第57話 初めての敗北
改めてそいつの姿を見る。
「うじゅるる~……ぎゃっぎゃっぎゃ!」
まるでゴーレムに近い風貌は、その通り金属の硬さ。最初は女性のような見た目だったが、全く人間の面影はない。
道端で出会ったら、間違いなくモンスターだと思うだろう。
「ランチョン」
とにかく魔神についての情報が足りなすぎる。
こんな時こそと思い、『収納』からランチョンを取り出して問いかける。
「『……あ、あれ? どうしたのですかペン?』」
「魔人について知っていることを頼む」
「『へ? えっ!? ま、まさか!!!』」
魔人を視界に収めたランチョンが目に見えて狼狽えている。
「『逃げ――』」
「逃げない。殺すための情報を」
「『――で、ですが……その、えと……』」
何だ? 妙に歯切れが悪い……。
「『うぅ~……ま、魔人は怖くて、強くって、人間じゃ敵わなくって……』」
「……」
「……逃げて、ください……」
「そうか」
で、あれば今この場にランチョンがいても仕方がないと再び『収納』へ。
「ぎゃっぎゃ? ぐじゃじゃ!」
「……行くぞ!」
まるで『準備は終わったか?』とでも言いたげな魔人。
その憎たらしい顔面を殴りつけるために駆け出す。
「じゅるぁぁぁ!」
「はっ!」
幸いにも魔人の動きは俺と比べて早くはない。
魔人のパンチを横っ飛びで回避し、そのまま顔面を思いっきり殴りつける!
「――つうっ! 」
硬すぎる! アイアンゴーレムなど比じゃないくらいだ! もしかしたら防御面やパワーは負けているかも知れないな……。
「じゃらぁぁぁ!」
「っぶね!」
殴られた体勢のまま、俺の頭目掛けて両手を振り下ろす魔人。魔人を足蹴にすることで回避する。
「仕方がない……」
次のボス戦まで溜めておきたかったところだが……『電撃』を使うか。
「凜音くん!」
「星奈さんが!」
2人の慌てた様子が、星奈さんの状態が芳しくないことを示している。いや最初からわかっていたことか。
「……撤退する」
「じゅるぁ!?」
言葉がわかるのか、それとも気配で察したか魔人が俺の方に突進してくる。
その突進力は、規模こそ及ばないが勢いと力強さは巨大ボスのそれと遜色ない。
「……まさかダンジョン報酬が役に立つ時が来るとは」
言いながら、『収納』から先程のダンジョンで得たスライム状のネバネバを投げつける。
ネバネバは弾け、まるで魔人ボンドのようににまとわりついた。
「うぎゃ!? うじゅるぁぁぁ!?」
「思った以上に効果覿面……いや、今のうちに……」
所詮子供騙しのような魔道具未満のハズレ報酬。
すぐに効果が薄れそう――と思ってるうちに引きちぎられてる。
しかしこいつから離れる数秒の時間さえ稼げれば上出来だ。
「急ごう!」
「ん!」
「お願いっ!」
星奈さんを腕に抱え、雪さんを背負い、ミコさんにしがみつかれながらその場を後にするのだった。
「ぐじゅるぁぁぁあああああ!!!」
◆◇◆◇◆◇
戦略的撤退から5分ほど。
最後の悔しそうな雄叫びを聞くと少し不安だが、相当離れることはできたはず。
「りおっち、ごめ……もう限界……」
「ミコさん……よし、少し休もう」
最初から無理な体制ではあったが、俺にしがみついていたミコさんが遂にギブアップ。
全力で駆けてきたからもう大丈夫だろう。
「……いや、何かくる……」
「えぇ!? 今度は何よっ!?」
そう思ったのも束の間、こちらに向かって来る何か……というか、これはエンジン音?
まもなく姿を現したのは、まるで箱のような車だった。
「『凜音様! ご無事ですか!?』」
「その声は真世さん!?」
いつものリムジンではなく、まるで鉄の塊のように四角い小型バスのような車。そのスピーカーから聞こえてきたのは間違いなく真世さんの声だった。
「『まひるからの要請を受けて宝条財閥特製の緊急車両で参りました。中には簡単な医療設備がせきさいされております。 中にお入りください』」
その言葉が終わると同時に、車のドアが開いた。
「元々は万が一の時用に、私がいつも『収納』で持ち歩いていた凜音様の命を繋ぐための緊急車両です。そちらの台に乗せてて頂くとAIが診断と治療を行います」
「すご……いつの間に」
「さぁ、お急ぎください」
星奈さんを出来る限り優しく、それでも焦りに震えながら横たえる。
診断を開始するAIの声が響き、様々なコードが自動で接続されスキャナーが起動し始めた。
「真世さん、急いでここを離れたいの」
「……そうですね」
何となく事情を把握しているのだろうか、神妙な顔をしている真世さん。
まひるちゃんが要請したと言っていたが……。
「行きましょう」
こうして……初めての魔人との遭遇は、初めての敗北とも言える苦い経験として終わった。
それ故に気付くことができなかった。なぜ魔人が安全区に近いこの場所にいたのかということに……。




