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03 夜会

 煌びやかで華やかな社交界。


 王城の大広間を彩るような色とりどりの美しい貴婦人たちに、寄り添う暗色のタキシードを着た紳士たち。


 私も竜喚びの能力さえ持たずに生まれていたら、ここで問題なく生きていたんだろうと思うし……これから社交界へと戻るためには、隣に立つ竜騎士の呼んでも来ない竜問題を華麗に解決する必要があった。


「そして、何故、君と俺が夜会に一緒に出ることになるんだ」


 私たちはもう既に一回踊って終わり、冷たい飲み物を口にしていた。


 会場入りしてからかなりの時間が経っていると言うのに、何を今更と私は肩を竦めた。


 時間が欲しいと言うジェイドさんを私は早速城での夜会へと誘い、竜がそもそも居ないので地上訓練以外の時間は自由に使えるらしい彼を有無を言わさず連れてきた。


「これは古典的ですけど確実に、男女の仲を深める方法です。ほら。私と肌を合わせたくなりません?」


 というのは、ここに居る理由の半分で、久しぶりに帰ってきた王都での夜会に参加したかった気持ちも半分です。


「いや、その言い様は……あまりにも、色気がなさすぎるだろう」


 準備の良い私は突然男性と仲を深めなければいけない事態もあろうかと、今季流行の形のドレスを早々に購入していたので、水色の可愛い夜会ドレスを着ていた。


 えへへ。似合っていて可愛いねって、そう言ってもらっても大丈夫ですよ……竜騎士が式典で着る正騎士服を引っ張り出して来ているジェイドさん。


 全く褒め言葉くれなくて、なんだかガッカリですけど……見た目は王子様みたいですね。


「私の言い方がどうのと、細かいことを言っている場合ではありません。自分の竜を、喚びたくないんですか?」


「……それは、それはもちろんそうだが」


 私の主張に苦笑いしているジェイドさんの整った顔。何かしら。夜会会場のシャンデリアの反射する光のせいか、やけにキラキラ眩しく見える。


「あ! そういう……女性を虜にすることが目的みたいな、そう言う表情止めてもらえます? うっかりこっちも恋に落ちちゃうので!」


 私が半歩距離を取れば、慌てた彼も半歩後ろに下がった。


「は? いや、自分ではどういう表情かわからないが……君をあまり見ないようにはする」


「そうしてください。顔の良い男性は、本当に気を付けるべきだと思うんですよね……!」


 女の子の心を何の気なしに盗むなんて、とんでもない悪行ですよ。出来れば、そちらの気のある女性の前でしていただけます?


「そ……そうか。そんなことを、これまで考えたこともなかったな……」


 外見が良いのに女遊びなんて興味なさそうなジェイドさんは、とても素敵な方です。それは、私だって認めます。


 ですが、職業竜騎士なので私は恋に落ちるわけにはいかないのです。そちらについては、やむにやまれぬ事情がありまして、どうかご了承ください。


「どうして、聖女を辞めたいんだ? 一生安泰と言えば、そうではないのか」


 ジェイドさんは、ふと思いついたように私に聞いた。


 『普通の貴族令嬢に戻りたい』という私の主張は、あまり受け入れられるものではないのかもしれない。


「それは、確かにそうです。教会から派遣されて竜騎士団に居れば、竜喚びの天啓を持って生まれた私は一生大事にされて、守られます。けれど、それではあまりにも面白くないんです! 私は色んな人と出会って、色んな事を経験したいです!」


