第45話 チョコと恋と魔導祭! ~犬耳メラニーの初恋レシピ~
ロスウェルの市場が、いつにも増してざわめいていた。
「魔導祭」年に一度、職人と魔術師、冒険者たちが腕を競い合う祭典の日だ。
猫耳商会も出店許可をもらっていた。テーマはもちろん、“創造スイーツ特設屋台”!
目玉商品は、あの《TIGER MIX・Ver.SWEET!》の新作バージョン。
「はぁ……祭りの日なのに、朝からドタバタだきゃん……!」
メラニーは犬耳をぴくぴく揺らしながら、大きな箱を抱えて走り回っていた。
犬獣人の中でも珍しい“ポメラニアン族”の少女。獣人種では、とても希少な魔法を扱うことを得意とする種族。
そして見た目も、ふわふわの金毛、丸い尻尾、そしてつぶらな愛くるしい瞳に――素直すぎる性格。
「メラたん、あっちの試食テーブルにお願いにゃ!」
「は、はいにゃ! じゃなくて……きゃ、きゃん!」
リオナの指示を受けて慌てて訂正するあたり、まだまだ修行中である。
【オタク魔法使い、大河さま登場】
「おーいメラニー、配線どうなってる? チョコの冷却陣式、再起動できてないぞ」
「ひゃ、ひゃいっ!? きゃんにぃ(大河さま)! も、もうちょっとで完了ですうっ!」
彼女が焦って魔力を流すと、金色の陣式がぱっと光った。
チョコがつやつやに固まり、芳醇な香りがあたりに広がる。
「……よし、ナイス。犬耳可愛い。あと反応もちょー可愛い」
「~~っ!? い、いきなり褒めるの禁止です! きゃんにぃっ!!」
メラニーの尻尾がふわふわと跳ね、顔が真っ赤になる。
タイガは真顔で頷いた。
「可愛いは正義。つまり、創造魔法の理論的基礎にもなる」
「理論おかしいですきゃんにぃ!!」
屋台の奥でリュミナが苦笑している。
白いローブに金の縁取り、まるで聖堂の光を纏ったような姿――だが、その手は確実にチョコを練っていた。
「リオナ、飾り用のハートチョコは?」
「了解にゃ、大量生産モードにゃ!」
軽快なテンポで、猫耳と犬耳が動き、甘い香りが街にあふれる。
【メラニーの胸の奥で】
メラニーは大河の背中を見ながら、胸を押さえた。
この人は、ただ“すごい創造魔法使い”じゃない。
誰かの笑顔を、本気で作ろうとしてる。
――それが、きっと、わたしが惹かれる理由。
(きゃんにぃ……今日も、メタかっこいい……きゃん)
その瞬間、チョコが爆発した。
「ぎゃああ!? 温度上がりすぎてる!?」
「わ、わわっ、すぐ止めますきゃん!!!」
慌てて創造魔法の陣を再展開。
パッと光が散り、香ばしい煙が漂った。
……が、その煙の中から漂う香りは――とんでもなく美味しそうだった。
「……ん? これ……焦がしカラメル風味?」
「や、やっちゃった……でも、ちょっと食べてみますきゃん……」
一口。
「――おいしい!?!? 事故なのに進化してるきゃん!!」
大河が目を見開いた。
「ほぉ、失敗から生まれた極上の甘味……これは“創造の偶然性理論”の実証かもしれん!」
「理論の名前が長すぎるですきゃんにぃ!!」
リュミナが微笑みながら言った。
「メラニーちゃん、その味――出店メニューに追加しましょう。“焦がし祈りチョコ”として」
メラニーは目を輝かせた。
「ほ、ほんとですか!? きゃ、きゃんにぃ! 私のチョコ、売ってくれるんですか!?」
「当然だ。俺の弟子の創造は、全部世界トップクラスのレベルだからな」
「へっ!? で、でで弟子っ!? そ、そんな大それた……!!」
尻尾がぶんぶんと振れ、耳まで真っ赤に。
彼女は知らない――
その姿が、ロスウェルの通りを通る人々の心をどれほど癒していたかを。
【そして、甘い夜の幕開け】
魔導祭の夜。屋台の灯りが揺れ、甘い香りが月の下で溶けていく。
メラニーの“焦がし祈りチョコ”は予想以上の人気を集め、長蛇の列ができていた。
リオナが笑う。
「ふふん、ロスウェルの犬耳スイーツ職人、ここに爆誕だにゃ!」
「ちょ、ちょっと、そんな言い方恥ずかしいですきゃん!」
それでも、尻尾はしっかり嬉しそうに揺れていた。
遠くから大河の声。
「おーい、メラニー! お疲れ! これ、打ち上げ用に創った《TIGER MIX・Ver.SWEET! フルムーンエディション》!」
「わ、わきゃん!? す、すごい名前ですきゃん!」
月光の下で輝くチョコの結晶。
それは、まるで――小さな恋のように、甘く、ほろ苦かった。




