第2章【元・勇者(フリーター)、バイトに落ちる】
放課後、駅前の商店街。
空に裂け目が開いた昨日から、朝来坂の街では“光の柱”が時々立ち上るようになっていた。
「封印が弱まりつつある」だの「七つの鍵が揃った」だの、街中がファンタジーRPGのようなざわつきに包まれている。
だが、カケルは今――バイトの面接に来ていた。
「高校生か、うーん、最近ウチもいろいろあってな……」
と困った顔で言うのは、古本屋の店長。
「うち、最近“異世界の転移者”がよく来るのよ。客が全員エルフとか、そういう日があるのよ。日本語、通じないのよ」
「だいじょぶです、指差しと根性でどうにかなります」
「そういうタイプ、すぐ勇者に選ばれて辞めるのよ」
結局、採用は保留になった。
面接帰り、カケルは商店街の自販機前に座り込んで、トコトコと缶コーヒーを分け合っていた。
すると、上空から何かが落ちてくる。
ドガァアァン!
爆音と共に地面に叩きつけられたのは、金髪の少年。マントを翻し、剣を背負ったその姿は、明らかに普通ではない。
「……ここが、魔王の拠点か!?」
「いや違う。たぶん商店街の“中村屋”」
「貴様が……この世界に“深淵の歪み”をもたらす者、真野カケルか!!」
「ちょっと待って。誰がそんな中二病なあだ名つけたの……?」
その金髪少年――クラウ=リヴィエール(自称勇者)は、異世界から飛ばされてきたらしい。
魔王討伐の最中、“転移の渦”に飲み込まれ、気づいたらこの日本に落ちていたという。
その“渦”の中心にいたのが、なぜかカケルの存在らしい。本人は完全に心当たりがない。
だがクラウは問答無用で言い放つ。
「貴様の中には……『混沌の核』が眠っているッッ!」
「いや、今おにぎり食ってるから、今おにぎりの核だけど?」
結局、クラウは追放された異世界に戻れず、カケルの家のソファに居候することに。
生活費は自分で稼ぐように言われたため、コンビニでバイトを始めるようだった。
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東雲ユイの独白
ユイは、図書館でこっそり古代文献を調べていた。
数百年前に記録された“転移の徴”と、現在起きている異変が酷似していることに気づく。
そして――そこには奇妙な一節があった。
「彼が目覚めしとき、世界はすでに歪みの内にあり、日常は虚構の殻となるだろう」
「“彼”って……まさか……」
彼女の視線の先には、教室であくびをしながら机に突っ伏すカケルの姿が。
(でも、何なんだろう。あの人の周囲だけ、全部……変な意味で平和なんだよね)
そして放課後、彼女は商店街で、クラウが路上で焼きそばパンを転売しようとしてカケルに止められている姿を見かける。
(……ますます、訳が分からない)
⸻
空に、再び“光の柱”が立つ。
その中心には、フードをかぶった謎の存在が、地上を見下ろしていた。
「……まだ目覚めぬか。**“世界の再構築者”**よ」
一方その頃、カケルは帰り道の自販機でプリンシェイクを買いながら呟く。
「クラウ、夕飯カレーでいいよなー。あと風呂順番守れよ」
世界のほうが、日常に合わせて折れ始めていた。
世界線がごちゃごちゃしててわかりにくいですよね?
わたしもわからなくなってきましたがこのままいきます笑