第1章【日常はファンタジーを飲み込んだ】
はじめまして。
こちらはあまり良く考えずに読むのがおすすめです。
すごーく、ごちゃごちゃしておりまして…
よろしくお願いします。
朝7時15分。目覚ましが鳴る。
……が、止まらない。
「んー……スヌーズ機能、廃止してくれんかな……」
寝癖全開のままベッドから転げ落ちたカケルは、スマホを手に取りながらソファへ移動。
朝ごはん代わりに冷蔵庫から昨日のプリンを取り出す。
テレビでは、
「続いてのニュースです。本日未明、都内の上空に“空中神殿”と思しき建造物が確認され……」
という非日常なニュースが流れていたが、彼はそれを“天気予報と同じトーン”で聞き流す。
「そろそろファンタジー要素も飽きてきたな……現代味濃いめでお願いします」
肩に乗る飼い猫のトコトコが、口に小さな光る巻物を咥えて戻ってきた。
広げると、“王の選定”だの“封印の継承者”だの書いてあるが、カケルはくるっと巻いてゴミ箱へ。
「期末テストを封印してほしいわ……」
この瞬間、彼の背後の壁が「ミシッ」と音を立ててひび割れ、そこから巨大なドラゴンの瞳が覗いていた。
……が、それもスルー。代わりに、冷蔵庫の残りのプリンが気になって立ち上がる。
そのころ、世界中の異能者たちが騒ぎ始めていた。
「何かが、ズレ始めている……!」
「“あの少年”が世界のバランスを崩している……!」
だが当の本人は、今日もフラッと制服のまま、
「……てか今日、体育あったっけ?」と呟きながら学校へ向かうのだった。
朝来坂高校・登校風景。
校門の前には魔法陣のような模様が浮かび、
空にはチラチラと羽根のようなものが舞っていた。
教室の窓の外には、昨日まではなかった浮遊島がぽっかり浮かんでいる。
そんな中――
「おはよー……ギリセーフ」
と、教室にふらっと現れた真野カケル。
寝癖はそのまま、制服のシャツは半分出ていて、
カバンの中には教科書の代わりに異世界語の写本とコンビニおにぎりが詰まっていた。
「え、浮いてる……島……」
「なんか昨日も校長が“七つの門が開かれた”とか言ってたし……」
「絶対これ、異世界が混じってるよね!?世界終わるやつじゃん!」
クラスの空気は朝からピリピリしていた。
が、その中でカケルだけは、まるで天気の話でもしているかのように隣の席の東雲ユイに言った。
「なあ、今日購買パン争奪戦やばそうじゃね?」
「えっ、そっち!? ていうか今それ!?」
ユイは突っ込まずにいられなかった。
昨日、校舎の裏に剣が刺さった岩が現れた。
放課後には見知らぬローブ姿の転校生が現れ、なぜか「古代語」で自己紹介した。
しかも、今日のホームルームの担任が突然、白い魔導服姿で来た。
「えー、みなさん。来週から試験……と、“空位の王”の選定があります。試験が優先なので遅刻はしないように」
「王の選定ってなんですか!?試験より重大そうなんですけど!?」
「選ばれるヤツは勝手に選ばれます。基本スルーで大丈夫です」
(大丈夫なの!?)
クラスがざわつく中、カケルは一人だけ机に伏せてボソッと呟く。
「……でも、昼飯にからあげパン確保できれば、俺はもう王でいいよ……」
すると教室の窓が突風で開き、空から謎の青年が現れる。
「ようやく見つけたぞ、真野カケル……!貴様こそ“第五の継承者”!」
「……いや、俺まだ朝飯も継承してないんで……」
そう言って、彼はおにぎりの封を開けた。
____
放課後、帰り道。
カケルは橋の上でプリンを食べながら、いつの間にか肩に乗っていたトコトコに言う。
「……最近、ほんとRPGっぽくなってきたな」
トコトコは無言で空を見上げる。
そこには、さっきまでなかった「裂け目」のようなものが、空に広がっていた。
その中から、何かが落ちてくる。
剣? 杖? 遺物? それとも――人?
だがカケルはそれを見ても、プリンのスプーンを止めずに一言。
「明日、晴れるといいな」
世界の終わりが始まるその瞬間、
少年の日常は、まだぬるま湯のままだった。