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第60話 『乙女の秘密を探ろうだなんて……いけませんわ!』

 魔人――。


 人類に近い見た目でありながら、モンスターの性質を持つ存在。

 モンスターの強力な武器――皮膚、牙、爪などのそれを持ちながら、人類固有と言われていたもの――様々な魔法やスキルはもちろん、挙句の果てには聖句のようなものまで使用することが確認されている、とのこと。


「最も多く確認されている例としましては、昨日凜音様も交戦した変態型です。戦闘中に魔物の特徴が強く出る魔人ですね」

 真世さんがパソコンをカタカタ打ちながら説明してくれる。大変な変態、ということか。


「言葉は不明瞭(ふめいりょう)ながらも、聖句と思われる言葉を発する姿も確認されています。しかも――」

「第3聖句まで覚醒(かくせい)している、かな?」

「はい。常に危険と隣り合わせの生活だからか、魔人(ゆえ)の特性か、たまたまなのかは不明ですが、これまで確認できた魔人は軒並(のきな)み第3聖句と思われる発声をしていたそうです」

 第2聖句までと第3聖句の覚醒では、出せる力が全く違う。それは既に体感済みだ。


「チートじゃない?」

「ええ。ですから出くわしたら真っ先に逃げることが奨励(しょうれい)されております。それでも生き残れるのはごく(わずか)かですが……」

 Sクラスの、しかも耐久力の高い星奈さんでもあっという間にやられてしまったものね……。


「一昔前は、悪いことをした子に『魔人が来るよ』『悪いことしたら魔人に食べられちゃうよ』と言われていたものです」

「『魔人は怖くて、強くって、人間じゃ敵わなくって』って言うのはそういうことだったのね」

「……あによっ! 何が言いたいのっ!?」

 別に、プンプンしてる顔もかわいいってことくらいしか。


「人類の生存圏拡大を(はば)む最大の要因とも言われております。幸いなことに数がそれほど多くないことと、住処(すみか)が危険区の奥にあるということで現在は均衡(きんこう)を保てていると言えるでしょう」

「そうか……」

 だとしたらあんな場所で出会ってしまったのは不運だったと……。


「……いや、おかしい。俺達が魔人とあったのはもうすぐ安全区という所だ。とても危険区の奥とは言えない場所だぞ」


 危険区には大きく分けて2種類ある。

 樹海のように、安全区に囲まれたある意味黙認されている場所。俺が表の顔で活動しているのはこちら。

 そして騎士モードの際や今回行った所のように、完全にその先全てが危険区となっている場所。いわゆる生活圏の境界線だ。

 ダンジョンがあった場所は少しだけ奥の方だったが、襲われたのはそうではない。


「……はい。例え(たまたま)だとしても見過ごせない事態です。既に探索者協会や国には報告しておりますが……その……」

 そう言ってこちらを見る真世さん。いつものように()ました顔……と思いきや、その目はわずかに()れている。


「――すみません、席を外します」

「え? あ、あぁ……」

 急に立ち上がってどこかへと向かってしまう真世さん。まひるちゃんお手製の真世さんぬいぐるみも不思議そうな顔をしている、気がする。


「……凜音様、お許しください。あの真世ですら動揺(どうよう)してしまうほど魔人という存在は恐ろしいのですよ」

「……うん」

「彼女が飲み込んだ言葉を()えていいましょう。『どうか、もう危険なところに行かないで』。正直わたくしも同じ気持ちですわ」

「……」


 真剣な、深刻な顔のフランに、何も言えなかった。

 理事長の時とは違う、俺のことを本当の意味で心配してくれているのがわかっているから。


「ですが、凜音様がそれを望まないことも存じております。なればこそ、わたくしたちはあなた様が全力で戦えるようにサポートするのみ、ですわぁ~~~!」

「……あぁ、頼むよ!」

 深刻な顔を崩し、笑顔でそう告げるフラン。これが無理やり絞り出した元気だということはわかっている。


「必ず戻るから。何があっても、フランたちの所に絶対戻って来る」

「……約束、ですわ!」

 強く彼女を抱きしめる。その2つの温かさを忘れてはいけない。




「あたし、さっきひどいことを言ってしまいました。凜音様のために戦ってくれた星奈さんに……」

「……ん?」

 目元を()らしたフランが俺から離れたのを見計らってか、バツの悪そうな顔のまひるちゃんがおずおずと話し出す。


「その……どうでもいいだなんて、ホントは思ってなくて……」

「あはは! そんなのわかってるよ!」


 なぜなら、探索者の格好をした俺のぬいぐるみの横には『アヘピス』3人のぬいぐるみがちゃんと飾ってあるんだから。


「本人たちにも見せてあげたいくらいだよ。かわいいぬいぐるみ!」

「うぅ~……凜音様には絶対内緒の趣味だったのにぃ……」

 何で?


「わたくしとしては、正直ドン引きですわ! 他人の趣味にとやかくいうつもりはありませんが、少々重たすぎると思いますの!」

「はぁっ!? そんなこと言ったらお嬢様なんか凜音様の――もごぉっ!?」

 あぁ、寝間着姿の俺ぐるみがまひるちゃんの口の中に突っ込まれてしまった……。


「――ちょっとぉっ! 何するんですかぁーーー!」

「あなたが余計なことを言おうとするからですわっ!」

 余計なこと……俺の一体何がどうなっているのだろうか。


「だってお嬢様も対して変わらない――」

「まひる、全く違いますよ。あなたのソレは所詮(しょせん)偽物(にせもの)。凜音様であって凜音様ではありません。心が()もっていることは認めますが」

 気分が落ち着いたのか、真世さんが戻ってきたのだが……まひるちゃんを(あお)る必要あります?


「真世お姉様!? そんな……お姉様がこっそり撮影してる『凜音様と他の女性との逢引(あいびき)コレクション』よりはマシだもんっ!」


 !?


「おやおや。ふむふむ。これはこれは……」

「な、何よ……!」

「ふふ……まひるにお仕置きが必要みたいですね、凜音様、お嬢様」

「ですわ!」

「……はは!」


 俺としては真世さんに詳しく話を聞かねばならないのだが……。

 とりあえず今日のところはまひるちゃんを中心に仲良く愛を確かめ合うことにしよう。




「ところで、フランの――」

「さぁ! 今日こそ凜音様をヒィヒィ言わせますわよ! 真世は前! わたくしは後ろ! まひるは上ですわよっ!」

「「かしこまりましたっ!」」

「そんなっ!?」




 んあぁぁぁ~! らめぇっ、そんなとこ……らめぇっ!

 

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