第52話 妻に連れられてお見合いへ
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これで明日も生きられる……!
「――以上が紀伊國製菓さんと我々の話し合いの結果でございますわ」
彼女らに散々な目に合わせられてから数日後。
懐石料理屋の机を挟んで正面右側にいるフランが、ベアトリーチェさん含めて話し合ったことについて報告してくれた。
「……そうか」
紀伊國製菓さんと宝条財閥のどうのこうのの話は正直丸投げだ。そもそも俺にはあまり関係ないことでもあったし。
そしてそれ以上にこの話題が頭に入ってこない理由もある。
「……」
「……」
「……」
おわかりいただけただろうか。
この場に3人目……俺の正面に女の子が1人いることが。
「ではわたくしはこの辺で……後はお若いお2人にお任せしますわ!」
「まっ! 待って頂戴! もう少し一緒にいてよぉ~……」
「なんですの、あなたがどうしてもと言うから会食をセッティングしてあげましたのに」
「そ、そうだけどぉ~……」
黒髪ロング、胸部装甲含め小柄な女性。服装も雰囲気もザ・清楚。といか大和撫子。着物だし。
そんなお嬢さんが目の前にいた。涙目で子犬のような顔で。
「園ヶ浦財閥のご令嬢が、そんなことではいけませんわ」
「うぅ、その名前を出されると……情けない姿は見せられないわ」
急にキリッとした表情で正面、つまり俺の方を向く女性。
「お初にお目にかかります、私は園ヶ浦撫子と申しますわ」
「ご丁寧にどうもありがとうございます。俺は天代凜音と申します」
「知っておりますわ。幼少期から現在の活躍まで、すべて存じておりますわ」
口に手を当てて意味深に笑う彼女に、内心ドキッとする。
まさか漆黒堕天騎士のことまで知っているとは思えないけども……。
「撫子さんはわたくしの級友であり、日本を代表する企業の1つである園ヶ浦財閥のご令嬢さんですの」
「……そうか」
できれば事前に教えてほしかった。
「さ、後はご自分でできますわね?」
「もちろんだわ」
そう言って席を離れるフラン。残されたのは俺と撫子さんの2人のみ。
「……」
「え、と……」
「……」
「……そ、そのぉ~……」
ダメじゃん!
また涙目になって子犬のような顔に戻ったんだけど!
仕方がない……。
「園ヶ浦財閥のご令嬢様が俺にどういったご要件でしょうか?」
「……うぅ……」
ダメか……『立場が人を変える』じゃないけど、もしかしたらそのワードでさっきみたいにキリッとしてくれるかと思ったんだけど。
「……あ、あのぉ~……」
「はい」
「……ぐすっ」
ついに泣かれてしまった。大丈夫なのか、これ。不敬罪で捕まらないよね?
「……」
まぁ……今日は特に予定もないし、気長に構えようか。
そういえば、さっき幼少期から知ってるって言ってたね。加えてフランと同じく高い立場の女声。
そこから導き出される答えは――。
「もしかして、小さい頃にお会いしていました?」
「ぐびっ、ぐずっ」
「でしたら申し訳ない……正直昔から探索者を目指すのに必死で、それ以外のことはあまり覚えていないのですよ」
フランとも出会ったお見合いパーティ、アレなんかも美味しい料理が食べられる機会だとしか考えてなかったもの。
「じっ!」
「じ?」
「じっでまずぅ~……」
あぁ、やはりその頃に出会っていたんだ。
「……」
「……」
再びの沈黙。彼女のすすり泣く声だけが聞こえるが、やがて……。
「……」
言葉はないが、彼女がスッと差し出したのは探索者の証であるカード。
しかも最近取得したものではないらしく少しだけ傷んでいる。
「おや、あなたも探索者だったんですね!」
「……」
コクリと頷いた撫子さん。彼女のランクは最低のEではあるが、紛れもなく探索者だった。
「Eと言えば俺とお揃いですね! よければ今度一緒にダンジョン探索にでも行きませんか?」
「――っ」
一瞬息を飲む音が聞こえ――。
「びぇぇぇえええええ~~~ん! うぇぇぇ~~~ん!」
「おおおええっ!? おおお落ち着いて……!」
「いぎまずぅぅぅ~~~! うぇぇぇ~~~ん!」
行くんかい。
「失礼します。お嬢様、よく頑張りましたね」
「和葉ぁ~~~! やぐぞぐでぎだぁ~! うわぁぁぁ~~~ん!」
「よしよし」
襖の奥からメイド服だけどどことなく和風な感じの衣装を纏った女性が現れ、撫子さんの頭を抱きながら撫でる。
いい加減誰か説明して欲しい。俺に課せられていたミッションは何だったのか、そして正解にたどり着けたのかどうなのか。
「さすが凜音様ですわ! 撫子さんの繊細で小動物にも劣るハートを優しくキャッチできましたわね!」
「あ、うん……?」
同様にして入ってきたフランに頭を撫でられる俺。
ハートキャッチというよりも心臓を鷲掴んでしまった気もするよ。
「さて、次回のお約束も決まったようですし今日のところはお嬢様のハムスターにも劣る心臓が限界なので解散とさせてください」
「あ、はい」
約束……そうね、約束したね。いつ行くかは決まってないけど、約束はしたね。半分社交辞令だけど。
「撫子さん、次にお会いできるのを心待ちにしておりますよ」
「……」
コクリと頷く彼女を視界に収め、フランとともにゆっくりと立ち上がる。
「お花……」
「ん?」
「お花、キレイな所見つけたからぁ~……」
「ええ、今度は是非、そこに連れて行ってください」
そうして部屋を後にする俺達。
扉が閉まり、盛大に聞こえてきた泣き声と励ます言葉を聞き流しながらフランに問いかける。
「……何だったの、これ」
「言ってませんでしたっけ? お見合いですわよ」
聞いてないね……。
奥さんに連れられてお見合いだなんて話も聞いたことないね……。
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