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05 覚悟

「はい。次の方~! どうぞ……どの竜を喚ばれますか?」


 列になって並んでいた次の竜騎士を呼び、私は手のひらを軽く合わせた後、彼は五匹の竜と契約していることがわかったので、どの竜を呼ぶか聞いた。


「序列第三位の火竜を頼む」


「わかりました!」


 竜の契約を持つ竜騎士の中には、力量差で明確な順位……つまり、竜位にのっとって、竜たちの契約が存在する。


 五個あるうちの真ん中、三つ目の竜の契約を私の持つ竜喚びの能力で反応させて喚び出す。


 ……この感覚をどう例えれば良いのか、金属製の楽器が並んで居て、私は叩くためのバチを持ってかき慣らしている。


 そうしたら、応えてくれる……今からそこに行くよって、どんどん近付いて来る。


「あ。来ましたね……」


 遠くの空に赤い色が見えて、私は共に空を見上げていた竜騎士に微笑んだ。


「ありがとう。新入り聖女さん」


 私の列、最後尾並んでいた彼はにこっと微笑み、城の屋上にある竜の止まり木へとやって来た竜に飛び乗っていた。


 ……良し、今日の業務はこれにて終了! 私って優秀……というわけでもない。


 平常時の竜喚び聖女の日々の役目は、昼前の訓練時に竜を喚び出すことだけ。


 一応、何か起こった時用のために一人だけは必ず竜騎士団に当番で残ったりもするけれど、基本の日々の仕事はそんな感じで終わる。


 これから、どうしようかなー!


 辺境から王都に住むようになると、もう立ち並ぶお店の数が段違いだし、行きたい店が色々と多すぎるのよね。


 ちなみに私が現在所属している教会は、様々な能力を持つ聖女にお金を惜しまない。なんでも、金銭的な問題で逃げられるくらいなら、十分なお金を持たせれば逃げないだろうという考えらしい。


 確かに、それは私も……実家が公爵家でなければ、聖女という職業を辞めようとは思えなかったかもしれない。


 だって、潤沢な給金を思えばお金の苦労なんてあるわけがなく、生まれ持っている能力のみで生きられる人生が、あまりにも簡単な人生(イージーモード)すぎるもの。


 聖女よりも元の身分である公爵令嬢に戻りたいなんて、私くらいしか言えないかもしれない。公爵家に天啓持ちが現れるなんて、そうそうあることではないけれど……。


「ラヴィ二ア」


「あ。ジェイドさん! お疲れ様です」


 ジェイドさんは竜が居なくても、戦闘訓練は休まずに出て居る。これからは竜に騎乗しての訓練になるので、彼は一人で体力増強の訓練をするのかしら。


 竜は誰かに借りることも出来るけれど、結局のところ、戦闘訓練は自分の竜でなければ意味はないものね。


 私がここに来てから、そんなに経っていないけれど……ジェイドさんがたった一人で、汗を流している姿を良く見掛けた。


 竜が居ない竜騎士。嘲られることだって多かったはずなのに、孤独の中で良く心が折れなかったと思う。ポッと出の私だって、そう思ってしまうくらいなのだ。


 付き合う時間も長い周囲の皆は、よりそう思っているだろう。もう諦めてしまえば、苦しくないし、辛くないのに……と。


「いや、時間がかかってすまない。あのこと、なんだが……」


「……あのこと、ですか?」


 私は恥ずかしそうに切り出したジェイドさんは何のことを言っているんだろうと、きょとんとしてしまった。


「いや、その、あの……あれだ。君が初めて会った時に話していただろう」


「あ。私とようやく、肌を合わせて……もがっ!」


 私の口を慌てて大きな手が塞ぎ、ジェイドさんは慌てて周囲をきょろきょろと見回していた。


「それは、そうなんだが……何を言い出すんだ。誰に聞かれているかわからないのに、誤解されるとまずいだろう」


 ジェイドさん、顔が真っ赤になっている。


 別にそれを聞かれたって、こんなところでそんな話をするはずもないし、冗談だってわかると思うけど……真面目な人を、からかい過ぎてしまったかもしれない。


「……すみません。明け透けに言いすぎました」


 手を外して貰って私が反省する姿勢を見せると、ジェイドさんは小さく息をついた。


「すまない。俺の勝手な都合で、君のこと何日間も、待たせてしまい」


「いえ……! それは良いんですけど、あの……大丈夫ですか?」


 彼と数日話しただけだけれど、ジェイドさんは、かなりの堅物なのだ。そういう性的な話題について、抵抗感が凄い。私の勘だけど、多分、おそらく……童貞なのだと踏んでいる。


