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17 契約

 ジェイドさんの大きな手は私の顎を軽く持ち、目を閉じて顔を傾けたと思ったら唇は重なっていた。


 一度は体験済でこれは二度目のキスだけど、あの時は色々と事態が差し迫っていたし、私の目的は『彼に合う一番強い竜を喚ぶこと』だった。


 じっくりと味わうそれは……まるでふたつのものがひとつに溶け合うような形容しがたい感覚で、私はジェイドさんとの深いキスに夢中になっていた。


「……キュウ!」


 突然、鋭い鳴き声が聞こえて、私はパッと目を見開いた。


 そこに見えたのは、ジェイドさんの肩に乗った銀色の子竜……本来ならば巨体を持つけれど、回復のためにとこの姿にされたゲイボルグだー!


 ここまで姿が見えなかったのは、人前では姿を隠すようにと、彼に指示されていたのかもしれない。


 実は子竜時代の竜たちは、他とは隔離された空間で、大事に育てられる。それは、彼らが親に比べると虚弱であるのに、素材としてとても価値がある存在だからだ。


 赤い瞳は私を咎めるようにじっと見て居て、『いつまで夢中になっている。良いから早くしろ』と言わんばかりの鋭い視線に、私は慌てて目を閉じてジェイドさんの中の契約を探った。


 何を目的にこれをしていたかと忘れてしまい、本当に申し訳ありません。


 こんな風に怒られてしまうのも、無理はない……仕事のことを、完全に忘れてました。ご、ごめんなさい~!


 ジェイドさんの中にある契約は、ふたつ。先ほど試した通りに、ブリューナグの契約を共鳴させてみた。



ーーーー応えた。



 ようやく仕事を終えた私はジェイドさんの胸を押して、慌てて彼から離れた……はずだけど、いつの間にか彼の腕は腰にまわっていて、顔を離すだけになってしまった。


 そして、すぐ目前にあるジェイドさんの色っぽい表情に、胸が高鳴ってしまった。


「もうすぐ……来ます」


 何をとは言わなかった。


 けれど、私たちはそのためにキスしていたわけで……そうなんです。もうすぐ来ます。


「ありがとう。ラヴィ二ア……大丈夫?」


 ジェイドさんは私の腰から手を離し、ようやく彼から適当な距離を取ることが出来た。


 早く離れたかったような……離れがたかったような……不思議な感じです!


「だっ……大丈夫です。なんだか、ジェイドさん、別人みたいになって……びっくりしました」


 だって、本当に……本当に、これまでとは別人みたいだった。


 私が何を言っても困った顔をするばかりで、そういう性欲もあるのかなって疑うくらいだったのに。


「先ほども言ったように、俺のことを恋愛対象ではないと言ったのは、ラヴィ二ア本人だし……これまでに女性が苦手だと言ったことは、一度もないと思うが」


 そそそ、そっか!


 この人は真面目で堅物だけど、幼い頃からずっと婚約者が居たから、女の人に慣れてないわけ……ないわけで……私の勘違いだったんだ。


「ラヴィ二ア。もうすぐ、ブリューナグがここへ来る。来てくれれば、当分近くに控えてくれるように頼むようにする……これではろくに、訓練も出来ないしな……」


「そうですっ……よね」


 そうだよ。あの面白がりの黒竜、普通の手段では喚べないんだから、そういうことになってしまうよね……!


「また、宴会の後で話をしよう。ごめん。今は人を待たせているから……そろそろ行ってくる」


 ジェイドさんは苦笑して扉を開けて、出て行った。


 おそらくだけど、あれは他の竜騎士たちの前でブリューナグを見せるようにと上の方の誰かから言われたのかもしれない。


 組織では、上の人には逆らえないものだ……私も竜喚び聖女として、組織の中のひとつの歯車として稼働しているので身分上では公爵令嬢のはずなのにわかります。


 何かしら必要性があったから、私のことも必死で探していたみたいだもんね……ん?


 床の上にポツンと佇む、可愛い銀色の子竜が居る。


 姿を隠すわけでもなく私のことをじっと見つめて、何か伝えたいようだ。


「……どうしたの? 無事にジェイドさんの元へ帰れて、良かったね。ゲイボルグ……ジェイドさんは貴方のことずっと、待って居たんだよ」


「キュっ……キュウ……」


 私が話し掛けると急に床にぽたぽたと大粒の涙を落としたので、慌てて近寄り子竜を抱きしめた。


 ……そうだよね。これまでに、辛かったもんね。


 私がここで喚びかけて見えたこの子は、捕らえられて利用されるだけのあの姿を、ジェイドさんに知られることを拒んでいた。


 もしかしたら、帰って来てからもジェイドさんの前では、泣くことも我慢していたのかもしれない。だって、彼を長い間悲しませていたのは、ゲイボルグは自分のせいだって知っているから。


「良かったね。もう大丈夫だよ……これからは、ずっと、ジェイドさんの傍に居てあげてね」


 優しく背中を撫でてあげると、小さな頭が乗っている私の肩口が濡れていた。


 ……ゲイボルグはジェイドさんの予想によると輝く光り物に騙されて、洞窟の奥まで入り込んでしまった。


 それによって自分一匹しか居ない竜騎士であるジェイドさんが、どれだけ辛かったか。この子はちゃんと理解をしてる。自分の責任だって、そう思って居る。


 だから、ジェイドさんの前では、これまで泣かなかったんだ。


 本当に、助かって良かったね……あんなに優しい人を置いて、もうどこかに行かないであげてね。

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