表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

番外編【還る者たち】

Scene:放課後の校舎裏――春の風


 


校舎の裏庭、桜の花びらが舞っていた。

その静けさの中に、ふたりの姿があった。


クラウ・レーヴェルとアナスタシア=クローデル。


どちらも、異世界からこの地へと“来てしまった”者たちだった。


「……ここも、静かになったな」


クラウは手にしていた小さなコンパス型の装置を弄びながら呟く。


「世界が“調律”されたんだもの。異世界の欠片も、ほとんど消えてしまったわ」


アナスタシアが、眼鏡越しに空を見上げる。

そこには、もう裂け目も、魔導の痕跡もない。


ただ、青空と白い雲だけが穏やかに流れていた。


「これ以上、ここにいる意味はあるか?」


「……それでも、帰る場所があるとは限らないわよ」


クラウは肩をすくめる。


「だが、元の世界〈セリア=アルダ〉がまだ存在しているなら、俺は帰るべきだ。

……魔王との決着も、仲間たちとの約束も、まだ果たしちゃいない」


その言葉には、揺るぎがなかった。

勇者としての誇りと未練が、確かにそこにあった。


「……彼が、すべてを正した世界で、私たちだけが“ここに留まる”理由も……もう、ないのかもしれないわね」


アナスタシアもまた、どこか遠い目をしていた。


彼女は“観測者”だった。あらゆる世界の因果と構造を記録し、理解することが己の存在意義だった。


「でも、私たちがここにいた“記憶”は……確かに残ってる。忘れられても、消えないわ」


クラウはふっと笑う。


「そうだな。……“あいつ”が最後に残してくれた“日常”だ」


 



 


Scene:神代レナの研究室


 


「次元遷移門は、あと72時間以内に閉じるわ。それを逃せば、もう帰還は不可能」


神代レナが静かに告げると、クラウとアナスタシアは小さく頷いた。


「東雲ユイには?」


「……伝えなくていい。あいつが、泣くのが目に見えてるからな」


クラウが軽く笑って言うと、レナはわずかに目を伏せた。


「“観測は終了した”。私もこれで、ただの人間に戻るのかもしれない」


「それも、カケルが望んだ結末のひとつでしょうね」


アナスタシアは、研究机の上に一枚の写真をそっと置いた。


それは、かつて誰かが笑っていた放課後の風景。

顔はぼやけて、名前も思い出せないけれど、確かに“その人”がそこにいたという、証拠のような一枚。


 



 


Scene:別れの朝


 


校舎裏に、再び立ったクラウとアナスタシア。


彼らの前には、薄くゆらめく“門”が開かれていた。

それは、星の石の断片を用いた装置によって、一時的に開いた異世界への帰還口。


「行くのか?」


「ええ。でも……また来られる気もするわ。彼が残してくれた“構造”の名残が、どこかにある気がして」


「それは……便利な言い訳だな」


クラウが笑い、アナスタシアも笑った。


「……ありがとう。ここでの日々を、私は忘れない」


クラウは頷くと、ふいに空を見上げた。


青い空。雲の向こうに、誰かが手を振っているような気がした。


「おい、カケル。お前の望んだ“日常”は、ちゃんと守ったからな」


そう言って、彼は一歩を踏み出した。


その先は、かつて彼がいた場所。

剣と魔法と、英雄譚が息づく世界〈セリア=アルダ〉。


 


アナスタシアもまた、静かにそのあとを追う。


そして、門が閉じられると、春の風が花びらを巻き上げた。


 


──日常は、今日も変わらず続いている。


けれど、空の下のどこかで、きっと彼らは戦っている。


誰かが守ったこの世界の中で、彼らは確かに“生きて”いる。


 


Fin.



これにてこの物語は終了です。

小説にしてはお粗末な、小説風プロットで本筋のみの駆け足な執筆でしたが、予想より沢山の人に読んでいただけてとても励みになりました。


機会があれば、少し寄り道もする小説に書き直せたらなとおもっております。

(バイト風景、プリン事変、異世界化での面白事件等々。

コメディ寄りの話は考えていました…)


とりあえず、完結を目標とした小説で、無事完結まで行きつけほっとしております。


ここまでのご愛読、ありがとうございました。



現在、連載中の小説です。

良ければ寄り道して頂けたらと思います。

こちらは長編になる、予定…?

https://ncode.syosetu.com/n5127kv/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