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第11話 断罪の席、皿を返す——公開を数字で止める

 朝。回遊通信は今日も大見出しで踊っていた——「本日・王都大広間にて公開“祈祷”と“断罪”!」。

 私は笑って朱で札を一枚。

『受領不可/返金=辞退。非公開・数字記録・人→祈り→光が前提。映さない勇気を』


 扉の鐘。黒狼隊長エリアスが軽装で立つ。

「七時間七分。——大広間へは白石と列匙を多めに。走りと怒号を拍で落とす」

「支払いの皿と数字板もね。断罪の席は食卓に戻せる」


 カートに積む。


三本の匙(噛む歯をすくう/朝の一匙/列匙〈携帯短柄×2〉)


白石矢印×大量/折り座面×12


灰小鉢/薄薔薇/白湯壺


携帯数字板×3


**“支払いの皿(公開台帳)”**パネル/返金=辞退札束


**風輪(冠→窓→街路)**調整糸


 ククが星を胸に見送る。眠り番は店を守る。



 王都大広間。

 王妃レオノールは席に静座し、顧問伯ロジェが脇に立つ。

 壇上には王太子と**“聖女”レティシア**。壁際には**《エクラ》と《ルクス工房》旧派の顔、そして肩カメラの列。

 ——映える準備は満杯**だ。


 私は真鍮小札《御用厄整》を見える位置に下げ、白石で床に細い矢印を引く。人→祈り→光。

 携帯数字板を三脚に掛け、支払いの皿パネルを立てる。

 エリアスは列匙を一拍。ちり。

 大広間の空気が声量2に落ちる。


「始めるぞ!」王太子が叫ぶ。

 肩カメラの群れが身を乗り出した瞬間、王妃の扇が一度だけ開く。

「本日の“公開”は——台帳の公開に限る。映像配信は不可。数字と支払いで話す」

 扇がぱちりと閉じた。白石の矢印に沿って列が再配置され、肩カメラは白線外へ。


 ざまぁは、最初の一拍で始まる。



 王太子が渋々、口火を切る。

「罪状! ヴァンブラン嬢は奇跡の妨害を行い——」

「皿で話しましょう」私は支払いの皿パネルを指す。

「河岸/南門での撤退実費はこちらで支払い済み。逸失利益は対象外。低周波と香糸は相殺。返金=辞退の朱は三件。数字は呼吸↓/騒音↓/滞在↑」

 回遊通信の記者が舌打ちし、肩カメラが外で揺れた。


 《エクラ》の法務が立つ。

「断罪は華。光で威を示せば民心は——」

 列匙が机脚の下で一拍。ちり。

 声量が落ちる。

 私は淡薔薇を一滴、空気に乗せて言う。

「威の皿は最後。人が先です。王冠のざらめは剥がしました。代理店台本の**“外から足す回路”は撤去を継続。——今日は、断罪の皿を返す**日ですわ」


 王太子が短慮に赤む。「証拠がある!」

 合図で**《エクラ》の者が幻灯箱を持ち込む。布の向こうに、私が市に混乱を生んだように編集された映像——低周波で鼓動を煽った合成音**が被せてある。


「味見を」

 私は灰小鉢を幻灯の前に掲げ、白湯をひと吹き。

 ぶう、と低音が灰に吸われる。

 琥珀試薬を布端に一滴。——曇る。

「合成音。鼓動同期を重ねた“盛り付け”。映えは胃を痛めます」

 数字板の騒音が一目盛、下がる。

 王妃が静かに言う。「その皿は王宮の食卓には上げない」



 “聖女”レティシアが一歩、前へ。

 喉は昨夜より低い。人の音だ。

「借り物は返しました。祈りは押し付けない。……“断罪”の席を**“返金=辞退”に替えてください」

 ざわめきが起きる。

 私はうなずき、返金札を一枚、王太子の前にそっと置く**。

