第56話 そしてフラグは回収される
ダンジョンからの帰り道。
安全区の近くまで戻ってきたのだが……。
「あっはっは!」
ここに来るまで星奈さんが終始笑っていて怖い。ミコさんも雪さんもそう思っているのかかなり離れて歩いている。
「本当に嬉しいです! 凜音さんが我々のパーティに加入して頂けることになって!」
そう、配信が終わってから改めてこちらからお願いしたのだ。
先程の戦いでも感じたように、どうしても低難易度ダンジョンや格下相手だと油断が生じてしまう。その状況に慣れてしまうのは良くないと思い、パーティに加入して高難易度に挑戦していこうと思ったのだ。
動画的にも次のステップに行っていい気がするしね。
で、星奈さん。それを喜んでくれているのは嬉しいんだけど……正直気が重いのも事実。なぜなら秘密にしてることがいくつもあるんだから……。
「星奈さん」
「何ですか凜音さん――いえ、敢えてこう言いましょう! どうしたんだ、凜音!」
心の距離を詰められた! 尚更言いにくくなったぞ……しかしこのままって訳にもいかない!
「実はですね……加入に当たって話さなければいけないことが――」
「むむ! もしや報酬のことですか? 安心して欲しください、私の分の報酬も全て上乗せのパーティ内比率50%とさせて頂きます!」
「いやいや……その辺は公平にお願いします」
それはそれで問題だと思うから。
彼女のペースに合わせてるとなかなか本題に入れない、それどころか余計傷口が広がる気がする。
ここはとりあえず軽いジャブがてら、実力を隠していたことを打ち明けようか。その後の方が問題なのだけど。
「そうではなく、実は俺――」
「もしや実力を隠していたことですか? それならば気付いていましたよ! とても第1聖句までの開放者とは思えない動きでしたからね! 私と同じく第2聖句まで覚醒しているのでしょう?」
「……」
気付いてたのか……真世さんは『星奈さんは細かいことはわからない。なぜならば脳筋だから』と言っていたのに!
そしてやっぱり余計言えなくなった……第2ではなく第3まで覚醒してるってことが。
「実力を隠す、そんなのは当たり前ですよ! しかしこれからは我々を信じて頂けると嬉しいです!」
「は、はは……」
「もちろん私も――“凛として立て”“厳然と在れ”『ストレングスシールド!』」
「――っ!? “頭を垂れろ”“汝ら導く”『身体強化!』」
俺と星奈さんがほぼ同時に気づき、臨戦体制をとる。星奈さんは俺を守ろうと盾を構えてくれるが、俺は雪さんたちの元へ疾る!
急いでここから離れなければ、そう思ってしまうほどの嫌な予感が頭上から迫ってきている!
「間に合えーーー!!!」
「きゃっ!」
「へ?」
2人を抱き抱えた瞬間、空から降ってきた何かと星奈さんの盾が衝突。
その衝撃波は周囲の木々が吹き飛ぶほどの威力!? まるでミサイルが爆発したかのよう!
「星奈さん!?」
「ひゃぶっ」
「ちょっ――いきなし何!?」
状況が飲み込めない2人を抱えながら、襲い来る衝撃から逃げるように跳躍する。
とんでもない威力だ……!
「ぐ……ぬぬぬっ!」
「うじゅるるる……」
よかった、星奈さんもどうやら無事のようだが……今も尚、彼女が頭上に構えた盾を殴りつけている存在がいた。
空から降ってきた者、俺らを襲った者の正体は……人間の女性? 浅黒い肌に胸と局部を隠す程度の衣服を身につけた、とても野生的な見た目ではあるが……。
「こ、こいつはまさかっ!? 凜音さん逃げてくださいっ!」
「え?」
「魔人だ! 雪、ミコ! 凜音さんだけは必ず守ってくれ!」
ま、魔人……?
「――うん」
「……任せて!」
2人に両脇を抱えられ、その場から離れるように引っ張られる。
「待ってよ! 敵なら一緒に戦おうよ!」
魔人とやらが何者かは知らないが――。
「無理! 魔人は無理! とにかく逃げて!」
珍しく雪さんが大声を上げる。それ程の相手ということ……?
「“うじゅるる”“ぐぎゃじゃら”“あびりゃぎゃ”!」
「これは……この感じはまさか!?」
その瞬間、魔人の体が大きく膨れ上がり……3メートルほどの巨人となる。肌はまるで鋼鉄のように鈍い銀色に、見た目もゴーレムに近い。
そしてその拳で、再び星奈さんを頭上から殴りつける。
「――ッ!? 逃げ――あああっ!?」
「星奈さぁぁぁんっ!?」
盾が粉々に砕け、腕も足もあらぬ方向に折れ曲がり、口から血を吐きながら……星奈さんが地面に叩きつけられ……バウンドして……。
「雪さん! このままじゃ星奈さんが!」
「覚悟の上!」
「そんなっ!」
「最優先はりおっちの命なの! わかってよぉ!」
2人とも大粒の涙を目に溜めながらも、俺を逃がそうと必死に堪えているのが伝わってくる。
「うじゅるるる……」
魔人の声にそちらに目を向けると……星奈さんがその大きな手で体を握りしめられていた。
既に星奈さんの意識はない……。
「星奈、さん……」
俺を逃がそうとあんな目に……。
「星奈さんは仲間なんだ! 見捨てられるかっ! “頭を垂れろ”!」
「やめて……」
「“汝ら導く”!」
「お願いだよりおっちぃ……逃げて……」
残念ながら聞こえない!
「“世界の終わり”! 『魔力武装』!」
黒衣に身を包み、2人を振り解いて星奈さんの元へ駆ける!
「その人を離せっ!」
「うじゅ……ぐぎゃらじゃ!」
魔人は当然離すわけがなく、むしろ俺に見せつけるかのように星奈さんを持ち上げて見せる!
そして反対の手、その人差し指で挑発するかのように何度も上下させる。
「望み通りにしてやる!」
かつてない程の最高速度で接近! そのまま腕を叩き切ってやる!
「――っ!? ぐぅぅ!?」
「あぎゃぎゃぁぁぁ!?」
ガキンと、まるで金属同士の激しい衝突のような音が響き、腕の両断は叶わない。
しかし魔人も思わずといった様子で星奈さんを手放した!
「――星奈さん!」
「り……おん、さん……」
薄っすらと瞼を開ける星奈さんを抱きかかえ、雪たちさんの元へと駆ける。
「星奈さんを頼む!」
「凜音くんは!?」
「俺は……」
このままヤツを放っておくわけには行かない……!
「……あいつを殺す」
「じゅるぁぁあああああああっ!!!」




