第47話 恋心スイート・フィナーレ ~焦がし創造、そしてありがとうきゃん!
猫耳商会、閉店後の工房。
静かな夜。
鍋の中では、メラニー特製の“恋慕チョコ”がとろりと溶けている。
「これで最後きゃん……。この想い、ちゃんと伝わるといいきゃん……」
愛情をふんだんに込めた恋心魔法の光が、彼女の指先からほのかに灯る。
それは、祈り”に“恋”成分が素敵なハーモニーの螺旋となった甘い輝きだった。
――そこへ。
「……マダ、起キテイルノカ」
低く落ち着いた声。
振り返ると、金髪の美女――アークが立っていた。
黒のスーツに白シャツ、金属質な輝きを帯びた灰に青を帯びた金属色の瞳。
いつもの無表情……でも、今夜はそこに微かな優しを感じた。
「……メラノ心拍数。高スギル。熱暴走、危険」
「ち、違うきゃん! これは、恋の熱きゃんっ!」
「……恋。熱。……同義、認識」
アークはこてん、と首を傾げた。
機械的なその仕草が、なぜかものすごく可愛い。
「……ワタシモ、理解シタイ。“恋スル”感情ヲ」
「え……アークさんも?」
「主見テイルト、胸ノ内側ニ、未知ノパルスガ走ル時アル」
「それって、きゃん……」
「分析中」
二人の間に、チョコの甘い香りが漂う。
アークは静かに手を伸ばし、チョコの一欠片を口にした。
「……甘イ。データ外。デモコレハ、“幸福”ノ味」
「ううっ、アークさん、それ、最高の褒め言葉きゃんっ!」
【オタク魔法使い、遅れて登場】
「おーい、まだ起きてたのか?」
背後から、聞き慣れた声。
大河だ。
いつものコートを羽織りながら、寝ぼけた目で入ってくる。
「ほら、明日は朝からギルドに顔出す日だぞ? あんま徹夜すんなよ」
「だ、だってぇ……最後のチョコ仕上げきゃん!」
「お、真剣モードか。……いいね、クラフト女子は強い」
彼が笑う。
その笑顔を見て、メラニーの胸がぎゅっと締まる。
「大河さま……あのっ、これ、渡したいきゃん……」
「ん?」
差し出したのは、ハート型の小さな包み。
自分で創造した“焦がし祈りチョコ・恋慕Final”。
「……これ、私の全部の想いをこめたチョコきゃん」
「おお、マジで!? って、え、バレンタイン!? え、イベント発生!?」
「えへへ、そういうこときゃん……」
大河はしばらく固まり
そして、優しく笑った。
「……ありがとな、メラニー。俺、ちゃんと受け取った」
その言葉だけで、胸がいっぱいだった。
【そして、奇跡の夜】
そのとき。
リュミナスが工房の奥から現れた。
その背後に、光の羽のような輝き。
「創造と祈り、そして“想い”。――メラニー、あなたは立派な“創造補助者”です」
「え……あたしが?」
彼女の手元のチョコがふわりと浮かび上がる。
そこに、アークが手を重ねた。
「……最終確認。出力安定。魔力構成」
――工房に満ちるのは、甘い香りと魔力のきらめき。
リュミナスが詠唱を紡ぎ、アークが精密な魔力制御を行う。
そしてその横で、大河が“例の”真剣モード。
額には汗、瞳はまっすぐ――創造者モード全開。
「出力安定。構成率、九十八パーセント」
「リュミナス、頼む」
「ええ――祈りは満ちています。創造、発動」
彼女の掌が光り、チョコの上に柔らかな光の紋が刻まれる。
「すごいきゃん……まるでチョコが、息してるみたいきゃん……!」
メラニーの尻尾がわさわさ揺れる。
「ほほう、これはただの甘味じゃないにゃ」
リオナが頬に指を当て、うっとりした声を上げた。
猫耳がピコピコと動いている。
「香りの層が三重きゃん! しかも魔力と味覚の同調率が高いきゃん!」
「分析が的確すぎるわよ、メラニー!」
「ほ、褒められたきゃんっ!」
ぱあああっ――光が爆ぜる。
そこに現れたのは、焦がし琥珀色のチョコレート。
