第81話 赤い他人より自分の安全
俺は今、マフリルとともにとある場所に来ている。
それは――。
「かぁーっ! よくもまぁこんな遠くまで来るもんだなーっ!」
「ぴよっ!」
「魔人とも出会ったんだろ? あんまし危険区の奥にまで行くなよなー!」
「ぴよよっ!」
「ま、今回はオレがいるからいいけどよぉ! 何があっても守ってやるからなー!」
「ぴよよよっ!」
そう、ダンジョン破壊のために危険区まで魔法で成長したマフリルに乗って行こうとしたところ……途中で『紅蓮の戦処女』の赤火さんに追いつかれたのだ。空中で。飛べるんかい。
「位置的には……どこだここ。海が見えるな!」
「……旧和歌山県と言ってわかります?」
「? わからん!」
やだ、この人星奈さんと同じ香りがする……!
「以前魔人と出会った滋賀県よりも奥ですね」
といっても、俺だってこんな遠くまで来るつもりはなかった。マフリルがこの人から逃げようとした結果なのだ。
ちなみに危険区との境界は、西のは滋賀、三重。東のは福島、新潟だよ!
「……なるほどな。そこかしこからモンスターの気配を感じる」
「最早未開の地、ジャングルみたいですものね」
育ちに育った木々や草。時折聞こえるウルフ種の遠吠え。ここは人間のいる場所じゃないぞと言われている気すらする。
しかし反対に、所々に見えるコンクリート製の建物の跡が、ここはかつて人間のものだったことを示していた。
「では戻りましょうか」
「うぉい! 戻るんなら何でこんなところまで来たんだよぉっ!」
「あなたから逃れるためです」
「……」
怖かったよね、マフリル……まひるちゃんにこのこと話したら殺しにかかられると思うよ。
「す、すまない……ついお前を見かけてしまって……」
「……自宅のビルから飛び立って割とすぐ見つかった気がするんですが……どこにいたんですか?」
「……お前の家の裏でアルバイトしてて……そこでな……」
この人、裏山の工事に関わってたんだ……。
「ぴよっ! ぴよぴよぴよ!」
「ん? そうだね、怖い人ではないよ。一応、多分、恐らく」
「うぉい! オレは怖かねぇぞ!」
その大声が既に怖いけどね。
「今日だって……お前……オレは……」
「心配だったからついてきた、ですか」
「……そうだ」
とは言えなー……何度もこんなことされると予定も狂う。ここどこだよ。森だよ。
「はっきり言って迷惑です。結果もこんなですし、そもそもこの子と2人で出たのには理由がありますし……その気持ちだけ頂戴しておきます」
「ぐぬぅっ……す、すまなかった……」
「ぴよぴよ♪」
マフリルが慰めるように羽で頭を叩く。
「……その、せっかくならこの辺でダンジョンを探して一緒に行かないか? 詫びと言っては何だが、オレが道中の敵を――」
「結構です。どこともわからない場所で危ないことをしたくありませんので」
「おまっ! それが探索者のセリフかよっ!」
「はい」
そう、危険を犯してでも手に入れたいものなどない! 探索者だってなりたくてなった訳じゃない!
「……そうか。なら……どうすれば汚名挽回の機会を貰える?」
「それは……」
多分名誉挽回のことだろうか。いずれにせよ本人に聞くもんじゃないと思う。
「……はぁ、別にいいんですよ。今度から控えてくれれば。さ、一緒に帰りましょう!」
「……本当か? もう怒ってないか?」
「怒ってないです」
「そっかー! 良かっ――」
「うぼぉぉっ!」
ん?
「ちょっと赤火さん、ゴリラみたいな大声やめてくださいってば」
「オレじゃねぇよ! いくらなんでも失礼すぎるだろ!」
「うぼおおっ! うほっほぉぉぉー!」
確かに、よく聞けば赤火さんの後方から声が聞こえてくる。同時に地面を震わすような足音も。
「うぼっ! うっぼぉぉ!」
「な、なんだこいつ! 恐竜?」
「ぴ、ぴよぉ~……」
そしてその声の主の姿が視界に入る距離に。そいつは、トリケラトプスだった
顔の大きさだけで俺と同じくらい、全長は5メートル位だろうか。よく図鑑で見るようなトリケラトプス。こいつもモンスターなのか?
「うぼぼっ! うぼっぼ~!」
「おいおいおい! こっちに突進してくんぞ!」
「赤火さん、捕まえてください! それで名誉が回復されます!」
恐竜……テイムしたい! せめてペットに!
「よし任せろ! まずはアイツの動きを――ぐべぇぇぇっ!?」
「赤火さぁーーーん!」
「ぴよーーー!」
普通に踏みつけられた! なんで正面に立つんだよ! バカじゃないの!?
「うぼっうぼっ! うぼぼぼぼぉーーー!」
「あ、あれ……?」
しかしトリケラトプスもそんな些事などどうでもいいとばかりに、猛烈な勢いのまま俺らの前を走り抜けていく。
「なんだってんだ……ん?」
「ぴよ?」
しかしその答えはすぐに分かった。
彼を追いかける存在がいたのだ。トリケラトプスの倍以上はあるであろう存在が。大きな口に、涎を飛び散らせながら、まるで動き回るご飯を追いかけているような様子で。
「ギャォォォーーーン!!!」
「わぁ」
「――っぴ!」
「こ、これは……ティラノサウルスか!?」
……違う!
「いえ恐らくギガノトサウルス! 化石発見当初はティラノを超える最大の肉食恐竜と言われていましたが、実際は同じくらいか少し小さい、さらに体格で言えばティラノに全然及ばないという残念な恐竜です! 名前負け恐竜と言われることもありますがやはりかっこいい名前! 赤火さん、捕まえてください!」
「よし任せ――ぬわぁぁぁーーー!」
「赤火さぁーーーん!」
「ぴよーーー!」
普通にふっとばされてった! だからさっきから何で正面に立つんだよ!
「……さて」
どうも今の恐竜……元の世界と同様の存在とは言えないだろうが、見た目恐竜は何かから逃げているような走り方だった。
もしかしたら、より強力な何かが迫っているのかも知れない。
「……よし、急いで帰ろう」
「ぴよっ!? ぴよよよよ!」
え、赤火さんを放っとくのかって? そうだよ。




