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第8章【世界律の軋み】

Scene:黄昏 ― 学園の空の裂け目


放課後のチャイムが消えた瞬間、空気が“きしむ”のを感じた。

昼と夜が同居するように、青空の上にもう一枚、逆向きの夕暮れが重なる。


その向こうから降り注いだのは、

黒髪の転校生――深界連合の尖兵、アルト=ヴァイス。

背中には異界紋章が揺れ、冷たい微笑みを浮かべていた。


「ごきげんよう、“普通”な皆さん。

これより、世界の真実をお見せしましょう」


彼の一声とともに、校舎の壁が半透明に波打ち、内部の教室がそのまま見えた。

空間が“層”で剥がれ、裏側の異界が透けて映る。



Scene:校庭 ― カケルの前に立つ影


真野カケルは、芝生でのんびりと牛乳パックを振っていた。

異変に気づかず、むしろ楽しげに空を見上げる。


「わあ……空、二重になってる。面白いな」


その背後に――足音ひとつ立てずに、アルトが現れた。


「君が、“再構成因子”か。

存在そのものが世界を“日常”に引き戻す──

しかし、その力ゆえに世界は、永遠に君に縛られる」


カケルは振り返り、にこりと笑った。


「縛られるって……どゆこと?」


「説明は不要だ。君の“日常”を終わらせるために来た」


アルトが手をかざすと、地面の芝生が黒い岩になり、校舎のガラスが鋭い結晶に変わった。

“異世界化”が一気に加速する。



図書館:本棚が無数の異形の書物に置き換わり、囁き声が蔵書を漂う。

体育館:宙に浮かぶバスケットゴール、重力の上下反転が断続的に発生。

購買部:陳列棚が螺旋状に組み替わり、食品が奇妙な魔法陣を描くように漂う。


生徒たちは驚き恐れながら逃げ惑う。

ただひとり、カケルだけは――


「うわっ、ちょっとデコボコ舗装みたいだな」


メロンパンを頬張りつつ、傾いた廊下を軽やかに歩き出す。



Scene:アナスタシアとユイ ― 共鳴と覚悟


旧校舎屋上。

銀髪のアナスタシアは計測器を構え、空間歪みを追う。

東雲ユイは魔導書を抱え、必死に符丁を唱えている。


「……再構成波の振幅が収束しない。まるで、反作用が不断に起きているみたい」


「ユイちゃん、無理しないで! でも、止めなきゃ――」


ユイは震える手で書物を押さえながら息を切らす。


「……私だけ、彼の“日常化”を止められる気がするの。

あの人の“普通”じゃなくて、本当の世界の姿を、守りたい!」


アナスタシアは静かに頷いた。


「なら――私も、共に戦う」


二人の視線が重なり、凛とした決意が屋上を満たす。



Scene:校庭 ― カケルの笑顔が世界を返す


アルトが決定打の魔導紋を描こうとしたその瞬間。

夜空が震えた。


「ちょっと待った!」


カケルの声と共に、世界が“泡”のように弾ける。


結晶化した校舎が、瞬く間に元のガラスとコンクリートへ戻る。

宙に浮かぶバスケットゴールは静かに降り、異形の書物は普通の児童書へと還る。


アルトは驚愕の表情を浮かべた。


「な……なにをしたんだ……!?」


「日常ってのはさ、誰かが“そこにいる”って思うだけで保たれるもんなんだよ」


カケルは笑いながら、メロンパンを差し出す。


「食べる? これも世界の一部だしね」


その無邪気さが、世界を再び“日常”へと引き戻していく。



Scene:夜明け前 ― 神代レナの観測レポート


記録者:神代レナ

No.58【新規軋み干渉と日常反作用】


本日0248、世界律干渉者“アルト=ヴァイス”による異世界化攻撃を受ける。

しかし、対象再構成因子“真野カケル”の“日常化作用”により完全相殺。


注記:現象の規模は極大だが、軋みは局所的に留まり、世界全体への拡散は阻止された。

これは――感応的現象ではなく、対象が“意志なく”世界を再定義した結果と考えられる。


予測:アルト側は次回、より広範囲への干渉を行うと予想される。

我々は、彼を“制御”するのではなく、“共存”の道を模索せねばならない。


レナは冷静にレポートを送信し、観測項目を更新した。



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