独白
誰にも話さなかったことって、どこに行くんだろうな。
捨てられたわけでもなく、誰かに拾われたわけでもなく、
ただずっと、胸の奥に沈んでる。
そういう言葉が、俺には山ほどある。
そしてたぶん、そのほとんどが──君に向けたものだ。
君が笑ってると、俺も笑えた。
君が黙ってると、俺も口を閉じた。
そんな風に過ごしていた日々は、
あとになって思えば、たった数年だったはずなのに、
今でも、時間の重さを計る基準になってる。
「いつ頃から、なんとなく心が空っぽだったか?」って問われたら、
君がいなくなってから、って答える。
それは大げさじゃない。
誰かが隣にいても、
その人の名前を覚えても、
笑って、うなずいて、何かを分け合っても、
どこかで、ずっと思ってる。
“君だったら”って。
君だったら、こんなとき何て言ったかな。
君だったら、この風景を見て、どんな顔したかな。
君だったら、俺をどう見たんだろうなって。
誰かと比べてるわけじゃないんだ。
比べられるようなものじゃない。
ただ、“君”だけは、誰とも交わらなかった。
どこにもいない存在になった。
だから、どんなに日常が積み重なっても、
その輪の外に、君だけがぽつんと立っている。
もう振り向かないのに、
もう呼んでも来ないのに、
君は、ずっとそこにいる。
今さら言葉にしても仕方ないけど、
それでも、ひとつだけ。
ひとつだけ伝えられるなら。
俺はさ、なにもいらなかったんだ。
君が世界にいれば、それでよかった。
それだけで、十分だったんだよ。
恋人とか、特別な関係とか、そういうのじゃなくてさ、
ただ、生きててくれたら、それでよかった。
どこかで、今日という日をちゃんと過ごしてくれていたら、
それだけで、俺はちゃんと呼吸ができた。
言えばよかったな、ちゃんと。
どうでもいい話ばっかりじゃなくて、
もっと大事なこと、言えばよかった。
でも、言えなかった。
なんでかって?
……怖かったからだよ。
もし「もう会えない」って言われたらって思ったら、
息が詰まったんだ。
だから、君を見ながら、黙ってた。
それが、俺なりの「そばにいる」の形だったんだ。
馬鹿だよな。
そんなの、何の証にもならないのに。
君の写真はない。
手紙もない。
記念日も、約束も、形として残ってるものはなにもない。
でも、記憶だけがある。
あまりにも鮮やかで、あまりにも静かで、
夜の底から浮かんできて、俺の心をまた染めてくる。
忘れたくないんじゃない。
忘れられないんだ。
だから今も、心のどこかで願ってる。
もし、もしも、
君がまだこの世界のどこかで生きてくれてるなら。
誰かのとなりで笑っていてくれるなら。
それだけで、俺は──
それだけで、俺はちゃんと歩ける。
ほんとにさ、
ただ、君が世界にいれば、それでよかったんだよ。
ごめんね愛してた
これからも君だけを
そんなお話