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第79話 少しだけ遅い再会


 翌日。


 俺は今、真世さんに連れられてとある道を歩いている。


 星奈さんは再び病院へ連れてかれたので今日はオフだ。

 さすがにあの戦闘で受けたダメージは看過(かんか)できないということで強制的に連れて行かれたのだ。

 本人は例の件で病院嫌いになってしまったらしいので、産婦人科に行くと(だま)されているが。


「まさか『りおっちとの子どもができてるかもだよっ☆』という嘘に騙されるとは思いもしませんでしたが……」

「ねー……」


 星奈さんも泣きそうな顔で嬉しそうにしてたので、さすがに罪悪感が半端(はんぱ)ない。

 嘘をついた当事者のミコさんも、それを見てかなり落ち込んでいたし。


「まぁ、星奈さんのためを想った嘘だってことで……」

「ええ。それに焦らなくてもいずれは……ふふ」

 だから意味深な顔でお腹を撫でるのやめてってば!




「さて、着きましたね」

「ここは……それに、あの方たちは――」


 軽い山道の途中、ある程度草木が整備されて開けたスペースの端にポツンとある洞窟(どうくつ)――まぁダンジョンだろう。 

 そこの前にいたのは2人の女性。


「ひ、久しぶりだわ!」

「ご足労(そくろう)頂きありがとうございます」

 以前フランに会わせられた女性、園ヶ浦(そのがうら)撫子(なでしこ)さんとそのお付の和製メイド、和葉(かずは)さんだ。


「……こんにちは! お待たせしたようですみません!」

 実際は今日会うなんて聞いてなかったけども。ていうか今日学校じゃないの?


「そんなことないわ。私もちょうど今きたところだわ」

 それはさすがに嘘だろうけど。道中もこの場所周辺も、誰も見かけてないし。ついでに真世さんの姿もいつの間にか消えたんだが。


「ふふ、ありがとうございます」

「何のことかしら。さぁ、早速行くわ!」

 ずんずんとダンジョンに向かって進もうとする撫子さんだが――。


「あらすみませんお嬢様。少し急用が入ったので私はここで失礼しますね」

「……え?」

「凜音様、どうかお嬢様を末永くよろしくお願いします」

 そう言って俺の手を取り、撫子さんの手に(つな)げる和葉さん。


「ちょっ! 和葉!?」

「傷物にして頂いて構いませんが、誰かに傷物にされないようにお願いします。それでは失礼致します」

 最後にとんでもないことを言って去って行ったのだが。


「……行きましょうか」

「は、ははははははいぃ~……」

 さっきまでの堂々とした振る舞いはどこへやら、以前のような挙動不審(きょどうふしん)になってしまった。


 ……。


 ……。


 ……。


 無言でダンジョンを歩く。


 どうやら低ランクダンジョンのようで、環境的にもモンスター的にもとても穏やかな雰囲気が流れている。

 どこまでも先を見渡せるような平坦な草原、(さわ)やかな風が時折俺達を優しく包みこむ。


「……目的地は大丈夫ですか?」

「は、ははははいぃ~……」

 話しかけても終始この感じ。


 ……。


 ……。


 ……。


 小一時間ほど歩いただろうか、繋いだ手がじんわり汗ばむ。


「……えと、汗かいてきちゃったから手を放しますね」

「は、はははいぃ~……あ……」

 見るからに残念そうな顔。大丈夫、拭くだけだから。


「お待たせしました。もう一度お手を取ってもよろしいですか?」

「……は、はい……」

 そして再び無言で歩き出す。先程までよりも、少しだけ強く握られながら。


 ……。


 ……。


 ……。


「あ……」

「おや、あれは……?

 手のひらサイズのネズミがチョロチョロしているのが見えた。


「あ、あれ……あれは……その……えと……」

「はい」


 何かを言いたげにしている撫子さんをひたすら待つ。

 いつしかネズミは見えなくなったが、それでもまだ撫子さんはあわあわしている。


「――ぁれはぁっ!!!」

「っ! はい」

 急に大きな声を出されてびっくりしたが、顔には出てないはずだ! 多分!


