第14話 黄昏の街道と救済の咆哮――TIGER GATE、二度目の咆哮!
丘を抜けた先――そこに広がるのは、砕けた石畳と折れた街道標。
夕ぐれに染まる空の下、馬車が横倒しになり、火花が散っていた。
「……案の定、イベント発生中。完全に“序盤救出クエスト”のテンプレ構図」
《敵反応、十一体。人間種。武装は粗末ですが……魔力感知あり。半数が“強化薬”投与状態です》
「はい出ました! 雑魚強化型チンピラ! これもうバトルチュートリアル二周目だろ!」
アーク・ゴーレムの巨影が丘を越え、地を震わせて降り立つ。
その姿を見た盗賊たちは、一瞬で硬直した。
「な、なんだあのデカブツ……!?」
「バケモンじゃねぇか!」
そのとき――。
「た、助けてニャああああッ!」
甲高い声が響いた。
倒れた馬車の陰から飛び出したのは、灰銀色の髪をツインテに束ねた少女。
大きな猫耳がぴんと立ち、尻尾が必死にバランスを取っている。
軽装の革鎧に、胸元にきらめくギルドカード。
瞳は琥珀色。光を受けるたび、獣のように揺らめいた。
――猫獣人。
種としては希少。俊敏さと嗅覚に優れるが、体格は人間より少し小柄。
「え、猫耳!? しかもツインテ!? この世界、推し生成ガチャ搭載してたの!?」
《落ち着いてください。命の危険が――》
「無理! こんなん見たら助ける一択だろ!」
タイガは駆け出した。
橙に染まった髪が風を裂き、TIGER GATEの紋章が脚に展開されていく。
「アーク! あいつらを分断! 俺は前衛突撃!」
《了解。戦闘指令、展開。護衛体制――形成》
巨体が轟音を立て、地を蹴る。
衝撃波のような一歩で盗賊たちが吹き飛んだ。
「化け物だッ!」
「逃げろ!」
《逃走不能圏、展開。……封鎖完了》
「神殿の結界スキルかよ!? 範囲指定完璧すぎんだろアーク!」
大河は盗賊の刃を受け流し、拳を放つ。
瞬間――拳の表面に橙の紋章が浮かび、衝撃波が走った。
盗賊が吹き飛び、地面に突き刺さる。
「っはぁ……! まるで“スキル:虎掌爆”って感じだな!」
《命名、登録されました。“虎掌爆”――近接打撃時、局所魔力開放スキルとして保存します》
「おお!? 即スキル化!? イヴ、UI親切設計すぎる!」
《ありがとうございます。……でも、気を抜かないでください》
最後の一人が背後から飛びかかる。
しかし、それより速く、アークの影が覆いかぶさった。
巨人の掌がそっと盗賊を掴み上げる。
《敵、制圧完了。死傷者無。拘束完了》
「ナイス、アーク! 平和主義モードのままいけたな!」
息を吐きながら、タイガは振り返る。
そこに――猫耳の少女がいた。
腹に怪我でも負ったのかぐっと押さえ、じっとタイガを見上げている。
金色の瞳が、怯えと安堵のあいだで揺れた。
「た、助かったにゃ……。ほんとに……ありがとにゃ……!」
その声は柔らかく、どこか人懐っこい。
「……猫語尾、実装済み!? そしてあざと可愛い上目遣い......いやいや、尊すぎんかそれ!」
《落ち着いてください、タイガ。……脈拍が、上がりすぎです》
「だって仕方ねぇだろ!? このビジュアルと語尾、完全にヒロイン枠だぞ!」
少女はぱちぱちと瞬きをして、首を傾げた。
「にゃ? ヒロインって……なんのことにゃ?」
「いや、気にすんな! とりあえず怪我は?」
「ちょっと擦りむいたくらいにゃ。でも……お腹が、お腹が、もう限界にや……」
――ぐぅうううぅ。
大地を震わせるほどの腹の音。
「音圧つよ!? え、空腹スキルLvMAXてか!?」
《生命活動、低下傾向。栄養補給を推奨します》
「だよな……。イヴ、創造メニュー“簡易食糧パック”展開!」
《展開完了。……出来立て、温度適正》
光が収束し、温かなスープと焼きパンが出現した。
少女――リオナは、目を丸くして両手を伸ばす。
「な、なにこれ!? 目の前で料理が出たにゃ!? 魔法!? 召喚!? うわぁぁああ! すごいニャああ!」
「創造スキルな。まあ、いわゆる“クラフト厨”の究極系だ」
リオナはぱくぱくと食べ、尻尾をぱたぱた揺らす。
まるで子猫のように幸せそうに。
「おいしいにゃ……! 生き返るにゃぁ……!」
タイガは苦笑しながらも、どこか胸が温かくなった。
《……あなたは、また“創った”のですね》
「え?」
《この子の命を。食と、安心を。……それも、創造の一部です》
イヴの声は、まるで祈るように静かだった。
「……そっか。破壊の裏返しが、創造なら――こういう“救うための創造”も、間違いじゃないよな」
《記録します。創造者の行動指針――“創造は、人を救うために”》
風が吹き、焚き火が揺れた。
リオナは満腹そうにあくびをして、尻尾を丸めた。
「ニャふぅ……お兄ちゃん、あったかいにゃ……。もう少し、そばにいていいにゃ?」
「……お、お兄ちゃん!? ちょ、ちょっと語彙攻撃があまりに強すぎるぞ!?」
《……タイガ、鼓動上昇。安定化呼吸を推奨します》
「イヴ! お前絶対わかって言ってるだろそれ!」
笑い声と星明かりが、静かな夜を包んでいった。
――こうして、“創造者タイガ”の旅路に、 新たな仲間“リオナ”が加わったのだった。