『本件断罪企画:受領不可/返金=辞退。非公開・数字記録・人→祈り→光へ再設計のこと』


 顧問伯ロジェが笑わない微笑のまま承認印を押す。

 朱が一つ、壇上で静かに灯った。



 工房は割れていた。

 旧派の副棟梁コルネリウスが**「映える匙」を掲げる。柄に香粉が仕込まれている。

 ミリエルが一歩出る。「王都規格は列匙のみ。拍で走りを止める。香粉は相殺です」

 試薬一滴——曇る。

 私は受領不可の朱**。

 工房長バルドが重い息を吐き、旧派の男から刻印を剥がせた。「軽さに戻る」


 列匙を一拍。ちり。

 怒号の角が落ちる。



 王太子が最後の見栄にすがる。「公開しなければ民は——」

 王妃が扇を一度だけ開く。

「民は眠りを望む。本日の“公開”は台帳のみ。払うものと払わないものを見えるように」

 私は**支払いの皿(公開台帳)**を読み上げる。


人(白線・列整備・折り座面・薄塩スープ)実費:支払い


祈り(薄薔薇・鐘)実費:支払い


光(幻灯・香幕)実費:半減(映え優先分は不採用)


違反(低周波・香糸)相殺/罰金は市条例へ


断罪企画:受領不可/返金=辞退


 肩カメラは何も映すものがない。数字だけが壁に残る。

 ざまぁは静けさで起きる。



 儀礼の仕舞。

 私は壇の縁に白湯の蒸気を沿わせ、“断罪の席”に付着した薄いざらめを長柄の小匙で掬う。

 苦い——誰かに勝ちたいだけの砂糖。

 いただきます。

 喉で割ると、広間の音が一段落ち、呼吸が丸くなる。


 数字板が示す。

 呼吸−20%/騒音−22%/滞在+10%(広間)。

 転倒0/救護0。

 王妃の肩が一拍落ち、レティシアの喉がさらに人へ。

 王太子は——旗を握ったまま、何も言えない。支払いの皿の朱が先に喋ってしまったから。



 片付け。白石を拾い、折り座面を畳み、数字板を外す。

 エリアスが列匙を一拍。ちり。

「……拍があれば、怒号は消える」

「匙があれば、断罪も皿に戻る」

 彼はうなずき、小声で言った。

「これが俺の職務で、君が君の礼儀だ。——一緒にやると眠れる」

「七時間八分、目指しましょう」

 恋はまだ薄塩。でも、一拍ぶん近い。



 店に戻ると、回遊通信の号外が静かに差し替わっていた。末尾に小さく——

《王宮広報》:本日“断罪企画”は受領不可/返金=辞退。数字は呼吸−20%/騒音−22%。

 見出しは派手でも、皿は静かに返る。


 ククが星を胸にくると鳴き、列匙の微鈴が答える。

 私は白湯に朝の一匙を半分だけ溶かし、帳面に刻む。


本日の記録


大広間運用:映像不可/台帳公開/人→祈り→光配列維持


指標(広間):呼吸−20%/騒音−22%/滞在+10%/転倒0


断罪企画:受領不可/返金=辞退(王妃承認・朱)


《エクラ》:幻灯+低周波合成音→灰吸い/試薬曇り→却下


《ルクス工房》旧派:“映える匙”→受領不可/王都規格=列匙のみ


王妃・ロジェ:支払いの皿v1.1運用(光実費半減条項追加)


レティシア:借り物0/発声基音−半音


黒狼隊:白線整流/列匙一拍で声量2維持


エリアス:睡眠7h07m(予測)/**“一緒にやると眠れる”**発言


クク:眠り番(鳴き0)


<次回予告>

工房の旧派離反、代理店の撤退交渉最終局面。——王冠の外で**“最後の飴”が砕ける夜、三本の匙に四本目**——“言葉の匙”が加わる。恋はまだ薄塩、だが一拍は呼吸になる。

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