「あ、あああ! うぅぅ……ごめっ……なさ……」

 勇気を振り(しぼ)った結果、大声となってしまったんだろう。わかる。


「大丈夫ですよ。さきほどのネズミ、可愛かったですねぇ」

「……あ……は、はい……あの……あ、あれは……」

 ネズミのことで言いたいことがある気がしたので、話を振ってみたのが良かったようだ。撫子さんが再起した。


「『ヴィヴィアン・ハムスター』というの……だわ」

「うへぇ?」

 しまった、ちっこい見た目のくせに大層な名前で変な声が出てしまった。


「い、泉の近くでよく見られる……人懐(ひとなつ)っこいハムちゃんで……近くで座ってると、(えさ)をねだってよじ登ってくる……のだわ」

「へぇ~、詳しいんですね。そんなに人懐っこいモンスターもいるなんて知らなかったです」

「……はい……」

 恥ずかしそうに顔を伏せる撫子さん。だけど嬉しさも感じられる。


「……あ、あの子がいるなら……もう少し……で……」

「はい」

 今更だけど、どこに連れてかれるのだろうか。


 ……。


 ……。


 ……。


「つ、つきました……わ!」

「これは……すごい……!」


 ダンジョンに入ってから1時間ほど歩いた場所。

 そこに広がっていたのは……底が見えるほど()き通った泉とその周辺を埋め尽くす色とりどりの花畑だった。

 正規の攻略ルートからは大きく外れているようだけど、よく見つけたな。


「こ、これ……」

 撫子さんがかばんから取り出したのはシートとお弁当。


「用意してくれたんですね、ありがとうございます」

「はい……」


 黙々(もくもく)とシートを()き、お弁当を広げる撫子さん。

 お弁当の中身を見ると、綺麗(きれい)に形が整っているサンドイッチと、形が若干(いびつ)なサンドイッチ。

 ふっ、こんなのゼミでやるまでもなく簡単なテストじゃあないか!


「早速頂いていいですか?」

「あ……そ、それ……」

 不安そうな顔の撫子さんに笑顔を向け、もちろん歪な方を手に取り口に入れる。


「――うん、うまい! きっと一生懸命作ってくれたんだろうなぁ~」

「あ……」

 しかしその時、撫子さんの目から一筋(ひとずじ)の涙が流れる。

 まさか間違えたか!?


「ご、ごめ……なさ……!」

「撫子さん……?」

 何でどうして!? こんなのゼミでやってない!


「わた、し……こんなんで……! 気を使って貰ってばかりで……! うまくお話しもできないしぃ~……フランちゃんの話し方を真似(まね)したらうまく話せるかもって……でもそれもできないしぃ~……」

 まさに今話せてる!

 とは言えないな。きっと彼女は辛いんだ。


「……」

「あ……」

 黙って頭を撫でる。彼女が落ち着くように、安心できるように。


「大丈夫だよ、待ってるから」

「……ひぐっ……ふぐぅ~っ!」


 ……。


 ……。


 ……。


「わ、わたし……実は、その……人見知りで……」

「うんうん」

 知ってる。


「で、でもぉ、どうにか凜音様と……お、おち、お近づきに……なり、たくってぇ~……」

「そっかそっか」

 おち――ち――……じゃなくて。


「で、でも……こ、こんな私……気持ち悪い……です、よね……」

「いいや? 今の聞いて嬉しいと思ったよ」

「そ、そんなこと……」

「会話とか苦手だけど、それでも俺とデートしたいと思って頑張ってくれたんでしょ? なら、嬉しい以外何もないよ」


 頬を染め、(うつむく)く姿はやんごとなき大和撫子。

 しばらく撫で続けると、撫子さんも落ち着いたようだ。




「ところで……食べていい?」

「ひゃえっ!? は、はははいぃぃ~!」

 どうやら撫子さんは相当気を張って疲れていたようで、そのままシートの上に目を(つむ)って寝転がってしまった。


「――んまっ! サンドイッチおいしー!」

「はぇ……? あ、あれぇ~……?」


 その後もただ静かに、穏やかで平穏な時を共有した。

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