鼓動だけが、やけにうるさく響いている。
「……やばい、これ、設定の作り込みが本気のやつだ……」
恐怖よりも、好奇心――いや、完全にオタク魂が勝っていた。
柱の光が完全に消えたあとも、青白い苔が淡く光を残している。
大河は足元を慎重に確認しながら、台座の周囲を回った。
側面には、何かを嵌め込むような窪み。
そして、床の一角に違和感。
指で触れると、金属の冷たい感触が返ってきた。
「ん、パネル? え、これ……まさか機械式?」
恐る恐る押すと、床がカチリと沈み、台座が音もなく左右に開いた。
青白い光が差し込む中、現れたのは――漆黒の球体。
金属とも石ともつかない滑らかな質感。
近づくたび、金色の文様がふわりと浮かび上がる。
その瞬間、ステータスウィンドウが勝手に開いた。
◇――――――――――◇
未知反応を検出。
認証要求:【創造ノ核心(The Core of Genesis)】
反応者:TIGER TORANOMON
条件照合中……一致率 83%
暫定認証を実行します。
◇――――――――――◇
「いやいや、待って待って! 俺そんな偉そうな名前で登録された覚えないから! 誰!? 誰が俺をTIGER扱いしたとですか!」
後ずさった瞬間、黒い球体がふわりと浮かび、額の前で停止。
「やばいやばいやばい、これ脳直系イベントだろ!?」
次の瞬間、脳に“何か”が流れ込んだ。
映像、数式、詠唱、感覚――それらが一気に焼き付く。
視界が真っ白に弾け、膝をついた。
「っ……う、うおおおおお、容量オーバーッ!!」
呼吸が荒く、頭の奥がぐらぐらする。
やがて光が静かに収束し、再びウィンドウが表示された。
◇――――――――――◇
スキル【創造魔法(Lost Technology)Lv1】を獲得しました
説明:既知・未知を問わず、物質・構造・概念を再構築する
制限:膨大な魔力と創造式の理解度を要求
補足:現行世界では失伝済
◇――――――――――◇
「……創造魔法? ロストテクノロジー? いやもう名前からして最上位スキルの匂いしかしないんですけど!? 俺、これ拾って大丈夫なやつ!?」
恐怖、興奮、混乱――全部が入り混じる。
けれど、心の奥底で確信していた。
――これは、“ただの魔法”じゃない。
大河は、唇の端を引きつらせながら小さく笑った。
「やっば……これ、マジでチュートリアル終わった感ある……」




