第38話 ロスウェル凱旋 ― 創造者、奇跡のポーションを作る!
――ロスウェル辺境都市。
あの地獄みたいな遺構戦から三日後。
大河たちは、子爵からの褒章とともにロスウェルへ凱旋していた。
街はすでに大騒ぎ。花びらの雨、音楽隊の行進、酒場は昼から満席。
「お兄にゃん! すっごいにゃ! みんな見てるのにゃ!」
リオナが両手をぶんぶん振る。
「やーば、俺たち完全に“凱旋パレード”じゃん! これ、異世界テンプレすぎて逆に感動してきた!」
大河は手を振りながら、にやけ顔を抑えきれない。
その隣では、リュミナスが聖女衣装のまま穏やかに微笑み、群衆に祈りを返していた。
まるで絵画から抜け出たような美しさに、周りの人々は――
息を呑み、ただその光に見惚れた。
金糸の髪が風に舞い、陽光を受けて聖紋のように輝く。
鈴の音のような祈りの声が響くたび、花弁がひとひら、空へと舞い上がる。
それは祝福だった。
灰に沈んだこの街に、ふたたび希望が息づくかのように。
そして、金髪のクール美女――アークは、
「……ワタシ、注目、苦手」
と呟いた瞬間、歓声が倍増した。
「苦手(視線独占)」
「完全にモデル歩きだな……!」
大河のツッコミが追いつかない。
◆ 酒場《焔の炉》にて
「いやー、改めて乾杯だな! 俺たち、この街、いや世界を救ったんだし!」
ジョッキを掲げ、大河が笑う。
「にゃははっ、ギルマスも筋肉びっくびっくでビックリしてたにゃ!」
「正式にBランク昇格だってさ、リオナ」
「やったにゃー!」
リオナが尻尾をふわふわ振りながら飛び跳ね、ジョッキを掲げた。
その横で、リュミナスは相変わらず上品に水杯を持ち、
「……お酒は、まだ体の構造が適応していませんから」
と微笑む。
「え、構造!? いま言い方がなんかメカっぽかったけど!?」
「気のせいです。聖女として、神の加護を維持するための調整です」
「……はい、聖女さんはそういう設定ということで!」
アークも横で無表情に肉を食べ続けている。
だがその食べ方が妙に上品で、周囲の視線を集めていた。
「アークさん、食べ方綺麗ですね」
「……戦闘データ。効率良ク、エネルギー摂取」
「うん、すごくロボ……いや、理知的ですね」
◆ 翌朝 ― “創造者の実験室”
「さて――異世界クラフトタイム、いってみよっかぁぁぁ!!」
大河が叫んだ。
ロスウェル郊外の褒章とともに貰った報奨金で購入した一軒家の一部を改造した実験室。
机の上には、薬草、魔石、精霊水、そして――
大河がその持てる最高峰の創造魔法を駆使して製作した四人のフィギア。
「……それ、必要なの?」
リュミナスが静かに聞く。
「いる! 創造魔法は“気分とテンション”が最重要なんだよ!」
「理論、崩壊」
「アーク! お前、そういうこと言うと奇跡が起きないんだぞ!?」
彼はいそいそとフィギアを東西南北に一体づつ配置しする。
並べ終わると同時におもむろに両手をかざし、魔法陣を展開。
「創造魔法・第七式――“素材再構成”!」
閃光が弾け、部屋中が虹色に染まる。
しばらくして――机の上に淡く光る瓶が現れた。
「できた……! “奇跡のポーション《エリクシル・ゼロ》”!!」
リオナが目を輝かせる。
「飲めば元気百倍にゃ!?」
「理論上は、ね!」
「理論上……?」
「実験体ニャ号、お願いしまーす!」
「ちょ、にゃ!? あ、あんたバカッにゃ? で、なんであたしにゃ!?」
ゴクッ。
リオナの耳と尻尾がピン!と奮い立つ。
「……にゃおおおおお!? からだが熱いにゃ!?」
「え、まさかの進化演出!?キタコレ」
リュミナスが分析を開始。
「……生体反応、急上昇。体内魔力が三倍……!」
「え、ちょ、それ強すぎでは!? 俺、またやっちゃいましたか?」
「またやっちゃいましたにゃっ......じゃないにゃ! 力が溢れるにゃーっ!!」
リオナが暴走し、机が吹き飛ぶ。
煙の中、大河は笑いながら頭をかいた。
「……うん、これぞ異世界クラフトあるある」
◆ 夜 ― 風呂場事件
ロスウェルの宿・共同浴場。
湯気の中でリュミナスが髪を洗い、アークは静かに湯に沈んでいた。
「……リュミナス、主ノ状態、安定?」
「はい。創造魔法による魔力干渉も今のところは問題なしです」
「良カッタ」
と、そこへ――
「ちょっとすみませんっ! 薬の確認だけっ!」
ドアが勢いよく開き、タオル一枚の大河が乱入。
「え、え、えっ!?」
「主――侵入、検知」
「うわあああ!? ごめんごめんごめんって! 違うんだこれは!」
リュミナスの顔が真っ赤になる。
「……創造者様、倫理プロトコル違反です!」
「え、AIっぽい!? いや、聖女的怒り!?」
アークが無言で桶を構え、
「排除」
「ぎゃああああああ」
――その夜、ロスウェルの一軒家にて再び轟音が響いたという。
◆ 深夜 ― ロスウェルの屋根の上
月光が灰銀に滲む。
リオナが耳を伏せ、静かに空を見上げていた。
耳の根元、古代の刻印が淡く光る。
「……この紋、なんなんだろ……」
風が吹き、彼女のツインテが揺れる。
その光を見上げながら、大河は心の奥で呟いた。
(あの刻印……ただの魔法紋じゃない。まるで、“誰かの祈り”が刻まれてるみたいだ)
聖女リュミナスの声が、遠くから届く。
「……灰銀の祈り。それは、かつて“神すら創った者たち”の印……」
アークの瞳がわずかに輝いた。
「予兆。近イ内ニ、ナニカ起コル」
大河は空を見上げて笑う。
「よし。じゃあ次は――その“何か”を、創りで迎え撃つ!」
彼の創造魔法陣が、夜空に淡く灯る。
――異世界クラフト物語は、まだまだ暴走中である。




