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22 隠れ家

「まあ……どうやっても逃亡は無理だから、大丈夫だと思うけど、逃げないでね。少し待っててくれる? まさか、こんな事になっているなんて思わないからさー……部屋も何も用意出来てないんだよね」


 私と子竜姿のゲイボルグは、どこか山の中にある石造り建物の中へと飛行しながら舞い降りて、網の中に入れられているままだ。


 かなりの高所に居るようで、酸素が薄い気がする。


 ヨシュアさんはそこからさっさと移動して、私たちは取り残された。


「キュウ」


 ゲイボルグが私を見上げて前足を当てて、何か言いたがっているようだ。網の縄を切ろうとして頑張ってくれていたけれど、あと二本切れていれば……というところで、移動速度があんなに速くなるなんて思いもしなかった。


「自分のせいって、気にしているの? 大丈夫よ。すぐにジェイドさんが助けに来てくれるから」


 私は小さな身体の背中を、ポンポンと叩いた。


 昨夜、ジェイドさんがゲイボルグは私と居れば良いのではないかと提案してくれなければ、この子は一匹でヨシュアさんに攫われることになったかもしれない。


 そう思うと、ゾッとした。


 ヨシュアさんは賞金稼ぎをしていて、仕事で魔物を倒したり悪人を捕らえたりと報酬を得ているはずだ。


 だから、そんな彼が子竜ゲイボルグを自分が欲しがっている素材が手に入るだけのなんでもない存在として扱っても仕方ないのかもしれない。


 けれど、竜騎士ジェイドさんにとっては、ゲイボルグは家族のような存在だ。彼にとってはとても大事で、彼は長年の付き合いのある婚約者と別れたとしても、ずっと来てくれるのを待って居た。


「大丈夫。私が居るでしょう?」


 子竜の姿のゲイボルグをぎゅっと抱きしめると、出し抜けに背後から声が聞こえた。


「優しいね……お姉さん。俺はそういう子、好きだな」


「なっ……!」


 ヨシュアさんが私たちの近くにまで来ていて、じっと観察するように見て居た。


 え……彼が近付いて来るような、そんな気配全くしなかったのに……?


「すごい。目一杯目が開いているけど、大丈夫? まあ、……驚いているね。俺は腕の良い賞金稼ぎだから、気配消すくらい簡単なんだよね~」


 そう言って、高い位置に固定していた白い凧に金具で固定していた網をパッと外した。呆気ないほど簡単に、私たちの外側にパサッと音をさせて網が落ちた。


「あ。これ、穴開いてるじゃん。すげえ。これって、大型魔物が暴れても切れないのに……流石、小さくても竜ってとこかな。子竜でも、威力がすごいねえ」


 ゲイボルグが一生懸命切っていた縄を見て、感心するように言った。


「あの……私たちをどうするつもりですか。ゲイボルグはこの通りだし、私だって役には立ちません」


「いやいやいや、言ったじゃん。子竜になったからには原因があって、要するにその逆を辿れば良いんでしょ? ……俺はそういう魔法の専門家とも知り合いなんでね。どうにかすることにするよ」


「……すぐに、助けは来ます」


 ヨシュアさんはただの貴族令嬢だと思っているかもしれないけれど、私は教会所属の聖女なのだ。


 しかも、特殊天啓持ち。『竜喚び』はかなり数が少ない上に、私には竜騎士に会う竜を喚ぶという裏技もある。


 そして、私本人も忘れがちなんだけど、生家はアスティ公爵家。


 ノルドリア王国が賞金稼ぎに攫われてしまった私を、このまま放っておくなんてあり得ない。


「そうだね。俺も……そうだろうなと思うよ。竜とお姉さんが攫われたら、すぐに救出に来るんだろうねえ」


「え……?」


 私はヨシュアさんの余裕のある態度を見て、とても不思議になった。


 だって、王国を挙げて彼を追うと言っているのに、どうして彼は、こんなにまで余裕があるの?


「あ。今、不思議に思ったよね。そうだよね……俺のこの隠れ家は、夏でも雪が降るほどの高所にあり、気流の関係で飛びづらく色々あって、竜などの飛行生物は近づかない。っていうか、近づけない」


「うそ……」


 確かになんだか気温が低いし、空気も薄いと思っていたけれど……信じられない。そんなにまで、高所に居るなんて。


「近くには毒性のある植物も多く生えているし、歩けるような道もないので、あの崖を単体で上るしかない。けど、それは至難の業だろうね。俺が持っているような、空飛ぶ機械でもないと、ここに来ることは不可能なんだ……どうにか竜騎士たちが攻略方法を見付け出して来る前に、俺はその竜を大きくして鱗一枚だけ貰って返してあげるから」


 ヨシュアさんの滑らかな説明には、嘘や隠し事は見えない。だから、きっとそうしようと思って居るのだ。


 ここは竜が近づけない気流の乱れがある場所で……? それに、毒性のある植物が生えているって……?


