表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

第7章【選択の影、記憶のかけら】

Scene:夕暮れ ― 校舎の階段踊り場


夕焼けの光が、半透明の階段窓から差し込む。


真野カケルは、その光の中でプリンのフタを開けていた。

隣に立つクラウ・リヴィエールは、相変わらず不機嫌そうな顔で壁にもたれている。


「クラウって、最近ちょっと真面目すぎじゃない?」


「そうか?」


「前はもっとこう、“うるせえプリン食っとけ”って感じだった気がする」


「それ、そんな言い方だったか?」


クラウは小さく笑い、カケルの頭を軽くこづいた。


「お前が“日常”の中心にい続ける限り、こっちはその重力に引っ張られるだけさ。……安心しろ、良い意味でな」


「……うーん、褒められてるんだよね?」


「たぶんな」


カケルはスプーンでプリンをすくいながら、曖昧な笑みを浮かべた。


世界の裏側で進行している異変。それに、彼自身は――本当に、無自覚のままだ。


けれど、彼の“普通”は確実に周囲を変えていた。


世界が、彼に合わせて、少しずつ「日常化」していく。


その事実を、クラウは誰よりも近くで目撃していた。


 


Scene:深夜 ― 図書室の奥


白鷺ユイは、静まり返った資料室に一人、魔導結界を張っていた。

光の帯が封印された書物の鍵を外すと、重厚な書体が目に飛び込む。


《均衡因子について》


そこには、伝承にすら残らない、世界の“初期調律者”の記録が綴られていた。


存在するだけで空間を安定させ、対極的な力を打ち消し、世界に日常をもたらす者。


ただし、ひとつだけ。


《その存在が“覚醒”すれば、世界は――“彼に都合のいい形”へと再構成される》


「……そんな、ことが……」


ユイの指先が震えた。


思い出すのは、小さい頃に見た“夢”の中の少年。

空の上に浮かぶ都市、夜空に話しかけるその背中。


(あれは、カケル……?)


彼女はまだ、自分の中にある“答え”を信じきれずにいた。


 


Scene:地下観測室 ― アナスタシアと神代レナ


重厚な自動扉が閉まり、結界が張られる。


神代レナの無機質な声が響いた。


「彼は“再構成因子”。論理的に言えば、空間構造を再定義する存在です」


「ええ、観測波もそう示しています。……でも、それだけじゃない」


アナスタシア=クローデルは、観測スクリーンに映るカケルの姿を見つめながら、そっと言った。


「彼の周囲には、“安心”がある。まるで、世界がその安らぎを求めて……寄ってくるみたいに」


「それは理論ではありません。あなたの“感応”に基づく仮説です」


「いいえ、感応ではなく、確信です。私たちの論理では測れない――“存在の在り方”」


レナは少しだけ黙ったあと、低く告げた。


「では、逆に問います。“異世界化”を仕掛けている側が動き出した場合、彼はどうなりますか?」


「……世界そのものが、彼に抗うかもしれません」


「そのとき、彼は?」


「……きっと、それでも笑っていると思います」


アナスタシアの声には、わずかに震えがあった。


 


Scene:カケルの部屋 ― 深夜


夢を見た。


空に浮かぶ都市――ルクスティナ。


少女がそこにいた。

白銀の髪、深い蒼の瞳。星のペンダントが胸元に揺れていた。


「……君は、誰?」


「あなたが忘れても、わたしは……忘れない」


その声が響いた瞬間、カケルは目を覚ました。


枕元には、見たことのない写真が置かれていた。

そこには、夢の中の少女――ルミアが、穏やかに微笑んでいた。


「……どうして、これが……」


写真の裏には、手書きの文字があった。


《きっと、君が世界を守ってくれるって信じてる》


 


Scene:学園正門 ― 翌朝


その日、世界は確実に“音”を変えた。


校門上空に亀裂が走り、空間がほんの一瞬、異なる密度を持つ。


風が渦巻き、何かが“侵入”した気配。


そして、そこに現れる黒髪の転校生。


深紅の瞳に浮かぶ、かすかな嗤い。


「さあ――“日常”の解体を始めましょうか」


世界は、静かに、カケルと対極にある“意志”に触れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