第53話 この戦いが終わったら――
お見合いから数日後。
今日は『アヘピス』のみんなとダンジョン攻略に来ております。危険区にある自然豊かな場所に違和感なく存在している洞窟の入口。
しかもいつもよりかなり遠いところまで来てしまった。地理的には滋賀県の辺り。
そこに入る前に最後の確認をしているところで星奈さんが口を開く。
「ここはかつて私と元相方2人で挑戦し、そして敗走を余儀なくされたところです」
神妙な顔して教えてくれたのは、ランクCスライム種のダンジョンだ。
「高ランク探索者を志し、瞬く間にBランク探索者となった私達でしたが……その伸びた鼻を砕くように起こった出来事でした」
「……それは」
大変だね。鼻を折るどころが砕かれるだなんて。
「その後、2人だけではできないこともあると探索者仲間を募ってできたのが『アヘ顔ダブルピース』なのです」
「……」
笑っていいのか感心していいのかわからない出来事だね。
「当時2人は“全てを防ぐ盾”と“全てを粉砕する槌”として有名だった」
「はっはっは、今となってはお恥ずかしい! 物理一辺倒ではうまくいかないことすら気付かずにいた我々ですから」
「それでサポートに長けた雪、属性付与のできるウチと……もう1人の子が誘われたって訳っ☆」
「そうなんですか」
雪さんやミコさんを仲間に入れる前から、星奈さんと“槌の人”は一緒に頑張っていたんだ。
それなのに、その人は望みの男性を選びたいからとあっさり探索者を引退してしまったらしい。
「それで……もし凜音さんがこのダンジョンを問題なくクリアできたら――」
死亡フラグか何か?
「――我々『アヘ顔ダブルピース』の一員として加入して頂けないかと思いまして!」
「……」
遂に来てしまった……死亡フラグを上回る直接的な死刑宣告が。
なぜなら、星奈さんの相方がいなくなった“男性問題”と同じ以上の問題を持ち込むことになるのだから。
『ミコさんと雪さんとは既に恋人関係でェ~す☆』だなんてバレた日には……。
「あ、すみません! これでは条件を付けているようで生意気ですね! これは条件ではなく私の中でけじめをつけようと思っただけでして!」
「そ、そうですね! わかりますよ!」
元相方さんとの未練や確執に踏ん切りをつけたいと思ってわざわざ思い出の場所に今回選んだってことでしょ!?
問題はそこじゃあないんだよぉ~……。
「ちょっ! ウチ聞いてないよぉ~!?」
「私も」
「うむ、すまん! 前回の探索の後にふと思い立ってな!」
わっはっはと豪快に笑う星奈さんだけどね……笑い事じゃないんだぞ!
「普段の振る舞いももちろんだが、戦闘においてもエレメント種の魔法を掻い潜り切れ伏せるその手腕など……凜音さんの姿を見たら、な。彼やお前たちとならいつか私の夢である前人未到の最高難易度ダンジョン踏破を成し遂げることができるかも知れないと思ったら……」
儚げな顔をされてもさぁ!
「……そういうことなら、私は構わない」
「雪!」
「まぁ、ウチも反対じゃないけどさっ」
「ミコも! お前たちならそう言ってくれると思っていたぞ!」
泣きながらも笑顔で2人を抱きしめる星奈さん。青春ドラマかな?
「そ、そうですね! 前向きに検討を――」
「凜音さん! あぁ良かった! そう言ってくれると思っていましたっ!」
「うわっ!?」
青春ドラマの中に巻き込まれた! まだ検討するって言っただけなのにぃっ!
「星奈さん! まだわかりませんって……俺がこのダンジョンをクリアできたらってことですよね?」
「いやっ! もうそんなことどうでもいいっ! 今すぐ私と一緒に高みを目指そうっ!」
今までのくだりは何だったんだ!
「星奈さん、離れて。凜音さんが迷惑そう」
「す、すまない! つい感極まってしまって……」
「それに、最初に言った通り、まずはダンジョン行かなきゃでしょっ!」
「そ、そうだな! やはり最初に言った通り、このダンジョンから生きて出られたらパーティに加入して貰うとしよう!」
ハードル下がってね? ほぼ自動的に加入条件満たしてしまうぞ?
「星奈さん、それだと――」
「む? 確かに死んでいては組むも何も無いな! では――」
「大丈夫ですよ、問題なくクリアしてみせますから」
あまり甘く見られても嫌だからね。ここは1つ見えを張ってやろうじゃないか。
「――うむ、うむ! それでこそ我々『アヘ顔ダブルピース』のアタッカーだっ!」
「だからまだ加入してないってば~!」
「よし、我々も凜音さんの決意に恥じぬように全力でサポートするぞ!」
ミコさんの叫びをさらりと受け流す星奈さん。おかしい、あなたは回避型ではなく耐久型タンクのはずだ……!
「まぁ……とりあえず行きましょうか」
こうしてほぼ確定した『アヘピス』加入、その後のことを考えるととても憂鬱な気分になりながらもダンジョンへと向かうのだった。




