第28話 聖女の祈りが夜を照らす 紅涙と祈りの村事件解決!
夕暮れの村を、風が渡る。
リュミナスの治癒で命を取り留めた村人たちは、涙を流しながら感謝するも、まだ魔物に襲われた恐怖の色を消せずにいた。
焦げた家々、引き裂かれた畑、そして地面に残る黒い爪痕。
それは明らかに、ただの魔物の襲撃ではなかった。
「タイガ、お兄にゃん。こっちにゃ。変なにおいがするにゃ」
リオナが鼻をひくひくさせ、倒壊した納屋の裏を指さした。
そこには――灰色に固まった“血のような結晶”があった。
ただの血ではない。魔力が凝固し、鉱石化している。
「……なにこれ。完全に“ゲームでイベント後に調べるとフラグ立つタイプのアイテム”じゃん」
タイガがしゃがみ込み、クラフトツールを展開する。
スキャン用の魔導結晶が淡く光る。
「魔力反応検出。……あー、やっぱり。これは“自然発生型じゃない”。魔物誘導用の瘴気共鳴石だな」
「共鳴石……つまり誰かが、村に魔物を呼んだにゃ?」
リオナの耳がぴんと立つ。
アークが無機質な声で補足する。
「分析結果――共鳴石ニ刻印。灰紋コード・A-13。昨日交戦シタ“灰の追跡者”ト一致」
「マジか……! ってことは、あいつらまだ生き残りがいるってことか」
タイガの目が鋭く光る。
「この村……狙われてるぞ。パーティ全員、戦闘準備――!」
「待ってください」
リュミナスの声が、柔らかくも張り詰めて響いた。
彼女は共鳴石をそっと両手に包み、目を閉じる。
光が、滲む。
まるで“祈り”が石そのものに染み渡っていくようだった。
「……灰の声が、聞こえます」
「え、その灰もしかしてしゃべる系!?」
タイガが実況調に身を乗り出す。
「――“還れ、主の血へ”。“封ぜられた灰滅の王を、再び呼び覚ませ”」
その瞬間、共鳴石が砕けた。
空気が震える。
地の底から、低い唸りが響く。
「……おいおいおいおい、まさかの封印イベント発動!? しかも中盤初頭でそれは早すぎるだろ脚本ォ!」
タイガが慌てて武器を構える。
リオナもキョロキョロしながらも短剣を抜く。
「お兄にゃん、地面が……動いてるにゃ!」
土が割れ、暗黒の腕が這い出した。
灰の瘴気が再び村を包む。
その形は――狼。
だが、影でできたような、不完全な姿。
「コード解析:未完再生体(Incomplete Revenger)――灰獣」
アークが即座にデータを投射する。
「つまり、限定ボス登場ってわけか! おっけー、バトルBGM再生準備! みんな、位置取れ!」
「主、指示。殲滅?」
「もちろん! アーク頼む! 盾役任せた!」
「了解――防衛シールド展開」
金属音とともにアークの背部から魔導盾が展開され、村人たちを守るように壁を作る。
リオナが素早く駆け出し、影の足元に短剣を突き立てる。
「お兄にゃん、今にゃ!」
「行くぜ――《クラフトギア・チャージ》ッ!」
タイガの腰部装置が光を放ち、武器が形を変える。
炎と魔力が螺旋を描き、彼の手に巨大なハンマーが現れる。
「“修復の手で破壊を紡ぐ”――これぞクラフト職人の浪漫ッ!!」
ハンマーが振り下ろされ、灰獣の身体が砕ける。
だが、影は消えず、再び形を取り戻した。
「無限再生タイプか!? うわ、これ嫌われボスだ!」
その時――リュミナスが前に出た。
風が、彼女の銀髪を揺らす。
「……私が、終わらせます」
彼女の瞳が、光のように輝く。
胸の奥から、静かな声が響いた。
――《祈りの刻印(Signum of Grace)》解放。
天が裂けるような光が降り注ぎ、灰獣を包む。
光と闇がぶつかり合い、世界が一瞬、白に染まる。
やがて――影は静かに崩れ、消えた。
静寂。
鳥の鳴き声が、ようやく戻ってくる。
「……っはぁぁぁ……演出神ぃぃ!! これは完全に“OPラスサビで新スキル解禁+光演出入りカット”のタイミングじゃん!!」
タイガが感極まって叫ぶ。
「主、感情過多。冷却推奨」
「うるせぇアーク、これは魂がとんでもなく燃えるやつなんだよ!!」
リオナが安堵したように地面にぺたんと座り込む。
「ふにゃぁ……お腹すいたにゃ。にゃんか、戦うとすぐお腹減るにゃ」
リュミナスは微笑んで、彼女の頭を優しく撫でた。
「あなたの笑顔がある限り、闇も怖くありません」
その言葉に、タイガの胸がまた熱くなる。
「……ああもう、尊すぎる……“AI聖女×獣耳娘×機装乙女×クラフト職人=癒し属性トリニティ構成”が強すぎる……」
「……お兄にゃんもカッコいいんだけど......メタすぎるのが考えもんにゃー」
アークですら小さく頷く、いつもの景色がそこにはあった。




