第82話 喰らおうとするものは喰われる覚悟がある者
赤火さんを置いていこうとした時、頭上から唸り声が聞こえてきた。
「グルルルル……」
「間に合わなかったか……!」
「ぴよぉ~……」
いや本気で置いていく訳ないって。そんなことより……。
「こんにちは、誇り高きドラゴン様。僕の名前は凜音、会えて嬉しいです!」
「グルルルル……?」
「わぁ、そんなこと言って頂けるなんて光栄です! いやー、ドラゴン様に会えるだなんて、僕はラッキーだなぁ!」
「ぴ?」
マフリルが不思議そうな顔をしているが、気にしたら負けだ。
「いやぁ、立派な牙に涎まで垂らして……お食事の邪魔をしちゃったみたいですかね? どうぞ、我々のことなど気になさらず……」
ギガノトさんの後に現れたのは、更に巨大でしかも翼が生えてる……つまりドラゴンだった。
白い体に全身魔力密度の濃い鱗に覆われ、口なんか俺を丸呑みにしても余るほどの大きさ。
しかしこのドラゴン、ファンタジーと違って全く意思疎通できないじゃないか。糞トカゲ野郎め。
「ギャアアアアアォォォオオオオーーーン!!!」
「ちっ! “頭を垂れろ”“汝ら導く”“世界の終わり”『魔力武装』!」
「ぴーーーっ!!!」
内心がにじみ出てしまったのか、糞トカゲ――ドラゴン様が怒りの咆哮を上げる。さすがにふざけてられないので臨戦態勢に。
「――凜音! この声は……ド、ドドドドラゴン!?」
「赤火さん、ちょうどよかった! アレ捕まえて!」
「――!? ~~~! ………………わ、わかった……」
わかってくれた!? ワンチャンペットにできる可能性あり!?
「い、行くぞ糞ドラゴンがっ! オレの力にビビってチビるんじゃねぇぞ? くっせぇだろうからなぁ!!!」
「グガァァァァーッ!!!」
すげぇ、すげぇや赤火さん! ドラゴン相手に1歩も怯んでない!
「“赤き翼”“天高く舞え”『紅蓮灼火』!」
「グォ!?」
昇格試験の時には結局見られなかった赤火さんの第2聖句! 炎の翼が更に大きく燃え広がってドラゴンを包み込む! こっちまでめっちゃ熱い!
「オレの炎はレベル10相当! 最強クラスだ! いくらドラゴンだろうと無事な訳ねぇっ!」
「――バォォォオオオ!」
「んなぁっ!?」
しかしドラゴンが大きな口を開けると、赤火さんの炎はどんどん吸い込まれていってしまう。
「マジ……? ってやべぇっ!」
「ガァァァアアアア!!!」
「――ちっ!」
吸った後は当然吐き出す……赤火さんの『紅蓮灼火』を更に圧縮したような濃密な魔力の炎がドラゴンの口から吐き出される! 石火さんを抱えて横っ飛び。間一髪ブレスは回避するが……。
「ヤバっ!」
「な、何だこりゃあ……」
ブレスの通った跡は……何も残っていなかった。かろうじて周辺の木々が燻っているのだけが残っている。
「全部吹き飛んだんだ……!」
「お、おいおい! こりゃ山火事待ったなしだぞ!」
それももちろんヤバいけど、今は目の前のドラゴンだ。
「先手必勝! うらぁ!」
「グルッ!?」
手に荷物を抱えながらドラゴンの顎を思いっきり蹴り上げるが……重い! まるで鉛を蹴ってるような感覚!
「ガァァァッ!
「あぶっ!」
大してダメージを負っていない様子のドラゴンが、そのまま噛みついてくる!
