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20 賞金稼ぎ

「あ! 見付けた! 俺の素材ー!!!」


 私はナタリアさんの背中を見送り、ゲイボルグを連れて先へ進もうとしていたところで、大きな声叫びを耳にして何事かと声の主を見た。


「……え?」


 私たちが歩いていたのは、外廊下ですぐそこには庭園がある。そこには、赤髪でいかにも冒険者然とした装備を身に付けた、背の高い男性が居た。


 鋭い金目と野生的(ワイルド)な雰囲気を持つ男性で、悪戯な表情に飄々とした態度がなんとも目を引く魅力的な人だった。


 ……誰? これまでに……城中では、こんな人は見た事もない。そうよ。王族が住む場だから、正装して訪れるのは当然。それなのに、いますぐ冒険に行って来ますみたいな旅装の彼がうろついていること自体、おかしいのに……。


「え? なんか、竜がちっさくなってない?」


 私はあやしげな彼のそんな言葉を聞いて、目を見開いた。


 だって……ゲイボルグの安全を考えて、ブリューナグが子竜に変えたことは伏せられているのだ。だから、この子竜が数日前まで立派な巨体を持つ成竜だったなんて、知る人は……そうは居ないはず。


 誰なの? ノルドリア王国の人では……ないわよね?


「あの……貴方、誰ですか? ここは王城。衛兵を呼びますよ」


「俺はユンカナンでは有名な賞金稼ぎヨシュア・ベルンハルト。知らないかなー? 知らないよな。こんな遠方の異国では」


 誰……? 申し訳ないけれど、そんな名前はこれまでに聞いたことはない。


 世界的に有名な賞金稼ぎは何人も居るけれど、そんな名前ではなかったように思うし……失礼かもしれないけれど、勘違いしている人なのかしら。


「見て! これこれ。素晴らしくない? この竜の鱗を使ったドラゴンメイル。特注でさ~、高かったんだよ! けど、途中で作れなくなったって、いきなり言われたんだよね~。ほーんと、残念でさ」


「え?」


 彼の身につけている鎧、それは確かに、竜の鱗で造っていた。見覚えのある、美しく光り輝く銀の鱗……それは、もしかして。


「ゲイボルグの鱗……?」


 信じられない……この人の鎧は、私の肩に乗るゲイボルグから剥がされた鱗から造っているんだ!


「そうそう。ご名答! 俺は何も知らなかったんだけど、犯罪組織が違法に手に入れていた素材だったらしくてさ……」


「その犯罪組織は、この前に摘発されたと思いますけど……」


 私は一歩後ずさった。だって、この人のここに来た理由……なんとなく、わかってしまった。


「一応、それまで依頼した品は、何も知らない善意の第三者ってことで没収はされなかったんだけど、頼んでいた工房からは、一式注文していたのに、素材がないからこれ以上は造れないって言われるし……お金は返してもらったんだけどさ。納得いかなくて」


 なにげない調子で踏み出された、軽い足取り。私とゲイボルグへと、近付いて来る。


「それは、当然のことだと思います。あの、私に近付かないでもらえます?」


「可哀想だと思わない? あと、小手だけなの。俺のこのドラゴンメイル。どうせなら、色揃えて同じ竜の鱗が良いからさー……一枚だけ、欲しいんだよね」


「可哀想だなんて、思わないです。全く思いません! 私に近寄らないで!」


 生きて居るゲイボルグから引き剥がそうとするなんて……絶対に、許さない。


 私はすぐに駆け出せるように、ドレスの裾をパッと上げた。


「一枚だけ。一枚だけ譲ってよ!! そうしたら、帰るからさ~。その竜はなんかちっさくなっているみたいだけど、この前まで大きかったわけだから、なんとかしたらどうにかなるでしょ」


「何をそんな……一枚だけって、剥ぎ取ることになるじゃない! それに……どうして、この子がその鱗の持ち主だって、わかるの?」


「俺は優秀な賞金稼ぎだよ? そいつの身体の一部があれば、追い掛けられる探査魔法を使えるの。あ……けどこれは、世界で数人しか使えないから、秘密にしてね」


 ヨシュアさんは唇の上に、人差し指を当てた。


 ……待って。この人って、とってもすごい人ではない? 私一人では……絶対、対処出来ない。


「無理です!! ……誰かー!! 誰か!! 不審人物です!! 助けてー!!」


 出来るだけ大声を出して助けを呼んだ。ヨシュアさん残念だけど、私は守られし聖女なのよ!


