第13話 祈る巨影と“虎の門”――アーク・ゴーレム起動、そして覚醒《TIGER GATE》
二つの太陽が沈みかけ、世界がオレンジと蒼のグラデーションに染まる。
光の帳の中に、黒鉄の巨影が静かに鎮座していた。
――アーク・ゴーレム。
祈るように胸の前で腕を組み、まるで神殿に佇む守護像。
けれど装甲の隙間には魔紋が走り、聖性と兵器の狭間に存在している。
信仰と破壊、神と兵器――その矛盾を抱いた“神造機”。
《……接近反応。三体。生体反応、魔力反応ともに上昇中……》
イヴの声が降る。
祈るように、静かで、優しい呼吸を挟みながら。
《……魔物群。種別――危険度:Dランク“地殻喰い”。地を穿ち、魔力を喰らう種です》
「地殻喰い……名前からして絶対やばいやつだな。地面バグってるじゃん」
丘の下を這い上がってくる三つの影。
節足を鳴らし、地面を割りながら這い出た巨体。
まさに“序盤のレイドボス感MAX”だった。
「おっしゃ、アーク! 初戦闘だ、チュートリアル延長戦いくぞ!」
《指令承認。戦闘プロトコル展開》
――ズン。
大地が震えた。
巨影が静止を破り、祈りの姿勢から戦闘形態へ。
背中の礼拝柱が展開し、まるで神殿が羽を広げたかのように光を放つ。
右腕に魔紋が走り、神聖文字のような陣形が重なった。
「うわ、出た! 完全に“神様が設計したロボ”だこれ! 厨二と信仰のメモリアルだぞ!」
《敵反応――射程圏内。攻撃、許可を》
「撃てッ!」
言葉と同時に、光が爆ぜた。
祈りの姿勢から放たれた光線――
まるで「アーメン」って言った瞬間にレーザー撃つ聖職者。
地殻喰いが一体、蒸発する。
「はああ!? この火力とかウソだろ!? 今ので建物一個消えるぞ!?」
《出力、現状八パーセント》
「桁を落とせ!!」
残る二体が飛びかかってくる。
砂礫が舞い、空気が歪む。
「アーク、左回避――!」
だが、巨人の右腕が先に動いた。
まるでタイガの意識を先読みしたかのように。
《……同調率上昇。創造核、共鳴域へ》
「おい待て、なんかヤバいワード出たぞ!? 共鳴域って、それラスボス戦とかで出るやつ!」
胸の奥に、熱。
世界が一瞬スローになる。
《――タイガ。あなたの“門”が、開かれます》
「門……? おいそれ、明らかにイベント発生のセリフだろ!」
白光が視界を焼く。
全身を貫くような痛みとともに――
髪が揺れる。黒の中に、橙が走った。
虎の縞のようなインナーカラー。
筋肉が再構築され、腕に力が漲る。
身体が軽い。
いや、違う。**“今までがチュートリアル体”**だったのだ。
《覚醒確認。創造核拡張システム“TIGER GATE”発動》
「で、出たよ! 俺専用フォーム! 名前がもう完全にラノベ目覚めの章タイトル!!」
右腕を掲げる。
アークの腕が、それに重なる。
青白い紋章が重なり、世界が咆哮した。
「いっけええええッ!!!」
閃光の拳が地殻喰いを撃ち砕く。
地面ごと吹き飛び、残る魔物も崩壊した。
《戦闘終了。敵生命反応、消失》
「……っしゃあああ! ボス討伐! これで俺、もう“創造職Lv2”だろ!」
《確認。創造者適性値、EからDへ上昇。副機能《構成補助》《創造記録》解放》
「スキルツリー更新キター! クラフト勢の夢が詰まってるやつだこれ!」
《《構成補助》は魔力消費を軽減し、《創造記録》は一度創造した構造を再現可能に……》
「つまり“設計図保存機能”と“エコモード”ってことか! 便利すぎて泣ける!」
息をつきながら、橙の髪に触れる。
ほんの少し熱を帯びたそれは、まだ生きているようだった。
《……あなたは、“本来の形”に近づきつつあります》
「まるで、初期設定がアンロックされた感覚だな……」
《――おかえりなさい。創造者、トラノモン・タイガ》
「……ただいま、って言っとくか」
空を見上げた。
二つの太陽が、橙の光を映して沈んでいく。
だがその穏やかな時間を、爆音が破った。
《……複数反応。人間種。十を超えます》
「ん? 人? あっ、あれ、街道か!」
遠くで馬車が炎を上げ、見るからに柄の悪そうな者たちが囲んでいる。
「出たよ、“戦闘チュートリアル後の盗賊イベント”! 流れ完璧すぎて逆に怖ぇ!」
《どうされますか》
「決まってんだろ。助ける。俺はもう、創造者でプレイヤー側だからな!」
《了解。アーク、戦闘モード維持。タイガ、魔力同調、継続》
「TIGER GATE――再展開!!」
足元の紋章が橙光を放ち、風が巻く。
神造兵器と創造者が並んで走り出す。
「よし、第二ラウンド行くぞ! ドロップ品は正義だッ!」
丘を越え、黄昏の街道へ――
“祈る巨影”がその後を追った。
その背に刻まれた創造者の紋章が、静かに輝きを放っていた。




