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11 過去

「それで、こんなにも俺の竜を喚び出すことに、必死になっているのか……そうか。元はと言えば、君の家族のためだったんだな」


 ジェイドさんは私のこれまでの経緯を聞いて、色々と納得したかのように頷いた。


「そうですね。はい。きっと……自分のためだけでは、ここまで頑張れませんから」


「それにしても、手段は選ばずで、俺は驚いたが」


 ゆらゆらと揺れる炎に照らされたジェイドさんの顔は、苦笑いしていた。


 ……あれはもう終わってしまったことだけれど、彼の肌に触れた熱さを覚えていると言えばそうだった……いえいえ。


 それは、仕事仕事のための仕事で仕事仕事、なんだけどね! 今は二人きりで夜ですけれど、何も起こらないからね……!


「教皇には『どうせお前では出来ないだろう』って思われたんだと思うんですけど、竜騎士との接触面を増やせば出来ることが多いというのは、確かなことなので、私が身体を張れば出来るだろうと思いました。ここに来る前に、完全に覚悟を決めて来たので……ええ。初対面では、大変失礼をしてしまい」


 私は今更ながらに、ジェイドさんの初対面を思い出し、とても恥ずかしくなった。


 あの時は迷いに迷った挙げ句に『聖女を辞めるためには、これをやるしかない。もう決めた。あとあのクソ陰険教皇の思い通りには、絶対にならない。絶対に』と言わんばかりの思い詰めた勢いだったし、目も据わっていただろうし、もしかしたら瞳孔だって開いていたかもしれない。興奮し過ぎて。


 そんな私の提案を聞いた、何も知らないジェイドさんの驚きたるや……良く、数日で自分なりの妥協案を出し受けてくれる気になったものだと思う。


 ううん……彼がそれだけ、自分の竜に会いたかったということだろう。


「いや、公爵令嬢の聖女だと聞いていたので、あまりにも事前の想定と違い、驚いたのは事実だが……ここまでの事情を知れば、ラヴィ二アはそれだけ必死だったのだと理解出来た」


 もー! ジェイドさんは外見だけでなく、中身まで良いので、本当に幸せになって欲しい。


 とりあえず、今居る苦境からは、この私が救い出しますので!


「私。産まれ持った身分は公爵令嬢なんですけど、教会で天啓を持つ子たちと一緒に育てられました。比率的には当然のことですけど、平民出身が多く、貴族だからとお高くとまってると思われたら、集団から爪弾きに合うと思って……馴染もうと必死でした」


「それで……貴族らしからぬ口調を、わざと使っているのか?」


 聖女学校では公称通り身分差なんて考慮されないし、女の集団は色々と大変なのだ。


 しかも、そこで特別仲良くなった子が下町育ちの平民だったので、口調が似てしまうことは避けられない。普通の公爵令嬢として生まれ育っていたら、こんな話し方をすることなんて絶対になかっただろう。


「以前にも、お話ししましたけど……そういう色気のない発言をしていたら、男の子が寄って来なくなるので……一応は、自衛なんです。近い未来に貴族令嬢に戻るなら好かれても嫌われても困るから、どこかで、そういう自分をどこか演じているのかもしれません」


「……なるほど。俺にはまったく思いつきもしない理由で驚いたが……そういうこともあると、勉強になった」


 何度か頷いたジェイドさんは、そういう……モテ過ぎて困る案件はなかったのかな?


 ……あ。そうだった。


 この人、ついこの間まで婚約者が居たし、性格的に決まった女性を差し置いて女遊びするような人でもないから……きっと望みはないと思って、誰も寄って来なかったのね。


 なんだか、幸せになって欲しい。これまでが、とても不憫過ぎるもの……。


「そんなこんなで……すっかり、こんな風に庶民派を演じてしまうようになってしまって……まぁ、首尾良く聖女辞めたら、すぐにお(しと)やかな公爵令嬢に戻りますけどね」


 えへへと照れ笑いして肩を竦めたら、ジェイドさんは微笑んで頷いた。


「そうか……ラヴィ二アなら大丈夫だ。出来ると思う」


 ……ジェイドさんは、私のややウケ狙いな発言にも、肯定して穏やかに微笑むのみ。


 別にここで『いやいや、それは難しくない?』と、正直に言ってくれても、『もーっ、ひどいですよー!』なんて言って、笑い飛ばすのに。


 そういう流れだって、計算済みで言ったのに。


 ……なんなの。不意打ち。


 この人は女の子が嫌がること、絶対しないんだよなぁ……これまでずっとそうだった。


 ついうっかり、何かの拍子で好きになっちゃうよ。こんなの。危ない危ない。


 これ以上は近付いては駄目な、危険人物。



◇◆◇



 数日間にも及ぶユンカナン王国へ向かう旅路だったけれど、疲労しているはずのジェイドさんは常に変わらずに、私へと紳士な対応だった。


 野営時には深夜にも焚き火を絶やすわけにもいかなかったから、私が眠っている時には彼が起きていてくれた。


 けれど、いつ眠っているのだろうと心配になってしまうほど、あまり眠れていない様子だ。


 これまでに一年ほど会えなかった竜にもうすぐ会えるという、そういった強い気持ちの昂ぶりも感じられた。整った顔からは笑顔は減り、ただ立っているというだけなのに、緊張感を醸し出していた。


 それも、無理もないことかもしれない……深い洞窟に迷い込んでいて、竜が自力で出られない状況であれば、彼はそれを解決しなければならない。


 その日の昼食時、もうあと数時間もすれば目的の場所まで到着するだろうと思われ、私はすっかり言葉少なになってしまったジェイドさんに提案してみることにした。


「あの……そろそろ洞窟も近付いて来ましたし、竜の様子を探ろうと思います。一度、竜喚びを、してみても?」


「ああ……」


 少し離れた場所に居たジェイドさんに近づき、私は右の手のひらを出した。彼は真剣な表情を浮かべ、その手のひらに重ねる。


 ふわっと白い光が重なり合った部分から漏れ出た。


 私はジェイドさんの中へと潜り、銀竜ゲイボルグとの契約を共鳴させる……ああ……応えた。



ーーーーえ?



「……どうした? ラヴィ二ア。何かあったのか?」


 パッと瞼を開けると心配そうなジェイドさんの顔があった。先ほど見えていた光景を反芻してしまって、慌てて私は首を横に振る。


「いっ……いいえ! なんでもありません。近くに居るので、強い反応に驚いてしまっただけで……」


 そんな私の様子を見て、ジェイドさんは不思議そうな表情を浮かべたものの、近くで待って居たアルドヴァルが鳴いたので、そちらに気を取られた。


 アルドヴァルは契約主であるガルドナー団長との距離が離れているので、あまり言うことを聞かなくなってしまっているらしいのだ。


 ジェイドさんが、なんとか宥めようとしている。


 助かったわ……。


 さっき、見えたゲイボルグの近くに……いくつか人影が、見えた……ような気がする。


 どうして……? 洞窟の中に居る竜に、圧倒的な戦闘能力を持つ存在に、あんなにまで近づける人が居るなんて……到底、思えない。


 気のせいよね。

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