 ここを何処だと思って居るの? ノルドリア王国の王城、固い警備に囲まれている。


 私の声を聞きつけて、すぐに警備兵たちや、近衛騎士なんかが駆けつけて来るはずだ。


 さあ、どうするの? こんな場所に居ても、捕まるだけなのに……どうして、そんなに余裕を持った態度を崩さないの……?


「あ。そういうことする? じゃあ、仕方ないなー」


 彼はのんびりとした口調で、私へと小さな銃の銃口を向けた。


「え!?」


 気が付いた時には、私とゲイボルグは白い網の中に居た! う、うそ! こんな……え?!


 あり得ない事態に驚く間もなく、私たちは網の捕らえられたまま空へと舞い上がった!


「キュウ!」


「え!? え!?」


 ゲイボルグは私の肩に居てヨシュアさんを威嚇している。もうなんだか、信じられなくて……嘘でしょう。私たち網に捕らえられたまま、空を飛んでいるわ!


 ヨシュアさんは両手で空飛ぶ白い三角形の中にある取っ手に捕まっていた。私たちを捕らえた網は、その白い三角形後方にある金具に引っかけられているみたい。


 なっ……何? あの白い三角形、何!? 見た事も聞いたこともないんだけど!!


「これ、空飛ぶ凧で自動推進装置付いてる。特注でめっちゃ高かったんだけど、買った甲斐あったわー。あのさー、俺が城の中に居る時点でおかしいと思わなかった? あれ? 何処から入って来たの? ってさ」


「そっ……それは!」


 確かにそう思った。ヨシュアさんはどこからどう見てもよそ者だし、怪しげな冒険者のような出で立ち。間違いなく門番は通さないし、通したとしても不審なことをしないように見張る誰かは居るはず。


「あ。後悔なんて、まったくしなくて良いよ。それをわかった時点で逃げ出しても、俺がこの網で捕らえて終わってるんだけどね。ごめんごめん。俺が君らを見付けた時点で、こうなることは変わりないから」


 飄々と話すヨシュアさん。私たちはあの場所で彼に見付けられた時点で、詰んでた……? けど、こんな人が居ることなんて予想も出来ないし、対策を取る事なんて……出来なかったわけで。


「信じられない……」


 私はどんどん遠ざかる白い王城を見た。今は私たちにも気が付いた人も居るのか、指さして何かを言っている人たちもいるようだ。


 あの城には常駐する竜騎士団、ミレハント竜騎士団が居るわけだけど……今は朝で始業したばかり。訓練は昼からだから、竜に乗っている竜騎士も居ないだろう。


 だから、私たちを追い掛けることも出来ない。


「しっかし、えらく小さくなっちゃってるなー……まあ、小さくなれたなら、大きくなれる方法もあるだろ。俺はこういう仕事をしているんで、情報通でね。大丈夫大丈夫。鱗一枚もらったら、帰してあげるから。心配しないでね~」


 ヨシュアさんからは、まるで罪悪感などは感じられない。


 ……彼にとってみれば、私たちは単なる素材にしか見えないのかもしれない。ゲイボルグの鱗一枚を貰ったら帰すというのも、嘘ではないのだろう。


 常日頃から人を捕らえたりして賞金を稼いでいるわけだから、私の感情なんて気にするわけもない。


 それに、もし……ゲイボルグがジェイドさんの部屋に居残りしていた場合、この子一匹で攫われてしまったってことになる。


 だから、一緒に来られて……良かったんだわ。また、同じことになるところだったもの。


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