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第49話 激しい運動の後には激しい運動


「グォォォーーーンッッ!!!」


 眷属(けんぞく)が尽きたのか、それとも無駄だと悟ったか、はたまた怒りで我を忘れたのか。

 召喚をやめて杖を振りかざしながらこちらに(おそ)いかかってくる冥府霊犬(めいふれいけん)。木々を吹き飛ばし、地面を揺らしながら突き進んでくる姿はそれだけで絶望感を覚えるだろう。


 【ひぃぃっ!?】

 【怖っ!】

 【ヤバクナイッ!?】


「問題ない!」

 こちらも疾走(しっそう)、一瞬で距離を詰め、ブラックハイネスで足を切断する。


「――ガァ!?」

 バランスを崩した冥府霊犬は走っていた勢いのまま転倒。

 ものすごい音をたてながら木々を粉砕していく。


 【すごっ!】

 【やばっ!】


「背中が無防備だぞ」

「――っ!? ガルルル!」

 背中を駆け、コアがあるであろう場所に剣を突き立てる。


「終わりだ」

「アッ!? ――ガハッ……」

 剣から魔力を放出。コアが砕けた音がして冥府霊犬から力が抜けるのを感じた。


「……これにて討伐完了だ。この後報酬が山のように手に入る」


 【すごい! 最後なんてあっという間だったね!】

 【……とんでもない身体能力だな。あの武器も相当な代物だ】

 【私たちでもいけるかな……?】

 【やめとけ、規約違反で捕まるよ】


 コメントを聞きながら、霊犬が消えていくのを眺める。

 そして、入れ違いに出てきたのは――。


「……小粒の宝石が軽トラに詰め込めるほど、それと……コボルト肉かこれは……大量にあるな」

 コケヒヨコの時と同じく腐るほどの肉……こんなもんどうしろってんだ!


 【そのお肉でバーベキューオフ会しようよ! 他のおかずは私が用意するから!】

 【おかずは私、ってオチだろ。私もだよ】

 【むしろメインにしていいよ?】


「……ん?」

 思った以上にしょぼい報酬に内心落胆しながらも、霊犬が持っていた大きな杖が消えずに残っていることに気がつく。

 大きすぎて人ではとても扱えない代物だが、これも報酬ということだろうか。


「『凜音様! その魔杖(まじょう)はとても素晴らしい品ですわ! 何よりも優先してお持ち帰りくださいませ! わん!』」

 やたらと興奮した様子のチカ。別にいいけど、誰が使うんだ?


「……報酬も出尽くしたな。ではこれにて配信を終了するが……その前に改めて警告だ。報酬に目がくらんで安易な気持ちでダンジョン破壊をすることは推奨(すいしょう)しない。これを見ろ」


 霊犬が倒れた場所を指差す。

 ただ転んだだけだと言うのに、まるでミサイルが落ちたかのように全てが吹き飛んだ場所を。


 【……そうだね。私じゃとても真似できないよ】

 【しかししっかり準備さえすれば1度に貰える報酬として格別では?】

 【倒せなかったらどうなるの?】

 【いやいや、そもそも探索者ギルドや国から怒られるし】

 【私ら“紅蓮の戦処女(いくさおとめ)”なら余裕のよっちゃんよ!】

 【Sランク脳筋さんたちじゃないッスか! 元気?】


 コメントも色々な考えが流れている。

 頼むからマネする人がたくさん出ますように!


「……もしも試すなら被害を抑えるためにも危険区の奥にするといい。ちなみに難易度によってボスの強さや報酬に差はないことも言っておく」

 じゃなきゃコケヒヨコのダンジョンから鳳凰(ほうおう)がでるなんて思わんわい。


「それではな」


 【また見ます!】

 【……悪くなかった】

 【応援してるからね!】

 【凜音きゅんより騎士様派です!】


 両方俺!


 ……。

 ……。

 ……。


 ……さて。


「リアたちもお疲れ様。カメラの向こうのフランたちもありがとう」


「『ご無事で何よりですわん!』」

「『ご無事で何よりですわペン!』」

「『怪我がなくてよかったわん♪』」

「『怪我なくてよかったよ~♪』」

「『マフリルも頑張ったわん!』」

「『マフリルが無事でよかったわ……も、もちろんあんたも……ね』」

 

 3つ首のリアたちから、そしてイヤホンからそれぞれ声が聞こえてくる。

 さすが言語モデルが同じなだけあり、タイミングもバッチリだ。


「『私は帰りの道中でたくさん(ねぎら)って頂きます。ふふっ』」

 送迎のために最寄りの安全区で待っててくれている真世さん。彼女も見守ってくれていたらしい。


「『もちろん、漆黒堕天騎士様モードでお願いしますね』」

「……」


 とりあえず、帰ろう。

 杖……入るかな……。




 ◆◇◆◇◆◇


「既にたくさんの反響があります。主に巨大ボスを倒したことへの賞賛(しょうさん)と規約違反などを問う内容に分かれてますが」


 ベッドの上、微睡(まどろ)みながら真世さんの報告を聞く。

 騎士モードが気に入ったらしく散々運動した後なのに元気ね。


「そっか」

「それと、ごく一部ですが凜音きゅ――様との関連を疑う声もあります。即刻削除申請していますが」

「嘘でしょ!?」

 一瞬で目が冷めたわ! もしバレたら……探索者資格剥奪(はくだつ)!? 逮捕!? 生涯監禁種馬生活!?


「本当です。加えて、そう言っているのは高ランク探索者の方々みたいですね。細かい動きなどでわかられてしまうのでしょうか」

「おふ……高ランクと言えばもしや星奈さんも?」

「いえ、彼女はそう言った細かい機微(きび)を察するのが苦手かと。先程全く関係ない――筋トレ後の腹筋画像をあげておりました」

 星奈さん……。


「とはいえ困ったな……今更戦闘スタイルを変えるのも……」

 施設時代で培ったのは剣術と体術のみ。自分、不器用なんで……。


「既にいくつも動画が配信されていますからね、今更でしょう。個人的には“闇夜背負いし暗殺者”様も見てみたいのですが……」

 いつから考えていたのか、既に肩書きもあるし厨二臭さを感じる。本当に好きね、そういうの。


「当面はこのままでも問題ないでしょう。直接的な証拠がある訳ではありませんし。マスクが取れてしまうか、直接捕まってしまわなければ」

「ふむ」


 捕まるといえば、例の鎖系地雷少女のことを思い出す。

 彼女の拘束の鎖は非常に強い力を感じた。


「おや、私といながら他の女性のことを考えているのですか?」

「ごめんごめん。けどその方が興奮するんじゃない?」

「私の寝取り寝取られ好きはあくまで想像上のプレイだからです! 私といる時は私のことを考えて頂きたい!」

 珍しく強く言い切る真世さん。寝取られも奥が深いんだなぁ。


「ごめんごめん、わかったよ」

「あ……すみません、私としたことが……」


 何を謝られてるかわからなかったが、とりあえず運動を再開するのだった。

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