第12話 家宝とプルトップ
家に帰ると、居間でフランが神妙な顔で待っていた。
言葉よりも早く土下座をしようとしたところ――。
「り、りりり凛音様! ここここちらの指っ! 指、わっ!」
指を詰めろとまで言われるとは思わなかった……。
「指っ! 指輪を! 受け取ってくださいましぃぃ~~~!」
「指輪?」
見ると、フランが箱を差し出している。中には大きな石のついた指輪があった。
「緊張でまともに話すことのできないお嬢様の代わりに私が説明します。こちら、慣例に習い第一夫人となる者が男性に贈る結婚指輪でございます」
「へ?」
「通常は宝石に当たる部分には、宝条家の家宝である『空間収納』の魔法が付与された魔石となっており、魔道具としても使用可能です。探索活動時にお邪魔にならないよう、首にかけられるようにチェーンもご一緒させて頂きます」
「ふぁ?」
一体どういう……そんな貴重なもの……?
「……お気に、召しませんか……?」
「え!? いやいや! あまりのことに言葉と我を失っていただけで!」
テレフォンおセッセの件で土下座しようと思ったら、とんでもないお宝を貰った件。
「本当に嬉しいよ! フランの気持ちが十分過ぎるほど伝わってくる!」
「はい! はい! これでも足りないくらいですわ!」
「しかし……俺にはお返しに贈れるものが何もないんだ……」
こんな大層なものを貰ってばかりで申し訳ないよ。
「お返しなど不要ですわ! 凛音様は納得できないでしょうが、これがこの世界の男性の普通ですので!」
「そうですよ。それにお嬢様は凛音様から貰った物なら何でも喜びますよ。例えば……こちらの缶のプルトップなどはいかがですか? 指輪みたいですし」
「まあ! 新しい家宝にしますわぁ~~~!」
「空間収納の指輪とプルトップとじゃ、さすがに申し訳ないよ」
釣り合わなすぎてね……っていうか真世さん、主人に対していいのかそれで。
「それに……凛音様からは既に十分貰っていますので……♡」
そう言い、うっとりした表情でお腹の辺りをさするフラン。
「いえ、やはりまだ足りないかも♡」
「俺もあげ足りないかも!」
◆◇◆◇◆◇
――翌日。
さすがに貰いっぱなしは申し訳ないので、どうしようか悩んでいたところ。
初報酬である花束を真里愛に渡したのを大層羨ましがっていたので、それならと思いダンジョンにやってきた。
「ここか……」
周囲は長らく人の手が入っていないためか、草木が生い茂っている。
そこは人類の生活圏である『保護区』の外、モンスターがうろつく『危険区』にあるダンジョンだ。
ここはゴーレムがでるダンジョン、そのドロップ品として宝石も出る可能性があるそうで贈り物を探すにはちょうどいい。
ランクはCということで、質には期待できないが……フランたちにあまり危険なところに行くなと言われてしまったので仕方がない。
「よし! ランチョン、フランバスター! 出てこい!」
早速中に入り、貰ったばかりの『空間収納』の指輪からドローンと剣を取り出す。そしてランチョンの股にある起動ボタンを……ポチッとな!
「『おはようございますですわペン! 道中無事でしたかペン!』」
「問題なかったよ。ありがとう」
起動早々にこちらの心配とは……よくできたAIだこと。
「『改めてここのダンジョンについて説明しますわペン! ここはゴーレムダンジョンということで、出てくるモンスターはゴーレム、石などの鉱石類で構築されているため防御力が高いのですわペン! 大きな質量から繰り出される攻撃はもちろん、地属性の魔法を使う種類や、なかには属性が付与されたボディのゴーレムがいるようですペン!』」
「なるほど。助かるよ」
事前に調べればわかることではあるが、現地で再確認できたり、より必要な情報もくれたりと便利なランチョン。
「『それと、高性能でかわいいランチョンの仕様についても今一度説明しますペン! まず、通常外部との繋がりを保てない電子機器ですが、最新かつ特別な技術によりダンジョン外とも通信が可能となっております! つまり、遠隔操作や動画の生配信も可能ということですわペン!』」
そう、一般的にはダンジョンの入口を堺に電波などは隔絶されているらしい。内部に入ってしまえば問題なく作動するようだが。
「『高性能カメラであるくりくりお目々が凜音様の勇姿を余すことなく映し続けますわ! それと、配信されている時の話ですが、コメント読み上げ機能もついておりますペン! もちろんミュートなども個別に設定できますペン!』」
「おぉ、そりゃ便利」
煩わしいコメントは無視したいけど、できれば拾っていきたいしね。
「『他にもありますが……それは追々でいいでしょうペン! それでは――』」
「あぁ、行こう!」
「『はい! 1階は山を模したフロアですわペン。気をつけてくださいペン!』」
その言葉通り、入口目の前から小高い岩山が続いている。
「今日は1人だから油断せず行こう。“頭を垂れよ”“汝ら導く”『魔力武装』!」
黒装束を身に纏い、臨戦状態をとる。
目を凝らして見ると、そこかしこに魔力の塊があった。
「これ、岩石に見えるけど、ゴーレムが擬態してるっぽいね」
「『ゴーレムの特性ですわペン。周囲の鉱石に擬態するのですわペン!』」
1つの巨石に石を投げつけてみる。すると、巨石がゆっくりと動き出して立ち上がる。
「さすがに威圧感があるな……」
身の丈3メートルほど、人型のように2本足で立つゴーレム。
肩、腕、手といった部位は全て石が連結してできているような見た目で、胸の中央には緑色の水晶玉のような石が見えている。
「『あそこに見える緑色のものが魔石――ゴーレムのコアですわペン! あそこを壊すとゴーレムを倒せますわペン!』」
「わかった! よし、フランバスター!」
早速剣を構える俺、そこであることに気が付いてしまう。
「コォォォ!」
「……おっと」
少しボーっとしてしまい、その隙にゴーレムが拳を振り下ろしてきた。
剣を持っていない左手で防ぐが、少し地面が陥没してするほどの威力。
「『凜音様!? 以前のように攻撃を受けるのはやめてくださいませ!』」
「ん、すまない」
そういう訳ではなかったのだが……まぁいい。
「喰らえ! 『魔力武装全力パンチ!』」
要は魔力を込めたただのパンチ!
ゴーレムのコアを思いっきり殴りつける!
「――ッ!?」
「……よしっ!」
コアはもちろんのこと、ゴーレムは粉々になって吹き飛んでしまった!
「『凜音様? どうしてわたくし――お嬢様がお渡ししたフランバスターをお使いにならないのですか? もしかして……もう飽きてしまったのでしょうか……』」
「いや、あんな硬そうなものを攻撃したらフランバスターが傷んじゃうかなって。せっかくフランがくれたものだし、大切にしたいからさ!」
「『~~~♡ ~~~♡』」
「……?」
よくわからないが、ランチョンがくるくる踊りだした。
この子、時折よくわからない言動をすることがある。まだ試作品と言っていたから仕方ないか。
「『……コホン。そのお気持ちはお嬢様も喜ぶと思いますが、フランバスターはあの程度の敵では問題ありまペン。必要なときは遠慮なくお使いくださいペン!』」
「わかったよ」




