第74話 筋トレは全てを解決する
初めて凜花とダンジョンに行ってから1ヶ月がたった。
星奈さんがいない間は、凜花の探索者ランクを上げるための実績作りも兼ねて低ランクのダンジョンや危険区を回ったりして連携の確認などを行った。その結果、オレのランクはBに、凜花もCになった。
そしていよいよ――。
「わーっはっはっはっ!」
脳筋の高笑いが響く。病院で。
「お静かに願います」
「わかったっ!!!」
「……(ブチィッ!)」
看護婦さんの血管が切れる音がした。
「落ち着いて、落ち着くの……凜きゅんに変なところは見せられないわ…………はぁ~。まぁ、あなたみたいな人が1か月以上も病院にいたんですから、その気持はわからなくもないです」
「そうだろうそうだろう! わーっはっはっ!」
「ふふ、頑張ったあなたにこれを差し上げましょう」
「ありがとう! ……これは?」
看護婦さんに何やらメモのような紙を渡された星奈さん。
「私の連絡先です。凜音さんにお渡しください」
「うむ! わかったぞ!」
そう言って星奈さんが俺にメモを渡す。こら、人から貰ったものを他の人にあげちゃダメでしょ!
「はぁ~……これでもう凜音さんに会えないと思うと……仕事やめよっかなぁ……」
「心配するな! またいずれ会える!!!」
それは……また大怪我する予定でもあるのかな?
「ふふ、お大事にしてくださいね」
「ああ!」
なんだかんだ、看護婦さんも本当に寂しそうだ。
こんなに元気でうるさくて明るい人がいなくなるんだもの、当たり前だよね。
「……星奈さんってこんな人だったっけ?」
最初の印象は真面目、堅物、融通が利かない、素直……そんなイメージだったのだが。
「……あの頃はねぇ~、かなり落ち込んでいたからさっ」
「今は本当に嬉しいんだと思う。退院できたことと、凜音くんと一緒に探索に行けることが」
「……そっか」
案外単純で可愛い人なのかも知れないな。
「そうそう、隣の部屋の荷物持って帰ってくださいね」
「もちろんだとも!」
隣? 隣も病室なはずだが……。
「実はな、隣の部屋が空いていると言うことで無理言って頼み事をしてたのだ!」
星奈さんに連れられ、隣の部屋へと向かう。
そこにあったのはバーベルやランニングマシーン、チェストプレスといった筋トレ用の機械などがたくさん……。
「はっはっは! どうだっ! 私の自慢のコレクションだぞぉっ!!!」
「いや何やってんですか! あんた大怪我負ってたんでしょ!」
やべ、あんたとか言っちゃった。
「……本当にね……でもね、何度やめろと言っても勝手に抜け出して近所のジムでトレーニングしちゃってね。せめて私達の監督の元でやってもらおうと思って……」
「わっはっは! 骨折など! 鍛えてれば治る!」
看護婦さん……とっても苦労したんだね。
「恥ずかしいよ……★」
「脳筋は死ななきゃ治らない」
2人も実に微妙な顔をしている。
「どうした暗い顔をして! 筋トレすれば悩みなど吹き飛ぶぞ! そうだ、最後にみんなでここを小一時間ほど使わせて貰って――」
「ダメです」
「……使わせて、頂け――」
「ダメです。さっさとお帰り下さい」
「……はい……」
こうして、星奈さんは無事に退院できた。
ついでに凜花との勝負も無事に負けてた。
よかった。
◆◇◆◇◆◇
――数日後。
そう、星奈さんが退院してからまだ数日しか経っていない今日。
俺達『アヘピス』はとあるダンジョンの前に来ていた。
「すぅ~……はぁ~……うむ、この匂い! 間違いなくダンジョン!」
「ただの岩や土、草木の匂いだと思うよ」
雪さんの言う通り、ダンジョンに匂いなどないと思う。
「私は嬉しい! 再びこの地に立てたこと! そして……凜音や凜花と一緒に戦えることがな!」
「……」
「お前たちとなら……以前のパーティでは為し得なかった私の夢も叶えられる、そんな気がするんだ……!」
目を伏せ、感慨深げな雰囲気で語る星奈さんをチラッと見る。まぁ、そこまで想ってくれるのは悪い気はしない。
「うん、頑張ろうねぇ~!」
凜花も俺と同じように感じたのか、懐っこい笑顔で星奈に話しかける。
「凜花、お前の活躍は動画で見ていた! 確かにお前の力は強いが、それでもまだまだ子どもだ! 必ず私の後ろにいろ!」
「うんっ♪ 頼りにしてるね、星奈ちゃん!」
ちょっ! “ちゃん”って年齢じゃないんだぞ!
「あ、ああ……」
「ウチらのことも守ってねっ☆ 星奈ちゃん☆」
「よろしく、星奈ちゃん」
みんな悪ノリしすぎ! ……まぁそれだけ星奈さんの復帰が嬉しいのだろう。
「星奈ちゃんは俺が守るよ! なんつって――」
「ば、馬鹿者ぉぉっ!!!」
「ぐべっ!?」
俺だけ思いっきりほっぺ引っ叩かれたんだけど!? 何で!?
「……て、照れるじゃないかっ!」
照れ隠しで叩かれたの俺……。
「おやおや~☆ 男嫌いの星奈ちゃんが赤くなってる~☆」
「おやおや~、確か凜音さんのサポートをすると決まった時に『恋愛関係等は断固禁止だ!』って言ってなかったかなぁ~」
「ぐ、ぐぬぅ~……」
そんなルールあったんかい。ミコさんなんて秒で破ってましたけど。
「……臨機応変も可とする!」
「……へへっ☆」
どこか勝ち誇った顔のミコさん。あれ、これって俺が『アヘピス』に加入の時に悩んでいたアレコレが解決されたのでは?
「って言うかぁ~、その言い方だとぉ星奈ちゃんがお兄ちゃんのこと好きってことになるよねぇ~♪」
「いやいやまさかそんな……え、マジで?」
「――っ! ぬわぁぁ!」
「ぐべっ!」
いちいち照れ隠しに殴らないで頂きたい。
「わ、私は……」
「はいはい、この話はもうおしまい! りおっちのほっぺたがへこんじゃうよっ!」
「そ、そうだ! 今日我々はランクAのダンジョンに挑むのだからな! 気を抜くな!」
おお、あっという間に戦う人の顔になったぞ! さすが星奈さん!
「それじゃあカメラ回しますよ!」
「待て! 凜音、この戦いが終わったら伝えたいことがある! だから――」
「星奈さん、前回もフラグ立てたから大怪我負ったんでしょ。言いたいことがあるなら今のうちに言っといた方がいいよ」
本当にね。それでまさか滅多に出会わないはずの魔人に出会ったんだもの。
「ぬぐぅ……そ、その……なんだ……す……す…………」
「す?」
「す……すき……すき焼き……食べに……行かないか……?」
小学生か! いや単純に食事のお誘いに照れていた可能性もあるな。
「はい、喜んで!」
「――! ああ!」
ふふ、嬉しそうな顔をしちゃって。
「やぁん♪ 恋する乙女って感じだねぇ~♪」
「後で星奈さんにメイクしてあげよっと☆」
「一緒に美味しいすき焼きをゴチになるか、空気を読んで2人っきりにさせてあげるかが悩ましい」
楽しそうで何より。




