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19 気になる

 翌日の朝、私がジェイドさんの部屋の扉を叩くと、寝ぼけまなこの彼が出て来た。


「おはようございます! ジェイドさん」


 私が明るく挨拶をすると、部屋へと招き入れてくれた彼は、ばつの悪そうな表情になった。水を飲んでいたゲイボルグが私を見て一声鳴いたので、手を振って微笑んだ。


「ああ……おはよう。昨日は、酔っていてすまなかった」


「良いんですよ。昨夜は祝い事の宴会なんですから、主役はああいった感じに飲まされてしまうものではないですか?」


 私は竜喚び聖女として辺境の竜騎士団にも属していたこともあるし、村での祝いの場に良く出くわした。そういう時には、祝われる本人は嬉しそうだけどとても大変そう……そんな風に思って居たものだ。


「いや、俺は自分では酒は強いと思って居たんだが……最近、飲んでなかったから、弱くなってしまったのかもしれない」


 二日酔いで痛むのか頭に手を当てて、ジェイドさんはぼやいていた。


「昨夜、部屋に着いたらすぐにベッドに倒れ込むくらいだったので……はい。これ飲んでください」


 私は二日酔いに良く効く薬の入った小袋を渡し、ジェイドさんはじっとそれを見て居た。


「悪かった。俺が部屋まで送ると、言っておいて」


 しかし、記憶が飛んでいるわけではなかった真面目なジェイドさんは、そう言って謝ってくれたので私は首を横に振った。


「あれだけ飲まされてしまえば、ああなるのは当然ですよ。それに、今日もお仕事ですよね……? ゲイボルグは私の方でお預かりします。私も一応聖女なので、行く先には警備の者もおりますから」


 教会に属する天啓を持つ聖女は、とても希少な存在なのだ。私は『竜喚び』が出来るけれど、その中でも特殊で数少ない。


 ともなれば、竜騎士団でどうしても要となってしまう『竜喚び聖女』を、大事にしないわけもない。


「ああ……そうだな。確かにラヴィ二アの言う通り、部屋の中に閉じ込めていては、可哀想だ。いくら大事でも……ゲイボルグ。今日はラヴィ二アと一緒に居てくれ。夕方には迎えに行く」


 ゲイボルグはジェイドさんに促され、私の肩へと飛び乗った。頬に顔を擦り付けて、可愛い。


「悪い。ラヴィ二ア。また、ちゃんと話そう」


「はい!」


 ジェイドさんは始業時間が迫る中、大浴場で湯浴みがしたいと着替えを済ませ慌てて出て行った。


 文字通りに浴びるように飲まされていたので、お酒の匂いが本人にもわかってしまうくらいだったのかもしれない。


「……行こっか。ゲイボルグ」


「キュウ!」


 そろそろ仕事しなければと私が声を掛ければ、肩に乗ったゲイボルグは元気よく返事をした。


 銀色の子竜を肩に乗せたままで廊下を歩いていると、見覚えのある顔に出くわした。


「……あら」


「ナタリアさん! おはようございます」


 そこに居たのは、憂い顔の美女ナタリアさんだった。相変わらずお美しい。


 私はたとえ、同じ人を好きだったことはあると思いつつも、先方の良い部分を認めることの出来る良い女……胸は私の方が大きめではあるけど……。


 ここでハッと思い出したけれど、この彼女にはジェイドさんのことは絶対に好きにはならないと言ってあるので、なんだか気まずい……。


「私の言った通りになったでしょう?」


「……はい」


 はい。認めます。ナタリアさんは予言者でございました。


 私は『ジェイドさんは好きにならない』と、何度か否定したけれど、彼女は頑として聞いてくれなかった。


 けど、それはこうして未来の出来事として起こった。予言で合っていると思う。


「すみません。ジェイドさんのこと、好きになってしまいました」


 彼女に謝るようなことでもないかもしれないけれど、あの時の言葉が嘘になってしまったので、謝罪の言葉を口にした。


 ナタリアさんにとってみれば、私はどうしようもない理由で自分と別れた男を横からかっ攫った嫌な女だろう。恨まれてしまうことは避けられない。


「……そうでしょうね。なんとなく、そんな予感がしたの」


 俗に言う、女の勘というやつだろうか……ナタリアさんは、なんだか寂しそうに見える。


 彼女はもうすぐ婚約する男性が居ると言っていたけれど、嫌いで別れたわけではないのだから、やはり未練があるのかもしれない。


「ナタリアさんは、ジェイドさんのことを……まだ、好きなんですか?」


 どうしても気になってしまった私が直球で聞くと、彼女はなんとも言えない表情で首を横に振った。


「……いいえ。私はもう、ジェイドのことを、好きではないわ。そんな綺麗な気持ちを、彼に持っていないわね。ただ、気になったのよ。私に別れを告げた後の、元婚約者の動向をね。詳しいことは貴女に聞けば一番早いと思ったの。そう……やっぱり、そうだったのね」


「ナタリアさん……」


 感情を見せぬままで言い切った彼女は、私の肩に乗ったゲイボルグへと目を留めた。


「あら。可愛らしい子竜ね。もしかして……その子」


 彼女もジェイドさんにまつわる噂話は、既に聞いているだろう。ここ数日間、ノルドリア王国で国民たちが最も熱く語り合った話だからだ。


 ゲイボルグが子竜の姿になったことは、安全を考えて秘されているらしいけれど、勘の良い彼女にはそれがわかったのかもしれない。


「はい。これが、捕らえられていたジェイドさんの竜ゲイボルグです。こうして、無事に帰って来ることが出来ました」


 私はゲイボルグが乗った肩を向けると、ナタリアさんは興味深そうに見入った。


「そう……そうなのね。無事で、良かったわ。あの人は銀竜が来なくなって本当に、落ち込んでいたから……こうして、無事に帰って来て、私も嬉しいわ。貴女も……大変だったわね」


「……はい。ありがとうございます」


 ナタリアさんはどこか吹っ切れた様子で、明るい笑顔を見せた。


「これで、私も心置きなく、次の人と婚約して良い関係になれるわ。やはり、婚約する前に、心残りは残したくなかったの。あまりにもジェイドの状況が……可哀想に見えていたのは、確かだから」


「それは、確かにそうです! すっごく不憫で可哀想でしたよね。今はもう元気で……まったく、そんな様子は見られないですよ」


 私はうんうんと大きく頷いたので、ナタリアさんは明るく笑った。


「そうなの……別れた男が可哀想だと、やっぱりどんな様子なのか気になってしまうものよ。だから、もうこれでジェイドのことを吹っ切れるわ。色々教えてくれて、ありがとう」


「いえいえ……お幸せに。ナタリアさん」


「貴女もね」


 ナタリアさんはにっこり明るく微笑んで、カーテシ-をすると去って行った。


 彼女は……まだ、ジェイドさんが好きというわけでもなさそう。


 別れた男が可哀想なままだと、ずっと気になってしまうって……私もそうなってしまうかもしれないと、なんだか思ってしまった。



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