第11話 断罪の席、皿を返す——公開を数字で止める
朝。回遊通信は今日も大見出しで踊っていた——「本日・王都大広間にて公開“祈祷”と“断罪”!」。
私は笑って朱で札を一枚。
『受領不可/返金=辞退。非公開・数字記録・人→祈り→光が前提。映さない勇気を』
扉の鐘。黒狼隊長エリアスが軽装で立つ。
「七時間七分。——大広間へは白石と列匙を多めに。走りと怒号を拍で落とす」
「支払いの皿と数字板もね。断罪の席は食卓に戻せる」
カートに積む。
三本の匙(噛む歯をすくう/朝の一匙/列匙〈携帯短柄×2〉)
白石矢印×大量/折り座面×12
灰小鉢/薄薔薇/白湯壺
携帯数字板×3
**“支払いの皿(公開台帳)”**パネル/返金=辞退札束
**風輪(冠→窓→街路)**調整糸
ククが星を胸に見送る。眠り番は店を守る。
◇
王都大広間。
王妃レオノールは席に静座し、顧問伯ロジェが脇に立つ。
壇上には王太子と**“聖女”レティシア**。壁際には**《エクラ》と《ルクス工房》旧派の顔、そして肩カメラの列。
——映える準備は満杯**だ。
私は真鍮小札《御用厄整》を見える位置に下げ、白石で床に細い矢印を引く。人→祈り→光。
携帯数字板を三脚に掛け、支払いの皿パネルを立てる。
エリアスは列匙を一拍。ちり。
大広間の空気が声量2に落ちる。
「始めるぞ!」王太子が叫ぶ。
肩カメラの群れが身を乗り出した瞬間、王妃の扇が一度だけ開く。
「本日の“公開”は——台帳の公開に限る。映像配信は不可。数字と支払いで話す」
扇がぱちりと閉じた。白石の矢印に沿って列が再配置され、肩カメラは白線外へ。
ざまぁは、最初の一拍で始まる。
◇
王太子が渋々、口火を切る。
「罪状! ヴァンブラン嬢は奇跡の妨害を行い——」
「皿で話しましょう」私は支払いの皿パネルを指す。
「河岸/南門での撤退実費はこちらで支払い済み。逸失利益は対象外。低周波と香糸は相殺。返金=辞退の朱は三件。数字は呼吸↓/騒音↓/滞在↑」
回遊通信の記者が舌打ちし、肩カメラが外で揺れた。
《エクラ》の法務が立つ。
「断罪は華。光で威を示せば民心は——」
列匙が机脚の下で一拍。ちり。
声量が落ちる。
私は淡薔薇を一滴、空気に乗せて言う。
「威の皿は最後。人が先です。王冠のざらめは剥がしました。代理店台本の**“外から足す回路”は撤去を継続。——今日は、断罪の皿を返す**日ですわ」
王太子が短慮に赤む。「証拠がある!」
合図で**《エクラ》の者が幻灯箱を持ち込む。布の向こうに、私が市に混乱を生んだように編集された映像——低周波で鼓動を煽った合成音**が被せてある。
「味見を」
私は灰小鉢を幻灯の前に掲げ、白湯をひと吹き。
ぶう、と低音が灰に吸われる。
琥珀試薬を布端に一滴。——曇る。
「合成音。鼓動同期を重ねた“盛り付け”。映えは胃を痛めます」
数字板の騒音が一目盛、下がる。
王妃が静かに言う。「その皿は王宮の食卓には上げない」
◇
“聖女”レティシアが一歩、前へ。
喉は昨夜より低い。人の音だ。
「借り物は返しました。祈りは押し付けない。……“断罪”の席を**“返金=辞退”に替えてください」
ざわめきが起きる。
私はうなずき、返金札を一枚、王太子の前にそっと置く**。
『本件断罪企画:受領不可/返金=辞退。非公開・数字記録・人→祈り→光へ再設計のこと』
顧問伯ロジェが笑わない微笑のまま承認印を押す。
朱が一つ、壇上で静かに灯った。
◇
工房は割れていた。
旧派の副棟梁コルネリウスが**「映える匙」を掲げる。柄に香粉が仕込まれている。
ミリエルが一歩出る。「王都規格は列匙のみ。拍で走りを止める。香粉は相殺です」
試薬一滴——曇る。
私は受領不可の朱**。
工房長バルドが重い息を吐き、旧派の男から刻印を剥がせた。「軽さに戻る」
列匙を一拍。ちり。
怒号の角が落ちる。
◇
王太子が最後の見栄にすがる。「公開しなければ民は——」
王妃が扇を一度だけ開く。
「民は眠りを望む。本日の“公開”は台帳のみ。払うものと払わないものを見えるように」
私は**支払いの皿(公開台帳)**を読み上げる。
人(白線・列整備・折り座面・薄塩スープ)実費:支払い
祈り(薄薔薇・鐘)実費:支払い
光(幻灯・香幕)実費:半減(映え優先分は不採用)
違反(低周波・香糸)相殺/罰金は市条例へ
断罪企画:受領不可/返金=辞退
肩カメラは何も映すものがない。数字だけが壁に残る。
ざまぁは静けさで起きる。
◇
儀礼の仕舞。
私は壇の縁に白湯の蒸気を沿わせ、“断罪の席”に付着した薄いざらめを長柄の小匙で掬う。
苦い——誰かに勝ちたいだけの砂糖。
いただきます。
喉で割ると、広間の音が一段落ち、呼吸が丸くなる。
数字板が示す。
呼吸−20%/騒音−22%/滞在+10%(広間)。
転倒0/救護0。
王妃の肩が一拍落ち、レティシアの喉がさらに人へ。
王太子は——旗を握ったまま、何も言えない。支払いの皿の朱が先に喋ってしまったから。
◇
片付け。白石を拾い、折り座面を畳み、数字板を外す。
エリアスが列匙を一拍。ちり。
「……拍があれば、怒号は消える」
「匙があれば、断罪も皿に戻る」
彼はうなずき、小声で言った。
「これが俺の職務で、君が君の礼儀だ。——一緒にやると眠れる」
「七時間八分、目指しましょう」
恋はまだ薄塩。でも、一拍ぶん近い。
◇
店に戻ると、回遊通信の号外が静かに差し替わっていた。末尾に小さく——
《王宮広報》:本日“断罪企画”は受領不可/返金=辞退。数字は呼吸−20%/騒音−22%。
見出しは派手でも、皿は静かに返る。
ククが星を胸にくると鳴き、列匙の微鈴が答える。
私は白湯に朝の一匙を半分だけ溶かし、帳面に刻む。
本日の記録
大広間運用:映像不可/台帳公開/人→祈り→光配列維持
指標(広間):呼吸−20%/騒音−22%/滞在+10%/転倒0
断罪企画:受領不可/返金=辞退(王妃承認・朱)
《エクラ》:幻灯+低周波合成音→灰吸い/試薬曇り→却下
《ルクス工房》旧派:“映える匙”→受領不可/王都規格=列匙のみ
王妃・ロジェ:支払いの皿v1.1運用(光実費半減条項追加)
レティシア:借り物0/発声基音−半音
黒狼隊:白線整流/列匙一拍で声量2維持
エリアス:睡眠7h07m(予測)/**“一緒にやると眠れる”**発言
クク:眠り番(鳴き0)
<次回予告>
工房の旧派離反、代理店の撤退交渉最終局面。——王冠の外で**“最後の飴”が砕ける夜、三本の匙に四本目**——“言葉の匙”が加わる。恋はまだ薄塩、だが一拍は呼吸になる。