「完成。《焦がし祈りチョコ・ハート∞(インフィニティ)》」
「命名センスも……悪くないにゃ!」とリオナがにやり。
「リオナお姉ちゃんも一緒に試食きゃん!」
【試食は戦場(スイーツver)】
全員でテーブルを囲む。
リュミナスが祈るように一口、アークは無表情のまま食感を分析、リオナは勢いよく口に入れ――
「うんまっっ!! なにこれ、恋した!? いや、恋したにゃ!!!」
「きゃんっ!? リオナお姉ちゃん、恋は早すぎきゃん!」
「だって、舌がとろけて心が燃える……メラニー、あんたこれ、“告白スイーツ”レベルだにゃ!」
リオナの頬がほんのり赤くなる。
尻尾がピンと立つ。
「こ、告白スイーツ……!? そ、そんなっ、だってわたし、これ“大河さまを想って”作ったきゃん……」
「……つまり、ガチ恋スイーツだにゃ」
「わん!? じゃなくてきゃんっ!!!」
大河が頭を抱える。
「お、おいおい……! 店で恋愛イベント始めないでくれ……!」
そんな騒がしい空気を、アークが静かに一蹴する。
「……結果、味ノ再現性、完成度共ニ最高水準。恋愛要素ハ副次的効果ト判断」
「そ、そういうこときゃん!」
「認定:成功」
アークがわずかに口元を緩めた。
それを見たリオナが吹き出す。
「アークがにっこり笑ったにゃ!? レア表情ゲットだにゃ!」
「……データ削除希望」
「無理にゃ! 永久保存にゃ!!」
【そして夜、静かな工房で】
営業後。
チョコがすべて完売したあと、みんなで片付けをしていた。
「今日も完売、やったにゃ!」とリオナ。
「焦げる寸前まで頑張った甲斐があったきゃん!」とメラニー。
その後ろで、アークは器具を片づけ、リュミナスは静かに祈る。
「……メラニー。あなたのチョコは、“想い”の魔法です」
「きゃん……想い、の……」
「それは創造魔法の原点。――愛することが、創ること、ゆえに恋心魔法は創造魔法の流派、貴女はタイガの弟子を名乗るに相応しい」
リュミナスの言葉に、メラニーは胸を押さえる。
ふわりと、心が温かくなる。
「とっても素敵な先輩方、わたし、もっと頑張るきゃん。いつか“恋の創造魔法使い”になってみせるきゃんよ!」
「ははっ、いいじゃん。いいじゃん! “スイート系魔導師”の爆誕だな。戦うためだけが魔法の使い道じゃないからさ」
「称号登録:甘味特化型恋心創造士」
「やったきゃんっ!!!」
リオナがその肩を叩く。
「よくやったにゃ、メラニー。……これで、あの孤児院のみんなにも胸張って言えるにゃ。“夢、叶えたきゃん”ってにゃ」
メラニーの目がうるっと光る。
「リオナお姉ちゃん……ありがときゃん。だいすききゃん……!」
「はいはい、泣かない泣かないにゃ。ほら、尻尾で顔ふいちゃダメにゃ!」
【そして新しい朝がくる】
翌朝――
猫耳商会の前には、昨日よりも長い行列。
看板にはこう書かれていた。
『焦がし祈りチョコ・ハート・インフィニティVer ~恋する見習いメラニー監修~』
「メラニー、初監修おめでとうにゃ!」
「ありがときゃんっ! 次は《恋するマカロン》挑戦きゃん!」
「それ絶対またカロリー爆弾にゃ!」
「でも売れる!!」
「勝ったきゃん!!!」
店内に響く笑い声。
光、香り、そして笑顔――
今日も猫耳商会は、世界一甘くて騒がしい工房だった。
夜。
メラニーは窓辺で星を見上げ、静かに呟いた。
「大河さま、リオナお姉ちゃん、リュミナス様、アークさん、みんな……今日もありがとうきゃん。あたし、もっともっと甘くて優しい創造をしてみせるきゃん……」
尻尾がふわりと揺れる。
星がまたたき、甘い風が頬を撫でた。
――恋する犬耳見習いメラニーの物語、これにてひとまず完結。
けれど彼女の恋も創造も、まだ終わらない。
次なる舞台へと続いていく。
《恋する犬耳見習い編 ―Fin― 》




