第33話 封印遺跡の覚醒 ― 灰の群体、祈りの聖域
――辺境都市ロスウェルに夜の帳がおりる頃。
空は曇天、二つの月は灰色に濁り、街の外壁が低く震えた。
その地鳴りの下、古代遺跡の封印回路が唸りを上げている。
そして、門の外から吹き込む風には――
“灰”の匂いが混じっていた。
「……ミーネさん。この遺構、もう動き出したのか?」
タイガの問いに、副ギルドマスターのミーネが頷く。
紫の瞳が淡く光る。
「封印層の反応は想定より早い。地下から“灰の群体”が這い出している。おそらく前哨体――《灰の追跡者》の変異型よ」
「前哨体……つまり、群れで来るってことか」
タイガの声が低くなる。
「にゃ……やな予感しかしないにゃ……」
リオナの尻尾が、ピンと立って震えている。
「灰ノ反応、東側ノ防壁沿イ。二百……三百体ヲ超エル反応」
アークが即座に報告する。
淡々とした声だが、数値は洒落になっていない。
「三百体!? それもう初戦“チュートリアルの規模”じゃねえ!! 完全に高難易度レイドボス前イベントだろこれ!!」
思わず叫んだタイガに、リオナが抗議の声をあげる。
「お兄にゃん、現実逃避禁止にゃ!!」
「いやわかってるけどさ!? だってこれ、死亡フラグ立ちまくりパターンだろ!!?」
「……タイガ、フラグ管理より、前線維持を優先してください」
「リュミナスぅぅ!! それメタ的に正論すぎ!!」
少しの笑いと緊張が交錯する中、空気が震えた。
地平の向こう、暗闇の中から――灰色の霧が湧き上がる。
それは、人の形をしていた。
けれど、人ではない。
光のない瞳、崩れかけた皮膚、動力音のような低い唸り。
“灰の追跡者”の群体――それが、タイガたちを包囲する。
「各自、配置につけ! リオナは右翼、アークは防壁補強! リュミナ、支援結界を!」
タイガが叫ぶと同時に、創造魔法陣が地を走る。
橙の光が大地に刻まれ、刃のようなエネルギーが形を成した。
《創造魔法――TIGER DRIVE:展開モード》
拳から噴き出す光が、双爪の形に変化していく。
左右対称の魔力軌跡が炎のように揺れ、鋭い閃光が走った。
「……来いよ、“灰のテンプレモブ”ども。今夜は俺が主人公だ――!」
その瞬間、灰の群体が一斉に突撃する。
轟音、爆炎、そして閃光。
ロスウェルの街に、地獄のような光景が広がった。
「《双爪展開・TIGER DRIVE Ver.second》ッ!!」
大河の両腕が赤橙に輝き、空気を裂く。
衝撃波が前方へ奔流のように流れ、灰の群体をまとめて吹き飛ばした。
光の軌跡が虎の形を描き、咆哮のような魔力が大地を震わせる。
「な、なにこれ……火力バグってるにゃ!!」
「Ver.second、双爪同時駆動成功……戦闘効率、前回比一八三%向上」
アークが冷静に補足する。
「よっしゃ! 創造魔法ってレベル上げ早いな! あ、俺、今完全にスキル開放イベント入ってる!!」
タイガのテンションは限界突破していたが――
その背後、リュミナスの祈りが世界を包み込んでいた。
彼女の瞳が、灰色から白金色に染まっていく。
その瞬間、空が光に染まった。
「……願わくば、この地に救いを――」
祈りの形態発動。
光の輪がロスウェル全域を覆い、灰の群体が徐々に崩れ落ちていく。
まるで、神の声に呼応するように。
「……うそ、灰が……消えてく……」
リオナが呟いた。
アークが解析する。
「灰の因子、分解確認。……リュミナス、ノ祈リ――創造因子」
タイガはその光景を見つめながら、拳を握った。
胸の奥が熱くなる。
(……創造魔法。リュミナスの“祈り”と、俺の“創造”が共鳴してる……?)
その時、リュミナスが振り返り、微笑んだ。
淡い光の中で、その姿はまるで――神話の聖女のようだった。
「……大丈夫。あなたが“創造”する限り、私は祈れる。もう倒れたりはしない」
「――っ……!!」
大河の胸が、強く脈打った。
その一瞬、空から灰色の影が落ちてきた。
巨大な影――群体の“核”。
「来たか……真打ち、レイドボス!」
タイガが前に出る。
「創造魔法、臨界解放――《TIGER DRIVE Ver.second:獣神解放》ッ!!」
光の爪が、夜空を裂く。
轟音が、ロスウェル全域を揺らした。
戦いが終わったのは、夜明け直前だった。
街は燃え、灰は散り、そして――光が残った。
祈りと創造が交差した夜。
誰もが、その名を覚えた。
《創造魔法の使い手・タイガ=トラノモン》
《祈りの聖女・リュミナ=クロウ》
《機装戦乙女・アーク》
《腹ペコ猫耳・リオナ》
そしてこの日、彼らの戦いは、封印のさらに“下層”に眠る存在を呼び覚ますことになる。