 誰かが救助に来てくれると考えるのは、絶望だと言うことなの?


「……あの……どうやって、この隠れ家を、造ったんですか……?」


 だって、ここは信じられないくらいの、難所にあるということだわ。それなのに、石造りの建物はしっかりとしていて、そんな危険な場所で建てられたとは考えにくいのに。


「俺は造ってない。なんか、使えそうな便利な建物があるから、再利用しているだけだよ」


「え?」


 私が彼の言いように驚くと、面白そうな表情になった。


「ここに来たのは、単に偶然なんだよね~。空飛ぶ凧の試作品造ってもらった時、強風が吹いて流れ付いちゃってさ。それから、隠れ家にここを便利に使っている。賞金稼ぎなんて、因果な仕事で、良く恨まれるからさ~。宿に泊まると寝首掻かれるなんて、日常茶飯事だし。こっちも生きて行くための仕事なんだけどね」


「あ……あの、白い三角形の……」


 あんな風に自由に飛行出来る凧は、私も話にも聞いたことがない。


 だから、あれはヨシュアさんが誰かに特注で造らせた、特別な代物なのだろう。


「そうそう。あれは造って貰ったやつだけど、この場所は俺しか知らないからね~……それに、よしんば場所がわかっても、来られないから。助けを待って居ても、それは無駄だよ」


「無駄なのかは、わからないです!」


 ヨシュアさんは絶対に誰もここには来られないと、そう言いたいみたいだけど、ジェイドさんは『必ず助けに行く』と約束してくれた。


 私はジェイドさんを信じているし、彼がどれだけ凄い竜騎士なのかも知っている。竜位7位のブリューナグと、契約出来るほどの人なのだ。


 ヨシュアさんが無駄だ無理だと言ったとて、ジェイドさんならやってくれるかもしれないと思える。


「そう? 俺はそれは無駄だと思うけど……しかもここに万が一来られたからって、帰りはどうすんの。俺は送らないよ。送るわけないのは、理解してる?」


「……送らなくて良いですよ! もちろん」


 私だって誘拐犯に帰り道を送れなんて、絶対望まないよー!


「ははは。お姉さん、本当に可愛いね。俺に媚びを売ってくる日が、なんだか楽しみだな」


「媚びなんて、売りません!」


 私はキッパリと言い切った。こんな自分勝手な誘拐犯に媚びなんて、売るわけがない。


「……あれ。良いの~? そんな事言って。ここに居るなら、話し相手は俺だけだよ。食事を用意するのも世話するのも俺。逆らわない方が良いと思うよ……そういう元気な子を、俺好みに調教するのも楽しそうだ」


 にこにこと明るく微笑むヨシュアさん。そんな彼の爽やかな笑顔に、私はゾッとしたものを感じた。


 単純な脅しなんかではない。そこにあるのは、無邪気な興味。


 罪悪感なんてなくて……ただの、壊れても大丈夫な玩具のように、思われているような……そんな底知れぬ闇を覗き込んだ怖さ。


「さあ、いこいこ。部屋を用意したからさ……大丈夫。俺はお姉さん可愛いと思って居るし」


 もー……ジェイドさん。早めに助けに来てー!


 半泣きになりながら、私はゲイボルグを抱きかかえて、歩く彼の後に着いて行った。


「その竜から鱗貰ったら、竜は帰すからさ~」


「え? ……竜はって……」


 待って。さっき言っていたことと、内容が違ってない?


 スタスタと迷いなく歩くヨシュアさんに、私は小走りになって付いて行くしかない。


「お姉さん。元気で可愛いし、優しいし、俺の好みなんだよね~。調教は冗談だけど、一緒に居て貰いたくなっちゃった」


「それは! 嫌です!」


 ヨシュアさんは辿り付いた扉へと辿り付くと、鍵を開けて私たちを部屋へと入れた。


「命の危険もあるのに、すーぐそんな風に否定しちゃって。自分の状況わかってる? そういうとこも、なんか可愛いね~。はい。ここが部屋ね。窓から出ようなんて、考えない方が良いよ。すぐ傍に奈落の底だからね」


 彼は軽くそう言い放つと、私とゲイボルグを残して出て行って鍵を閉めた。



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