イギリスへGO!
※ここからしばらくは、イギリス滞在編となりますので、通常カッコ「」でも英語の会話となります。
そしてやってきたお盆である。社会人の夏休みである。
私とエドワードは現在、イギリス行きの飛行機の座席で離陸を待っている。
今回のイギリス旅行というか里帰りは、結構ハードスケジュールだと思う。私がまだ八歳の子どもだということをみんな分かってるのだろうか。
いや、分かっていて予定詰めまくった私も同罪だけどね。
元夫の家に挨拶の振りして遺品を取りに行ったり、元娘の家に泊まりに行ったり、レイノルズ一族の夏の集まりに出向いたり。たった三つの予定だけど、一族の集会と娘訪問は泊まりになるから、エドワードの家でゆっくりできる日は少ない。
「ああ、そういえばシャンテルが空港に迎えに来てくれるって」
「げっ!」
息子が隣で呻いた。理由は簡単に予想がつく。
「やっぱり、セリアとシャンテル、仲悪いの?」
「仲悪いっていうか、シャンテルが一方的にセリアを嫌ってるみたいなんですよ。何故でしょうねえ」
それは、そうだろうな。
実はシャンテルは、元私の実の娘ではない。シングルマザーだったシャンテルの実母が行方不明になり、一人になったシャンテルを引き取ったのがシャンテルの母の従兄であるゲイルと私だった。それがシャンテルが五歳、エドワードが十歳の時だった。
すでに物心ついていたシャンテルにとって、母の行方不明は心の傷となったのだろう。新しい家族をまた失いはしないかといつも怯えていた。特に兄であるエドワードには懐いていて、いつも後を着いてまわっていた。エドワードもシャンテルを可愛がっていたから、将来この二人が結婚するようになるのかなーなどと考えたりもした。
結果としてはエドワードはセリアと結婚していたし、シャンテルも兄は兄と割り切っているようだ。だがやはり自分を一番にしてくれていた兄がとられたようで、面白くないのだろう。
「シャンテルもまだ、子供みたいね。セリアはシャンテルのこと、どう言ってるの?」
「僕の奥さんは美女と美少女が大好きなんです」
それをきいて私は、初対面の時のセリアの様子を思いだし、吹きだした。
「ああ、ええ。そうだったわね」
「月湖と会った後も、『君と結婚してよかった~。美女と美少女と縁が出来ちゃった』って、僕は奥さんにとって何なんでしょう」
「旦那様でしょ。自信持ちなよ、パパ」
ふざけていうと、エドワードは複雑な顔になった。そんな顔してるけど、戸籍上は親子になっちゃったんだからね。
「分かってはいたけど、ツキコにそう呼ばれたらショックが強いですね」
よしよし、ショック療法成功、かな? 実は私も少しこそばゆい。笑いをこらえるのに必死だ。だけど少なくともさっきまでの暗い空気は見えなくなった。
さて、ここからはママの時間。
「シャンテルだけど、セリアのこと、嫌ってはないわよ。意地張ってるだけ。ほら、覚えてないかな。ゲイルが引き取ったときもはじめは私たちにはぜんぜん心を開かなくて、エドワードにしか懐かなかったの。意地を張って、意地悪をいって、それでも嫌われないかを試してるの。まだあの子は臆病なのね」
エドワードはなにも言わなかった。多分、私が言わなくてもセリアあたりが同じようなことを言っていたのだろう。
ただ、ほっとしたような笑みが、彼が今まで妹と妻の仲を心配していたことを物語っていた。
「ママ……なの?」
「うん、そうだよ。美人になったね、シャンテル」
到着した空港で、記憶にあるより大きく、大人になった娘を見上げて、わたしは感慨にふけっていた。
ストレートのプラチナブロンドとヘイゼル・アイは子どものころから変わっていない。しかし幼かった顔だちは大人の女性の落ち着きを備え、人を寄せ付けない気高さを感じさせる。
まるで雪の女王だ。
昔から美少女だったし、美人になるだろうとは予想はしていたけど、実際に成長した姿を見ると予想以上の美人度だ。美形パーセンテージの高いレイノルズ一族の中でも群を抜く美しさだと思うのは、親馬鹿というものだろうか。
「ママは、ちっちゃくなったわ」
「転生だもの。前世の記憶があるだけのただの子どもだよ」
「ちっちゃくって、可愛い」
ハグというよりお人形さんを抱きしめるような感じで、きゅっと抱きしめられてしまった。
元母で、義理の姪で、これからの関係がどちらになるのかは分からない。
記憶がなければ母として扱われるのは苦痛でしかなかっただろう。でも、記憶があるから、こうしてエドワードにも会えたしシャンテルが生きていることも確かめられた。
「ママの記憶があってよかったわ。記憶がなくてもママに会えたら嬉しいけど、やっぱり、あって良かった」
「私も、そう思うわ」
私たちの再会をよそに、エドワードとセリアも久々の再開に少々熱烈なあいさつを交わしている。
うん、ラブラブな夫婦っていいね。でもあれが今の私の両親かぁ。
そんな私とシャンテルのなまぬるい視線が届いたのか、二人は照れも見せずに全開の笑顔で「じゃ、いこっか」とのたまった。
投稿にむらがあって申し訳ありません。
次はそんなにお待たせしないかと思います。