「考えたんだが、俺は両手を縛って背中を向いているので、君が身体に触れてくれないだろうか」


「……え?」


 並々ならぬ覚悟を持って伝えたらしい、生真面目な表情のジェイドさんに、私はぽかんとしてしまった。


 え。何……その、大人の夜の遊びみたいな、そんな状況(シチュエーション)……私の安全を考えれば、それはそうかもしれないけど……ジェイドさんなら、私のこと……襲ったりはしないと思うけど。


「いや、その後の責任も取れないので、付き合っている訳でもなく、婚約もしていない女性を、自ら触ることは出来ない」


 まっ……真面目ー! 確かに、竜騎士ジェイドさんに襲われても困るけれど……うん。まあ、私の安全のために一番良い方法って、それかもしれないけれど。


「……見えない方が、なんだか、逆にいやらしくないですか?」


 私はそう思ってしまった。


 目隠しをしてそういう事を楽しむ文化もあるらしいのに、いやらしい気持ちが倍増してしまわないだろうか。


「そうかもしれないが、そういう事態にこれまでになったことがないので、自制が利くか自信がない。だから、何もないという、安全策を取りたい」


「そういうものです?」


 私はここで絶対、ジェイドさんは童貞だと確信した。だって、これまでに、そういう……って、やだ。それは、今回の一件には関係ないわ。


 私は心に浮かんだよこしまな想いを振り切るように、首を横に振った。


 いけないいけない。ついつい、そういう方向に想像力が羽ばたいてしまった。落ち着いて、私の心に住む想像力の鳥。


「これならと思うのだが、もし、嫌なら別に手段を考えるが」


「いっ……いえ……それでいきましょう!」


 ジェイドさんの気持ちが変わらない内に、彼の竜の情報を少しでも探らなければ。


 竜が遠方過ぎる場所に居ると肌の接触面が小さいと全く情報が入らず、どの方向に居るかも曖昧なのだ。


 ジェイドさんの心の準備待ちで、ずっと停滞していたことが、ようやくこれで一歩動き出す……私としては、早く見付けてあげたいし、早く普通の貴族令嬢に戻りたい。


 二人の目的は同じ場所にある。


「それで、今夜、夕食終わりに……俺の部屋に来てくれ」


「え? 今夜ですか?」


 なるべく早くにしたいとは思うけれど、あまりにも急なことで少し戸惑ってしまった。


「そうだ。こういうことは、思いついたら早い方が良い。時間を掛けても色々と生殺しだ。すぐにしよう」


「わかりました」


「念のために言っておくが、俺の部屋でする理由は、鍵を掛ければ絶対に他の誰かが入って来ないから安全だし、君が着替えを終わらせてから、俺の手を解いてすぐ帰ってくれて良い」


 あ。


 私が半裸のジェイドさんの両手を縛る→私、服脱ぐ→竜喚びする→私、服着る→半裸のジェイドさんの手を縛る縄解く……そのような何も起こらないこと前提の流れですね。


 確かにこれだと、彼に私が襲われる隙間がない。


 それに、私はよくよく考えると、初対面のジェイドさんと待ち合わせをしていた会議室で、それをしようとしましたね……!


 確かにあの場所は仕事用の部屋で、部屋の使用許可は取ってはいたけれど、誰かが何かの理由で入って来ないとは言えない。


 ジェイドさん、あの場で拒否するわけだった。あまりにも、あの時の私が考えていなさすぎだったわ。


「……では、私もこの服が脱ぎにくいので、夕食に間に合うように着替えてきます!」


 私は現在、背中部分をリボンで編み上げるデイドレスを着ているので、脱ぎ着に誰かの手伝いが要る。自分だけで脱ぎ着出来る、前開きの編み上げドレスを着ようと思った。


「あ、ああ」


 その時のジェイドさん……顔が真っ赤だった。指摘して、揶揄うことはためらわれたので、私は黙ったままでお辞儀をして自室の方向へと進んだ。


 ……私ったら、なんて純粋で誠実な男性を相手取って、良くわからない要求しているのかしら。


 待って待って。違うわ……! 私がしたいと望んだわけではなくて、二人が望んだことを追求した結果、そうしているだけなのよ。


 そうなの……竜を探すために、必要不可欠なことだから、仕方なくしているだけなのよ!

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