第54話 『間違えたのではありません、わざとですわん!』
「みなさん、こんにちは。今日はランクCのスライムダンジョンに来ています」
洞窟の入口を降り、草原のようなエリアに出た俺達。
そこでランチョンを『収納』から取り出して撮影を開始する。
【始まったね! (10000円)】
【何だか疲れてる顔してるわ。大丈夫かしら (10000円)】
【癒やしてあげたい…… (10000円)】
【帰ったら飴ちゃんあげるの! (10000円)】
むむ、いかんいかん。せっかく見に来てくれてる人たちに失礼だったね。
「すみません、ついついスライムのことを考えるとげんなりしちゃって……」
「『スライム種は軒並み物理が聞きにくいですわん――ペン! 実体のないエレメンタル種ほどじゃないにしろ、スライムは液状の体に身を包んでいますが内部にあるコアを壊さないと倒すことのできない魔法生物だと言われていますわペン!』」
【ん? 今わんて? (10000円)】
【遂に言ったね! (10000円)】
【早口で言葉を捲し立てるのは誤魔化す際の常套手段 (10000円)】
「『……ブロック……』」
【ごめんなさい (10000円)】
【空耳でした! (10000円)】
【迅速な解説ありがとう! (10000円)】
よくわからないけど、視聴者さんもランチョンとの交流に慣れてきた様子。
AIと言えど、なんだか愛着があるから嬉しい。
「――と、早速いましたね! スライムです!」
少し離れた草むらのなか、1メートル幅くらいで半液状体。緑色で半透明な体をプルプルさせながら動いている。
「『マジックスライムですわペン! それぞれ属性の色をしたボディをしていることが特徴ですペン! 緑色はもちろん風ですわペン!』」
「解説ありがとう。少し見えにくいですが、体の中に丸いコアが見えますね」
ダンジョンのコアとは違い球状の、まるで目玉みたいな形のコア。
周りの体はあくまで身を守る鎧のようなもので、このコアだけが急所――脳みそみたいなもんらしい。
【スライムって柔らかそうに見えて弾力があるんだよね (10000円)】
【そうそう! 剣とかじゃコアに届かなくて倒しにくいの! (10000円)】
【しかも内部は酸だからな。高レベルのものになるとそれも厄介になってくる (10000円)】
「仰る通りスライムの体は物理的な攻撃が通りにくくなっております。Cランク程度では問題ありませんが、もっと強いものだと体液にも気をつけないといけませんね。倒せたとしてもその体液が体にかかってしまったら大変ですから」
【体液…… (10000円)】
【ぶっかけ…… (10000円)】
【汚され…… (10000円)】
しまった! 迂闊なことを口走ってしまった!
【飴ちゃんみたいな体なのに怖いなの! (10000円)】
「そ、そうですね! 間違っても食べないでね!」
【もぉ~食べるわけないなの! 旦那様ったら変なこと言わないでなの! (10000円)】
おかしい、さっきまでたくさん流れていたコメントが1人を残してなくなってしまった。
しかもこれ完全に愛空ちゃんじゃないか!
「……ママは元気?」
【元気なの! けど、ついさっき急にトイレに行っちゃったの (10000円)】
コメントが減ったのは……やはりそういうことか。
「と、とりあえず敵を倒しますね! 実はとっておきの秘策を考えてきたんです!」
1人しか見ていなくても……否、1人でも見てくれてるからこそ俺は配信を続ける!
「スライムは特性は厄介ですが動きは鈍い。それを利用して遠距離から攻撃をしたいと思います」
【えんきょり……? (10000円)】
【遠くから攻撃するという意味ですよ、未来の奥様 (10000円)】
コメントが増えたが、どことなく真世さん感がある……いや、深くは考えまい。
「『凜音様は遠距離攻撃の手段が……まさか!』」
「はい! 先日とある方の動画を見まして、これなら自分も真似できるかなーって!」
言いながら、親指の先ほどの大きさの小石を拾い上げる。
「この小石に魔力を纏わせて投げます!」
他の誰でもない、自分自身の動画。しかも別に見ていない。ただの言い訳に過ぎない。
「『大丈夫なんですの? ここからコアを狙い撃つなどとても……』」
「はい、なので1発ではなくたくさん用意します!」
とはいえここは草原エリアなので小石はあまりない。なのでこっそり『収納』から小石を取り出す。
「それでは大きく振りかぶって……第1球、投げまーす!」
野球のピッチャーが投げるように、魔力を纏ったいくつもの小石をスライムめがけて思いっきり投げつける。
身体強化の乗った小石だが、果たして――。
「――ッ!?」
「うわっ」
「『あらま』」
【わぁ~! すごいなの! 水風船みたいなの! (10000円)】
パァンと、猛烈な勢いで何かが弾け飛ぶような音とともに、文字通り跡形もなく弾け飛んだスライム。
当たらなかった小石も、地面にいくつもの穴を開けている。人に当たったらと思うと……想像したくないな。
「こ、このように物理的な攻撃でもスライムは対処可能ということですね!」
……。
いや反応ない!
辛い!
「……どんどん行きましょうか」
無い物ねだりをしても仕方がないものね。さ、気を取り直して――。
【お兄ちゃん、コメントも少ないしちょっとだけ質問してもいい? (300円)】
「ん? いいですよ」
と思っていたら、やけに少額の投げ銭とともに質問を頂きました。
【お兄ちゃんはさ~、妹とかいるのぉ~? (300円)】
「妹? いないですよ。1人っ子だと聞いてます」
前世では弟がいたけどね。憎たらしいし鼻につくやつだったからとにかくウザかった。
【そ。もし妹がいたらぁ~……どうする? (300円)】
「どうする、ですか? う~ん……」
やけに抽象的な質問だ。弟だったらとりあえずぶん殴るって言えるが、妹か……。
「とりあえず、思いっきり甘やかすかな! 前から欲しかったんだよねぇ~!」
何度憎たらしい弟を、かわいい妹と取り替えてくれって祈ったことか! 多分毎月のお小遣いを妹に費やす程度には可愛がっていたと思う!
【……ふ~ん (300円)】
【すぐにでも産みますよ? (10000円)】
いやだからあんた真世さんでしょ! そしてその場合娘だから!
もう少ししたらで頼みます!
……。
「……では、探索再開しますね!」
300円ちゃんの反応もなくなったので、改めて歩みを進めるのだった。




