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【ホラー】悪夢をみる【短編】

作者: スケキヨ

※嘔吐表現があります。無理な方はバックでお願いします。

 学生時代、予備校の先生が『実現不可能だが確実にいじめをなくす方法』についてこう言っていた。


「毎日転校したらええねん。考えてもみ?小学校で6年、中学校で3年、9年も同じメンツでおったらそら窮屈にもなるわ。失敗して恥ずかしい思いをしたらずーっと覚えられて、下手したらずーっといじられるんやで。そんなんおかしなって普通やんな」


★★★


 わたしは眠ると9割の確率で夢をみる。そして8割の確率で悪夢をみる。


 共通点はそれら全てに小中のクラスメイトが出てくる事、走れない事、喋れない事だ。


 ちなみに夢の中で怪我を負うと普通に痛い。「夢かどうかを確かめるために頬をつねる」という言い回しには「夢の中では痛みを感じない」という前提がある訳だが、わたしの場合、夢の中でも全然痛い。

 

 分娩台のような物の上で四肢や首を切り落とされる夢を見た日は寝汗と動悸と生きている事への感謝で体中が震えてしばらく動けず、疲れが取れなくて最悪だった。


 最近夢の中でも喋れるようになった。

 

 きっかけは分からない。覚えているのは、夢をみていたときの、はらわたが煮えくり返るような怒りの感情だ。なんと言ったかも覚えていないが、「ふざけるな」とか、そんなようなことを叫んだ瞬間、目が覚めた。たまたま隣室に居た母が飛び込んできて「どうしたの?!」と血相を変えたのを見て、どうやら現実でも叫んでしまった事を知った。


 以来、わたしは悪夢を見ることに加え、寝言(寝叫び?)にも悩まされるようになった。最初こそ心配してくれた母も、今では嫌そうに「夕べうるさかったわよ」と言うだけになった。金縛りも酷くなり、「うるさくして申し訳ないが、うなされているのを見かけたら揺さぶって起こして欲しい」と頼んだが、生返事をされて終わった。


★★★


 わたしは眠ると9割の確率で夢をみる。8割の確率で悪夢をみる。

 そして5割の確率で「今自分は夢を見ている」という感覚がある。

 明晰夢(めいせきむ)というやつなのかもしれない。それにしては夢の中の行動は少しも思い通りにならない。「あ、これ夢だ」と気が付いても、相変わらず走れないし、喋れない(もしくは無理に喋ろうとして現実でも叫んでしまい、母にうっとうしがられる)。


 今、夢をみている。わたしは小学生で、通学路を下校している。


 芝やんとイッチーと沢ジュニアが居る。小学校と中学校でわたしをいじり倒した男子生徒達だ。本名は覚えていない。できれば存在も忘れたい。


 場所は通学路だ。今回は小学校時代が舞台らしい。3人は黒いランドセルを背負ってニヤニヤしながら前方で待ち構えている。下を向いてすれ違う。よかった。そう思った瞬間、沢ジュニアが叫んだ。


「ツバ!告白のチャンスだぞー!」


 いつの間にか、後ろの方に翼くんが居る。とてもいい名前なのに、「ツバ」というあだ名でしょっちゅうからかわれていた。覚えている。これは昔実際にあった出来事だ。


 わたしが一人で下校していた時、たまたま翼くんも数メートル後ろを歩いていた。すると角を曲がった先の一本道にあの3人組が居て、翼くんに向かって「愛しの君と2人っきり!」「今こそ告白のチャーンス!」とはやしたてたのだ。


 そもそも翼くんが好きだったのは隣のクラスの瑞恵(みずえ)ちゃんだ。そしてわたしはブスで不潔でどんくさく、間違いなく男子達の「女子ランキング」で最下位。つまりは「ツバはよりにもよってあいつに惚れている」という嫌がらせである。あわよくばわたしが勘違いしないかという思惑もあったかもしれない。


 ただただ翼くんが気の毒だった。


 顔を真っ赤にして下を向く翼くんにも、彼に向かってやんや言っている3人にも、わたしは一瞥もくれず、何も言わず、家に帰った。悔しくて、怖くて、申し訳なかった。


 「翼くんはそんなんじゃない」と言えばあいつらはもっとからかってきただろうから、何も言わなくてよかったのだろう。だけどわたしは、ただ自分が怖いから何も言わなかったのだ。自分を守る事だけ考えて、きっとわたしより辛かった翼くんに何もしなかった。


 わたしなんかと恋仲だと騒がれて嫌だったはずだ。体の大きい沢ジュニアにつきまとわれて怖かったはずだ。少し動作が遅く、箸の使い方が変で、名前が翼というだけで目をつけられた少年に、何か、心が楽になるような事を、何かひとつでも出来ていたら、していたらよかったのに。