 片手で拳を握って熱弁した私に、ジェイドさんは苦笑いを崩さずに言った。聖女を辞めたい理由の本質でもないけれど、これは嘘でもない。


「そうか……まあ、価値観は人それぞれだからな。女性は立場の安定を望む人も多いようだから」


 寂しそうな表情に、悲しそうな目。


 あ……いけない。例の元婚約者を思い出させたかもしれない……竜が来ない竜騎士なんてって、理不尽に捨てられちゃったんだもんね。可哀想すぎる。


 竜がいくら喚んでも来てくれない……ただそれだけで、彼はまともな竜騎士ではなくなって、婚約者にも捨てられた。


「変わり者と言えば、ジェイドさんもそうではないですか。来ない竜を待ち続けるのは、何故ですか」


 竜騎士になれたという事実だけで、彼は生きていけると思う。けれど、肝心の竜が居ないのに竜騎士であり続けるには無理がある。


 竜位の高い竜と契約を結べるなんて貴重な存在だから、王国側としては彼の竜が戻って来て、以前のように活躍してくれることを望んでいるだろうけれど……。


「さあな……なんでだろうな。わからない。あいつとの関係が、上手くいっていると思って居たのは、俺だけだったのかもしれないが……わからない。裏切られても信じてみたいという、単なる幻想なのかもしれない」


 悲しそうで、辛そうだ。


 よくない話の流れを変えようと試みて、より駄目な方向に変えてしまったのかもしれない。


 ……信じてるって、喚んでも来ないのは、事実ではないですか。そう思ってしまった。けれど、この人の前でだけは、それを口にしては行けないことだとわかっていた。


 だって、彼は何を失っても自分の竜を待ち続けている。


 早々に諦めた方が良いのに、そうした方が楽だし、幸せになれるのに……それは、本人が一番に、理解をしていることだろう。


「良かったら、もう一曲……踊ります? 久しぶりにこういう場に来たら、踊りたくなっちゃって、お願いします!」


 なんとか空気を変えたくて私が手を差し出したら、ジェイドさんは微笑んで手を取ってくれた。


 夜会で女性からお誘いするのは御法度ではあるのだけど、ジェイドさんなら許してくれるだろう。


 彼の手はまるですべてを包み込んでくれるような、優しい大きな手だ。刺々しいところはまるでなく、ただ穏やかで誠実で広い心を表すよう。


 ……どうしてなの。


 顔も良くて中身も良くて、貴族出身の珍しい竜騎士だし、真面目だし。職務上の据え膳だとしても、私のことを全くいやらしい目で見ない。


 そういう事を彼に伝えておいてなんだけど、鼻の下を伸ばしていやらしい視線や言葉を向けてくる男性ならば、さっきのやっぱりなしで! と、すぐに回れ右して帰っている。


 自分はセクハラしたとしても、それを先方から返されたくはない、複雑な乙女心なのだ。自分勝手な行為であることは、重々承知しております。


 けど、こんな素敵な人がもし、幼い頃からの婚約者だったとしたら、何があっても私は……絶対に、捨てたりなんて、しないのに。


「ラヴィ二アは……」


 長い長い沈黙を破るように、ジェイドさんに唐突に名前を呼ばれて私は慌てた。


「はっ……はい?」


「どうして、敢えて下品な発言を選んで口にする? ……君は聖女だとしても、アスティ公爵令嬢だろう? 先ほどの夜会の場でも、その場に応じて君は対応していた。それが、わからないはずはない」


 あらあら……ジェイドさんたら。見たままをそのままで判断しないのも、良い男の条件ですよね。


 私たち二人が決して結ばれない運命であるのは、なんだか残念。


「……男性に、必要以上に好かれないためです。私はもうすぐ出会う予定の、王子様と結婚するので! ジェイドさんも、好きにならないでくださいね?」


 私は左右のひとさし指で×を作り、おどけてそう言った。


 アスティ公爵令嬢の私がお上品な発言をするならば、それなりに男性が寄って来る。


 高い身分に珍しい天啓を持ち、美しいと評判だったお母さま似の外見……それは、どうしようもなく仕方ないことだと思うの。


 けれど、結ばれたい好きな男性以外に好かれても、それは必要のない無駄モテであると私は思う。


「ああ……努力はする」


 ……私がもし王位を受け継ぐ王子様と結婚したら、国王令で美男子の皆さんの思わせぶりな言葉を禁止させていただいてもよろしいですかー?!


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