口の側面を蹴り、何とか回避に成功するが即座にドラゴンの右腕が鋭い音を立てて迫って来ていた。
「凜音!」
「――っ!」
「ぴっ!」
仕方がなく赤火さんを抱きかかえ、受けるための体制を取ろうとしたが、マフリルが魔法陣を展開。ドラゴンの爪を弾いてくれた。
「助かったよ、マフリル!」
「ぴよ!」
一瞬の攻防が終わり、ドラゴンから少し距離を取り呼吸を整える。マフリルは腕に抱えた荷物より役に立つな。
「しかし……どうしたものか」
「凜音! この体勢、恐ろしい魔物から守って貰っているお姫様みたいだな!」
「……」
確かにお姫様抱っこの形ではあるが……こいつをドラゴンに向かって放り投げてやろうか。
「凜音、落ち着け。ドラゴンだからと恐れるな。気楽にやればいいんだ」
「……」
「緊張していたら実力をだせないぞ! なぁに、いざとなったら私が囮になってやる。お前は気にせず戦え」
確かに……初めて会うドラゴン相手に少し浮足立っていたかも知れないな。さすがはSランク探索者、戦いに対する心構えを説かれるとは。
「……よし! 気楽に行こう」
「ああ、その意気――あぁ!? あぁぁぁーーー!?」
ということで抱えていた赤火さんを後ろに放り投げ……戦闘再開だ!
「グルルル……」
こちらを待っていてくれたらしいドラゴンも待ちきれない様子。
「こいよ、糞トカゲ。お前を倒して、俺はドラゴンスレイヤーになる!」
「グルッ!? ギャアアオオオォォーーーン!」
プッツン状態のドラゴンが怒りに任せて突っ込んでくる。しかし俺の右手にはフランバスター!
「はぁっ!」
「――ッ!?」
大口を開けたドラゴンの口を上段から思いっきり剣を叩きつける。切断は叶わない。
間髪いれずに振るわれる爪を剣で弾く。爪が欠けたが後方に弾き飛ばされる。
口からブレスが漏れる――吐き出される前に頭の下に潜り込んで思いっきり殴り上げる。
尻尾の叩きつけはフランバスターで防ぎ、切り落とすことに成功。
「ギャアアオオオーーーン!?」
「え、ええ……?」
ドラゴンの悲鳴と、後ろから何やら呆れる声が聞こえる。
「……グルルルッ!」
「あ、逃げるな! 卑怯者!」
空に飛び立つドラゴン、しかし空中で静止してこちらを睨みつける。
「逃げたんじゃない! 空からの魔法攻撃だ!」
「む……」
確かに、マフリルが魔法を使う時のように魔法陣が見える。それに加えて口からブレスを吐く予兆も見られる。
しかし遅い! どうせ俺が飛べないだろうと油断してるな?
「対空攻撃魔法発動……『リバースメテオ』」
「ギャン!?」
一握りの魔鉄の塊が、空を昇る星のようにドラゴンを貫く。
「何だ……何を……リバースメテオ?」
「これが俺の隠され遠距離攻撃魔法……!」
もちろん、魔鉄ゴーレムの残骸である。
しかしこれはただの魔鉄の塊ではない! フランに頼んで投げやすさや空気抵抗と重さのバランスを研究して作られた特別性! まさにフランと俺の共同作業! もはやックス!
そうだ、フランと言えばランチョン出すの忘れてた。今のうちに出しとこ。
「ガッ……ギャアア……」
ズドンという音を立て、ドラゴンが地面に落ちる。まだ生きてはいるようだが、胸を貫かれて……とても痛そうだ。
「『凜音様! ダンジョン到達が遅れるとのことでしたが……え?』」
いけない、一応予定が遅れるとメッセージは送っていたがさすがに遅すぎたようだ。心配かけちゃったな。
「『ド!? ドドドドぉ~~~!?』」
「フラン、連絡が遅くなってごめんね。お詫びに、今日はドラゴン肉でバーベキューだよ!」
「『ふ、ふぇぇぇぇーーー!?』」
マイク越しにまひるちゃんの声も聞こえるね。よかった、ドラゴン肉を喜んでくれているみたいだ。
「さて……最後に言いたいことは?」
「グルルル……」
「……そうか、俺もお前と戦えて光栄だったよ」
そういいながら首を切り落とす。もちろん最後まで言葉は通じなかった。