 現実には、わたしは自分を守るのが精いっぱいで、その後もからかわれ続ける翼くんを横目に庇うこともしなかった。彼は私立に受かって別の中学に行った。


 夢は続く。いつものことだが、水中を歩いているような感覚で、体が思うように動かずイライラする。それでもなんとか坂を超えて、右に曲がり、ツヅジの生垣を真っすぐ行って、


「告白のチャンスだぞー!」


 一本道。1人を囲む3人。黒いランドセル。


 黙れ 声が出ない 口が動かない


「サッカー下手なくせにツバサかよw」「あいつこの間『イエスって、ハイって言う時、名前と同じになっちゃうけど、どうするんだろう?』って言ってたんだぜ。イエスは英語でジーザスだっつのwほらお前ん()クリスチャンなんだろ?イエス様について教えてやれよ」「うっわ、こいつまた吐いたw先生~!〇〇さんが吐きました~!」「先生~!〇〇さんは学校に関係ない本を持ってきてまーす!」「聖書って初めて見た」「重っ!筋トレに使えそうw」「はあ?持ってくるのが悪いんだろ」「ほら神様に助けてもらえよ」
















「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


「いなくなれ!!!!!!!!ここからいなくなれ!!!!!この世からいなくなれ!!!!!!なくなってしまえ!!!!!!」


「だいきらいだおまえらなんか!!!消えてしまえ!!!いなくなってしまえ!!!」


「おまえらなんか!!みんな!!全員!! し












 目が覚めた。

 涙が止まらない。咳き込んで戻しそうになり、トイレで吐いた。血が混じっている。多分喉が切れた。子供の頃、よく、突然吐いた。病院に行ったら「特に異常はありません。心因性のものでしょう」と言われた。嫌そうな顔でトイレットペーパーを持ってくる担任。汚いのに、気にせず片づけを手伝ってくれた友達。うしろから聞こえる声変わり前の嗤い声が

 また吐いた。夜が明けるまでずっと便器にしがみ付いて泣いた。


★★★


「今日、沢川(さわかわ)くんがうちのコンビニに来たわよ」

 

 パート終わりの母から聞いた名前に、最初ピンとこなかった。

 沢川。

 ヒュッと喉が鳴った。沢川。沢ジュニアだ。


「煙草買いにきたんだけど、お母さんちょっと意地悪してやったわ。『年齢確認できるものをご提示ください』って言って、学生証を出してきたから、しつこくじーっと見比べてやったの。あの子〇〇高に行ったからさぞいい大学にでも行ったかと思ったら、××大だって!なーんだその程度なんじゃないって心の中で笑ってやったわ!」


 ××大も十分凄いと思うのだが、母は自分が国立大学出身であることを誇りに思っている人なので、あいまいに笑うに留めた。


「PTAであの子の母親の我儘に振り回されてそりゃあもう大変だったんだから。息子自慢が長くてもうほんっとうにウンザリだったわ~。だからちょっと仕返し」


 知らなかった。どうやら親子二代で縁があるらしい。嫌な縁だ。


「でもそういう事、するもんじゃないわね。お会計が終わってお店を出た途端、あの子倒れちゃったのよ。で、救急車で緊急搬送。意地悪した相手がすぐ後にそんな事になったから、なんだかモヤモヤしちゃったわ」


「ちょうど交代時間だったし、巻き込まれたくないからさっさと帰っちゃったけど、店の外の喫煙スペースで突然吐いて気絶したそうよ」


「ちょっとアレな話になるけど...人間ってあんなにゲ〇吐けるもんなのね。体の中の物、内臓から血液から全部口から出たんじゃないかっていうぐらいで...あれは片付け大変だったと思うわぁ。次のシフトのときに塚ちゃんに何かお詫びしないとね」


 母は「塚ちゃん誕生日も近いし、いい所のケーキでも買ってこようかしら」と言いながらシフト表を確認し、「じゃあちょっと行ってきまーす」と出かけて行った。

 

 テレビを点けた。


 普段あまりニュースを見ない。

 誰かが酷い目にあったとか、怖い事ばかりだから。

 今日からは見よう。毎日見よう。


 わたしの期待するようなニュースが流れるかもしれない。


 ちょうどアナウンサーの女性が「臨時ニュースです」と言った。深刻そうな表情。きっと、悲しかったり、痛ましかったり、どこかの誰かが酷い目に遭ったのかもしれない。そういう内容をこれから読み上げるのかもしれない。そうだといい。


 ああ、とても楽しみだ。



読んでくださってありがとうございました。

過去作にリアクションを下さった方々、嬉しかったです!ありがとうございます。

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