通話
エドワード視点です。
《もしもし。何? 忙しいんだけど》
「ごめんね。早く相談したくてさ。母を見つけたんだ」
《母って、十年前に亡くなったお母さま? 転生して日本に生まれていたの?》
不機嫌だった奥さんの声が、一転して真面目になった。
僕らの一族は、不思議な力を持つ確率が高い。そのため、結婚を考える相手には自分の力と一族の特殊性を話して受け入れてもらわなければならない。
それが面倒で結婚を厭っていたのも今は昔のこと。奥さんはそんな僕を熱意と根性で口説き落としたのだ。完敗だった。白旗を振って降参した。今はそれに感謝している。
「そう。しかも以前の記憶もそのままに、ね。奇跡だろう?」
《奇跡ね。それで、相談って?》
「うん。母を養子にしたいんだけど、いいかな。黒髪の美少女だよ」
奥さんの趣味を突いた誘惑に、奥さんはあっさりと乗ってくれた。
《よし、出来るだけ早く休暇取ってそっちに行くから、そのお母さまに会えるよう手配しておいて。お母さま、何がお好き?》
奥さんの声が弾む。仕事大好きな奥さんは、子供も大好きなのだ。特に女の子が。
「今の嗜好はわからないな。会うのはいつでも会えると思うよ。まだ七歳だし、一応明日にでも母のいる施設に行って繋ぎをつけるつもりだし」
《施設って……もしかして、お母さま、孤児なの?》
「そう。詳しいことはまだ知らないけど、結構悲惨な人生みたい。だけど僕はツキコに幸せになって欲しいし、家族になりたい。ということで養子縁組を考えてるんだけど、どうかな」
《今のお母さまの名まえ、ツキコというの?》
「うん。ムーン・レイクという意味の漢字の月湖」
《実際に、ツキコに会わないままに決めるのは軽率だと思うけど、わたしもあなたの自慢のお母様にお会いしたいし、家族がおられないのなら私たちの家族になって欲しいと思うわ》
「セリアがそう言ってくれたってお母さんに伝えておくよ。今日は動揺していて忘れていたけど、明日施設に行って話を通すついでにお母さんの今の写真も撮ってメールで送るよ」
《よろしくね。お義父さまにはこのことはお伝えしたの?》
「まだ。お母さんにも父さんの再婚のこと、伝えてないし。まずはお母さんのほうに話してからにしようと思っている」
《そうね。そのほうがいいかもね》
正直、転生して前世の記憶を持っている人間など、一族でも記録に残っていない。いや、前世の記憶を持っているだけならまだ例がないわけではない。しかし生前、一族にかかわっていた人間が転生し、記憶を持っているなど初めてのことである。珍品中の珍品だ。
だからエドワードはわからない。転生した母が、父のことをどう考えているのか。
以前の意識のままに、まだ父を愛しているのか、それとも新しい月湖としての意識が強いのか。
亡くなった妻が転生していたことを、知らせられなかったら、父は傷つくだろう。父は今の妻も愛しているが、亡くなった母のこともいまだに愛しているのだから。
だが、父が自分以外の女性と生きていることを知った母は、父以上に深く傷つくのだろう。かつての母にとって、父は全てだったのだから。
重い話を終えて、お互いの近況を軽く話して、エドワードは電話を切った。
そして自分の住んでいる部屋を眺めて、少女を迎えるにふさわしい準備を考えはじめた。