第44話 山では突然の雨が降る
――翌日。それは、お嬢様とのおデート記念日。
「着きましたわ!」
フランとのおデート様に来たのは、とある都内にある山。
都心から電車で1時間という場所にありながら豊かな自然を感じられる上にロープウェで頂上付近まで来れるのでとてもお手軽に来れる山だ。
「さすがに平日ともなれば人は殆どいませんわね~」
「そうだね」
フランも本来であれば学校だったものね。
付近には俺ら以外の人は誰もいない。ロープウェイの窓から山を登っている人が数人見えただけである。
「うふふ! 目論見通り、この大自然と凜音様を独り占めできて嬉しいですわぁ~~~!」
「わっとっと」
お嬢様らしからぬ笑顔で飛びついてくるフランを受け止める。
普段は彼女を増やせと言ってるけど、独占したい気持ちはあるらしい。というかしょっちゅう嫉妬してる。
「……嫌ですわ、つい本音が……」
「……? 何が?」
「いえ……独占したいなどと言うのは本気ではありませんの!」
嘘つけー。
とはいえ、実際問題この世界において女性が男性を独占することなど叶わない。
都の条例に『男性は100人以上の妻を持て』的なことが書いてあったのには驚いたけど。
それでもフランの想いには応えたい。
「フラン、あそこにシートを敷いて座ろうよ」
「はいっ!」
近くにベンチはあるが、そこではなく芝生が生えた広場のような所に座る。
そこで――。
「膝枕して欲しいなぁ~」
「まあ! 凜音様ったら甘えんぼさんですのね! もちろん構いませんわ!」
ほとんど歩かないとはいえ山登り、珍しくズボンを履いているフランの膝に頭を乗せて横になる。ほのかに薔薇の香りが。
「うん! 自然の開放感と素敵なお嬢様の膝枕、さいっこー!」
「……うふふ。今だけはわたくしの凜音様」
体を預け、完全にリラックスという名の無防備で彼女の膝の上。さながらまな板の上の鯉。俺の考えはちゃんと伝わったらしい。
「……今日おズボンで良かったですわ」
「? 虫に刺されるかもしれないものね」
山には良くない虫がたくさんいるからね……!
「え、ええっ! そうですわ! 山を舐めてはいけません! 危険がたくさんありますもの!」
「そうだね。だからちょっと意外だったよ。フランが山にピクニックデートしたいだなんて」
もっとお洒落でお上品なカフェ巡りとかそんなかと思ってた。
「そうですの? わたくしこう見えても、自然を感じられる場所は大好きですのよ?」
「そういえば家も都心じゃなくて郊外だものね」
言いながら、フランのことをあまり知れていなかったことに気がつく。
これではいけないな。ちゃんと彼女たちに向き合わないと。
「今更だけど、フランってイタリア系?」
「……はい! 今は無きイタリアの血が流れていますわ!」
「ん?」
フランのことをもっと知ろうと思って尋ねたところ、思いもよらぬ言葉が聞こえた気がした。
「けど心は日本人ですわ! もう何代も生まれも育ちも日本ですから当たり前ですけれど」
「今は無きイタリア……?」
「? はい。祖国のことを忘れないため、わたくしの血筋には伊名を付けさせて頂く決まりでして……」
「じゃなくて、イタリア……もうないの?」
前世の世界とほとんど変わりのない世界だったから、てっきり諸外国も健在だとばかり思っていたが……イタリアが、ない?
「ああ……そう、ですわねぇ~……もう何百年も日本以外の国とは連絡がつかないのですわ。まるでダンジョンとの境界のように電波が途絶えるのだとか」
「えっ!?」
「魔法やモンスターがこの世界にもたらされてから間もなくヨーロッパや南米などの幾つかの国はモンスターに滅ぼされたらしく……いつしか情報も遮断されてしまったそうですわ。時折海を越えようとする挑戦者が現れるのですが……漏れなく音信不通となってしまうようです」
そんな……。
日本以外の国の情報がほとんどない……?
初期の頃に……イタリア含めて国が滅んでいた?
「実は今ランチョンの技術を持って秘密裏に日本の外側の情報収集をする話が出ております。彼の探索ドローンに用いられている技術は、どうにかダンジョンや国にあるの不思議な境界を越えられるような方法はないかと、とても長い期間試行錯誤した結果なのですわ」
「そうなんだ……」
思いもよらなかったけど、ランチョンに込められた技術は相当なものだったらしい。一層大切にしよう。
「一応海外についての情報は伏せられておりますわ。緘口令とまではいきませんが……不用意に境界を目指すものが出ないように、ですわね」
「……そっか。話してくれてありがとう」
宝条財閥だからこそ手に入る情報もあるのだろう。
何ならどうにか境界を越えようとしてる集団の先鋒まである。
しかし……海外の様子がわからないのはかなりまずいかも知れない。
世界規模で考えたら、俺のやっていることは無駄なのでは……?
いくら俺がダンジョンを破壊したからって焼け石に水なのではないだろうか……。
「凜音様、今は我々にできることをしましょう。幸いにも、この国の状況はここ百年程は変わっていないようですわ」
「……そうだね、焦ってもしょうがない。できることからやっていこう」
さしあたりは、今日のおデートを楽しむところからだ!
「今日はフランの膝を堪能する! ここは俺だけの特等席! つまり俺にしかできないこと!」
「まあ、凜音様ったら」
「これからもずっと側にいて。フランがいれば頑張れる」
「ふふ、ええ。もちろんですわぁ~……」
笑顔ではあるけども、どことなく心配そうな顔のフラン。
「……お股、濡れてないですわよね……大丈夫、大丈夫ですわ……」
「……」
自分に言い聞かせるようにボソボソ呟くが、バッチリ聞こえている。
しかしここは聞こえない振りをしておくのがモテる秘訣だぞ!
「……幸せ過ぎて、少し恐ろしいですわ。この幸せが突然失われてしまうのではないかと……」
「……何があっても一緒だよ」
……。
……。
……。
この時にそうなったかは定かではない。もしかしたら最初からだったのかも知れない。
しかし……。
フランが濡れに濡れていたことは後に入ったホテルで確認できた。
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