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25 宝石

 そして、私たちはまた、各所からの事情聴取を受けることになった。


 なんでかというと、ヨシュアさんが私とゲイボルグを攫ったのは城内だったからで、私たちが網に入れられて彼が飛行して逃げたのは、皆が目撃していたからだ。


 賊の侵入の再発防止のために、ああいう機械を彼がどこで手に入れたかなどを調べているらしい……私は詳しく攫われた時の状況を聞かれながら『それは、ヨシュアさん本人に聞いて欲しい』を、心の中で何度か繰り返した。


 だって、全く親しくないし……私はヨシュアさんのことは、ほとんど何も知らない。


「んー! 終わった……」


 ようやく私は事情を聞きたいと言われていた関係各所の予定を終わらせると、明るい光が降り注ぐ庭園へ出て大きく伸びをした。


 ようやく、新鮮な空気を吸えた。


 ゲイボルグは逃亡するために一時成竜へと戻されていたのだけれど、死なない程度に長い間血を抜かれていた状態だったらしく、まだ身体の状態は悪く、城へ帰った時にはブリューナグからまだ子竜のままでいろと子竜へと姿を変えられていた。


 子竜姿も可愛いけれど、ゲイボルグ本竜としては、大好きなジェイドさんを乗せて訓練したりしたいだろうに……けれど、一年間も素材として搾取され続けたのだから、それは仕方ないことなのかもしれない。


 ……早く回復したら良いな。


 ジェイドさんを乗せて、空を飛べれば、ゲイボルグはそれが一番に幸せだと思う。


「ラヴィ二ア」


 名前を呼ばれて振り向けば、そこには美形の竜騎士様が居た!


 キャー! 今日も相変わらず、素敵で格好良いですね!


 きらめく金髪が、風にさらさらと(なび)いてますよ!


 もしかして、私と両想いだったりします!? 再確認させていただきたいんですけど!


 いけない。姿を見ただけなのに、興奮してはあはあしちゃう。


「ジェイドさん! ジェイドさんも、事情聴取終わったんですか!? お疲れ様です」


 彼の姿を見て心の中ではじまった大騒ぎは無視すると、私は出来るだけ平静に見えるようにつとめた。いけないいけない。せっかく両想いなのに、変に思われたくないもの。


「ああ。ラヴィ二アも、事情聴取お疲れ様。これから、何かあるか?」


 ジェイドさんはゆっくりと歩みを進め、私に近寄ると眩しそうに目を細め、これからの予定を尋ねた。


 もっ……もしかして、これって、私へのデートのお誘いだったりしますか!?


「なっ……何も! 何もないです! すごく暇です!」


 今回は本当に何もないですけど、多分きっと、何かあってもなかったことにします……!


「良かったら、付き合ってもらえないか。宝石を買いに行こうと思って」


「ああ! ……ゲイボルグにですね!」


 私はジェイドさんが言いたいことを、先んじて察した。


 あの可愛いゲイボルグが卑劣な罠に掛かってしまった理由が、いかにも竜が好きそうな洞窟の中に隠されていた宝物だったのだ。


 そして、それを知ったジェイドさんが『俺が宝石をもっと買い与えていれば』と悔いていたのを、私はめざとく聞き逃していない。


 私からするとそういう話でもないように思えるけど、ジェイドさんが自分の竜ゲイボルグに与えたいと思ったのなら、そうするべきだと思う。


「今から行けるか?」


「行けます!」


 バッと右手を挙げた私に微笑み、待ち合わせ場所を決めて私たちは離れた。



◇◆◇



 私がジェイドさんと連れだってやって来たのは、王都でもその名が知れた高級宝石店だった。


 ジェイドさんは貴族出身なので、慣れた様子で店員に話しかけたりしていた。そんな彼の隣で緊張している私は、こういったお店に来るのは、実は初めてだった。


 何故かというと、こういった宝飾品は流石に私は聖女として貰うお金だけでは購入出来ないし、城の大広間で開かれるような夜会にも出ないのだから、一年に何度かお父様が贈ってくれる分だけで十分だったから。


「わー……綺麗な宝石。高そうですね」


 素直な感想を言った私は、机の上に並べられた光り輝く宝石を見て、ほーっと大きくため息をついた。


 綺麗でキラキラと輝いていて……ゲイボルグは、好きそうだと思う。けれど、私には宝石がこうなっているのが良いという基準がまったくわからないので、綺麗ですね……としか言えない。


「おいおい。アスティ公爵令嬢の言葉とは、とても思えないな」


 苦笑いをしているジェイドさんが言いたいことは、理解出来る。けれど、私は公爵令嬢とは言っても竜喚びの天啓持ちで、幼い頃から教会で聖女学校に通った。


 教会での決まりで周囲とも平等に扱われて来たし、生まれ持った高い身分よりも『竜喚び聖女』としての自分の方が、しっくり来るのだ。


「あの……どれにしますか?」


 私には輝く宝石たちを見ても、色が違う程度にしかわからない。多分、色でも価値の高低はあるのだろうと思う。


「ラヴィ二アはどれが良いと思う?」


 質問に質問で返されてしまった。けれど、よくよく考えてみたらジェイドさんはこういった宝飾品を、当然だけど自分用に購入したことはないと思う。


 元婚約者ナタリアさんには、贈ったかもしれない……彼女とのことはあんまり考えたくないけど、店員さんとの会話に慣れているって、そういうことだものね。


 ……ナタリアさんは、良い女だった。彼女を悪くは思いたくない。


 けれど、ジェイドさんの元婚約者と思うと、説明しがたい、えも言われぬ気持ちになってしまう。私が未熟なだけだけれども。


「……うーん。それでは、これはどうでしょう? ゲイボルグはジェイドさんが大好きなので、きっと喜ぶと思います」


 私は隣に居る彼の青い瞳と、良く似た色の宝石を指さした。キラキラときらめいていて、とても美しい。ゲイボルグはジェイドさんのことが大好きなので、きっと喜ぶだろう。


 むしろ、ジェイドさん大好きな気持ちは、全然負けない私が欲しい……と思ってしまうけれど、今回は宝石大好き竜ゲイボルグのための買い物なので、我慢我慢……私は、大人の女性よ。


「そうだな……そうしようか」


「はい!」


 ジェイドさんは微笑み手を挙げて店員を呼んで、私には聞こえぬように価格交渉などをしていた。


 今はまだ回復中で子竜姿のゲイボルグも、きっと……喜んでくれるわ。


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