表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/82

第57話 初めての敗北


 改めてそいつの姿を見る。


「うじゅるる~……ぎゃっぎゃっぎゃ!」


 まるでゴーレムに近い風貌(ふうぼう)は、その通り金属の硬さ。最初は女性のような見た目だったが、全く人間の面影はない。

 道端(みちばた)で出会ったら、間違いなくモンスターだと思うだろう。


「ランチョン」


 とにかく魔神についての情報が足りなすぎる。

 こんな時こそと思い、『収納』からランチョンを取り出して問いかける。


「『……あ、あれ? どうしたのですかペン?』」

「魔人について知っていることを頼む」

「『へ? えっ!? ま、まさか!!!』」

 魔人を視界に収めたランチョンが目に見えて狼狽(うろた)えている。


「『逃げ――』」

「逃げない。殺すための情報を」

「『――で、ですが……その、えと……』」

 何だ? 妙に歯切れが悪い……。


「『うぅ~……ま、魔人は怖くて、強くって、人間じゃ(かな)わなくって……』」

「……」

「……逃げて、ください……」

「そうか」

 で、あれば今この場にランチョンがいても仕方がないと再び『収納』へ。


「ぎゃっぎゃ? ぐじゃじゃ!」

「……行くぞ!」


 まるで『準備は終わったか?』とでも言いたげな魔人。

 その憎たらしい顔面を殴りつけるために駆け出す。


「じゅるぁぁぁ!」

「はっ!」

 幸いにも魔人の動きは俺と比べて早くはない。

 魔人のパンチを横っ飛びで回避し、そのまま顔面を思いっきり殴りつける!


「――つうっ! 」

 硬すぎる! アイアンゴーレムなど比じゃないくらいだ! もしかしたら防御面やパワーは負けているかも知れないな……。


「じゃらぁぁぁ!」

「っぶね!」

 殴られた体勢のまま、俺の頭目掛けて両手を振り下ろす魔人。魔人を足蹴(あしげ)にすることで回避する。


「仕方がない……」

 次のボス戦まで()めておきたかったところだが……『電撃』を使うか。


「凜音くん!」

「星奈さんが!」

 2人の慌てた様子が、星奈さんの状態が(かんば)しくないことを示している。いや最初からわかっていたことか。


「……撤退(てったい)する」

「じゅるぁ!?」

 言葉がわかるのか、それとも気配で察したか魔人が俺の方に突進してくる。

 その突進力は、規模こそ及ばないが勢いと力強さは巨大ボスのそれと遜色(そんしょく)ない。


「……まさかダンジョン報酬が役に立つ時が来るとは」

 言いながら、『収納』から先程のダンジョンで得たスライム状のネバネバを投げつける。

 ネバネバは弾け、まるで魔人ボンドのようににまとわりついた。


「うぎゃ!? うじゅるぁぁぁ!?」

「思った以上に効果覿面(てきめん)……いや、今のうちに……」


 所詮(しょせん)子供(だま)しのような魔道具未満のハズレ報酬。

 すぐに効果が薄れそう――と思ってるうちに引きちぎられてる。

 しかしこいつから離れる数秒の時間さえ稼げれば上出来だ。


「急ごう!」

「ん!」

「お願いっ!」


 星奈さんを腕に抱え、雪さんを背負い、ミコさんにしがみつかれながらその場を後にするのだった。




「ぐじゅるぁぁぁあああああ!!!」




 ◆◇◆◇◆◇


 戦略的撤退(てったい)から5分ほど。

 最後の(くや)しそうな雄叫(おたけ)びを聞くと少し不安だが、相当離れることはできたはず。


「りおっち、ごめ……もう限界……」

「ミコさん……よし、少し休もう」


 最初から無理な体制ではあったが、俺にしがみついていたミコさんが遂にギブアップ。

 全力で駆けてきたからもう大丈夫だろう。


「……いや、何かくる……」

「えぇ!? 今度は何よっ!?」


 そう思ったのも(つか)()、こちらに向かって来る何か……というか、これはエンジン音?

 まもなく姿を現したのは、まるで箱のような車だった。


「『凜音様! ご無事ですか!?』」

「その声は真世さん!?」

 いつものリムジンではなく、まるで鉄の塊のように四角い小型バスのような車。そのスピーカーから聞こえてきたのは間違いなく真世さんの声だった。


「『まひるからの要請を受けて宝条財閥特製の緊急車両で参りました。中には簡単な医療(いりょう)設備がせきさい(せきさい)されております。 中にお入りください』」

 その言葉が終わると同時に、車のドアが開いた。


「元々は万が一の時用に、私がいつも『収納』で持ち歩いていた凜音様の命を(つなぐ)ぐための緊急車両です。そちらの台に乗せてて頂くとAIが診断と治療(ちりょう)を行います」

「すご……いつの間に」

「さぁ、お急ぎください」

 星奈さんを出来る限り優しく、それでも焦りに震えながら横たえる。

 診断を開始するAIの声が響き、様々なコードが自動で接続されスキャナーが起動し始めた。


「真世さん、急いでここを離れたいの」

「……そうですね」


 何となく事情を把握(はあく)しているのだろうか、神妙(しんみょう)な顔をしている真世さん。

 まひるちゃんが要請したと言っていたが……。


「行きましょう」




 こうして……初めての魔人との遭遇(そうぐう)は、初めての敗北とも言える苦い経験として終わった。

 それ故に気付くことができなかった。なぜ魔人が安全区に近いこの場所にいたのかということに……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