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15 お願い

 帰路の飛行中に、私たちは心配して来てくれたガルドナー団長と出くわすこととなった。


 実はいきなり私たちを置いて飛び去ってしまったアルドヴァルは洞窟の近くまで来て、危機状態にあるゲイボルグがどのような状態にあるかを悟って、すぐに援軍を呼びに行ったのだ。


 私たち二人を見捨てて敢えて、あの場所へ置き去りにしたわけではなくて……彼は命令を果たしてからすぐに助けようと動いてくれていた。


 アルドヴァルは最速で国へと帰り、ガルドナー団長たち竜騎士団へゲイボルグの危機を伝えていたのだ。


 だから……ガルドナー団長はすぐに竜騎士団で一隊を組織して、ユンカナン王国へ向かってくれていた。


 そして、雄々しい巨体を持つ黒竜ブリューナグを、どこかに隠しておけるわけもなく……私たちはユンカナン王国の洞窟の中で、何があったかを詳しく説明することになった。


 ……もちろん。竜騎士に合う竜を喚び出すことの出来る私の能力についても、ここで説明するしかなかったので、帰国してからはたいそうな大騒ぎになりました。


 まず、連れて行かれた教会では、私の天啓は『竜喚び』の中でも、特殊なものだと認められた。


 これまでにもそういった天啓を後天的に持つ聖女は数少ないけれど居たらしいけど、彼女たちはわかり次第にすぐに自己申告したのに対し、私はずっとひた隠しにしていた……これについては、結構な剣幕で怒られた。


 そして、案の定、というか……覚悟の上でだけれど。


 私の『普通の貴族令嬢に戻ります大作戦』は、呆気なく終わりを告げたのだった。


 そんな特別な聖女が辞めて教会の外に出るなんて、許されるわけがないと……ええ。私だってそう言われるだろうとは思っておりましたが、やっぱりそうでした。


 けれど、ジェイドさんの竜ゲイボルグを救えたことに関しては、教皇も認めるところで、教会に属する聖女でありさえすれば、ある程度の我が儘に関しては許容するとのことだった。


 ある程度って、どの程度? 明確に、線引きを教えて欲しいんだけど……けど、あのケチな教皇から良い条件をもぎ取れたと思おう。


 ……そんなこんなで、ノルドリア王国へと帰って来てから三日間。


 竜騎士ジェイドさんと私は、全く会えていない。


 あの件に関しては、竜の密猟は関しては固く禁じられているし、もし、竜の素材を得たいのなら、死体から剥ぎ取るようにという人道的なことも、どこの国の法律だって定められているらしい。


 つまり、あの場所でゲイボルグから再生される素材を延々取ろうとしていた集団は、二重で罪を犯していたことになる。


 そんな大犯罪について、ユンカナン王国で騎士団が竜を見掛けていて色々と問い合わせがあったらしく、ジェイドさんはゲイボルグが捕らえられていた事に対し、関係各機関への状況説明などに追われていた。


 私はというとひた隠して居た天啓が明かされてしまった副産物も生じ、大いに頭を悩ませていた。


「あ……見つけた。ラヴィ二ア。今夜は空いてないのか?」


「すみません。先約があるんです」


 見つかってしまった私は廊下を足早に歩きながら、わかりやすく言い寄って来るガルドナー団長の顔も見なかった。


「おいおい。昨日も、そう言っていただろう……? いつになったら空くんだ?」


「……竜騎士とは、宗教上の理由で食事出来ないんです!」


 私は駆け足になりそうなくらい早足になったけど、足の長いガルドナー団長に追いつかれてしまった。


 ……あ。彼のことを気にしていたら、廊下の行き止まりが迫っていた。曲がろうとしたら、手を付かれて見下ろされた。


「ジェイドと旅をしたのに……?」


 ぐいっと顔を近づけたので、私は仰け反って一歩引いた。


「それは、仕事だからです……!」


 私がミレハント竜騎士団に着任した理由は、ジェイドさんの竜を喚び出すこと。


 正確には喚び出すというか助けに行ったのだけど、子竜になったゲイボルグは今ジェイドさんの元に居るので、私が与えられた役目を果たしたことに違いはない。


 息が掛かるくらいに顔を近づけて来る、ガルドナー団長……いつにも増して、押しが強い。


「では、仕事ならば、竜と喚び出してくれると……? 俺に一番に合う竜を喚び出してくれないか?」


「無理です!」


 いやいやいや……好きでない男性とキスするなんて、王令があっても無理ですし『竜騎士に相応しい竜を喚び出す』という天啓に使用には、私にも選択権があると伝えられたはず。


 ガルドナー団長、50匹の竜と契約を交わしていることからもわかる通り、計画的に竜との契約を進め、どんな時にも対応可能と言えるくらい、多種多様な竜と契約している。


 そんなガルドナー団長が私の持つ『特殊な天啓』のことを聞いてから、なんだか目の色が変わったとは思っていた。けれど、お互いに手をくっつける程度で来てくれる竜は、もう来てくれないだろう。


 そんなこんなで帰って来てからずーっとこのことで追い掛けられているので、私はもう本当に辟易してしまっていた。


 あ……しまった。


 ガルドナー団長の太い両腕に囲まれて、抜け出せなくなってしまった。ここはひと目の少ない場所なので、声をあげても気が付いてくれなさそうだし……どうしよう。詰んでしまった。


「……ジェイドには、したのに?」


 聞きただすような言いようで、私により顔を近づけた。ガルドナー団長、垂れ目でワルっぽくて、確かに見た目は良い。


 だけど、それは私の好みではない。致命的な欠点でしかない。


 ……何なのよー! 自分の方がジェイドさんより、上なのに? と言わんばかりのこの不遜な態度。


 確かに貴方の役職は竜騎士団長でしょうが、私の中の好感度では断然ジェイドさんの方が上だけど!?


「それは……」


「団長。嫌がっている女性に無理強いは、止めた方がよろしいかと……犯罪行為ですよ」


 私が言い返そうとしたその時、ガルドナー団長の背後にはジェイドさんが居た。


 たたたっ……助かった! お互いの目的が一致しない限り、ああだこうだ押し問答するしかないけれど、それには時間が掛かってしまう。


 私はジェイドさん以外には絶対にしないって決めているので、彼の要求を聞く時間は無駄でしかない。


「ジェイド。特殊な天啓の独り占めは、良くないと思うが?」


「使用対象を選ぶのは、ラヴィ二ア本人。俺はそう説明を聞いていますが」


 その瞬間、二人の間に火花が光ったような気がした。


 ガルドナー団長は微笑みながらもジェイドさんから目を逸らさないし、ジェイドさんも一歩も譲る気はないと言わんばかりに視線を外さない。


「ここでお願い出来る空気でもなくなって来たので、次の機会にするよ」


 ようやく腕の檻を外してくれたガルドナー団長は、仕方なさそうに肩を竦めて、ゆっくりと立ち去っていった。


 ジェイドさんは何を考えているのか、彼が見えなくなるまで背中をじっと見送り、ようやく私の方を見てくれた。


「ラヴィ二ア……すまない。突然だが、お願いがあるんだ。君を探していた」


「え? 私をですか?」


 不思議に思った私は、自分のことを指さした。ジェイドさんが私に……お願いを?


 確かにこんな廊下の突き当たりになんて、誰かを探しに来る以外で用はないかもしれない……。


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