虐め
新年、明けましておめでとうございます
新年早々ダークな話ですが、今年もよろしくお願いします
今日も、何も変わらなかった。
いつもと同じ。暴行、暴言を受け、挙句の果てに物を盗られる。
誰も、助けてはくれない、何もかも、私と関わることを拒絶している。全員見ているだけ。傍観者でいるだけ。何もしてはくれない。
だって、関わったら、自分も同じ目に遭うかもしれないから。
いや、遭うかもしれないじゃない。遭うんだ。彼奴らなら、絶対に突っ掛かって来る。そういう、馬鹿な奴らだから。
私と関わってくれるのは、一人の後輩だけ。
その後輩以外の人は私を拒絶している。
先生方も、授業外では関わらない。授業のときも、あまり関わってくることはない。
私と関わってくれるのは、後輩と、学校一の不良集団だけ。
それ以外は誰も関わらない。喋ってくれない。話しかけてもくれない。それどころか、近づいてすらくれない。
学校に、私の居場所はない。でも毎日学校に来ている。それは何故か?
私が学校を休んだら、アイツらの思う壺だから。私が学校を休んだら、私と関わってくれている後輩に、虐めのターゲットがいくから。
だから私は、ずっと、ずっと。学校に行き続けている。たとえ何かを奪われても。たとえ暴力を受けようとも。罵詈雑言を吐かれようとも。
私は行き続ける。地獄のような場所に。
もちろん、精神的にもキツい。今すぐにでも死にたい。地獄から、開放されたい。だけど、生き続ける。
「先輩?」
ハっとし、顔を上げる。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ」
「そうには見えませんけど…こんな傷だらけで」
「大丈夫だって。そういえば、二年生はもう下校したんじゃなかったっけ?」
「私は先輩を待ってたんですよ。いつもどこかでこんなに傷だらけになってるんです。私には喧嘩を止める力はないので、不良がここを去るまでずっと待ってました。怪我、診せてください。」
「はい」
「またこんなに怪我して…前にも言った気がするんですけど、女装、そろそろやめませんか?先輩へのメリットに対してのデメリットがあまりにも大きすぎます」
「それは無理。私には今の私が根付いちゃってるから。急にこれをやめてとか言われてもね…それに、そんな奴らのために自分を曲げるなんて駄目でしょ」
「それはそうですけど、急じゃないですよ。これで5回目です」
「やめたとしてもアイツらは続けてくるでしょ」
「やっぱり、そう思います?」
辺りは夜に差し掛かっている。暫くの間、辺りを静寂が包んだ。
これが、私の日常。学校に行き、一人で学校を終え、不良に絡まれ、夕方まで殴られ続け、血反吐を吐き、帰る。そんな、傍から見れば非日常的なことが、私の日常だ。
「ねえ、ミヤ」
「どうしました?」
ミヤ、というのはこの後輩の名前だ。
「私が学校を休んだら、どうする?」
「いち早く学校を仮病で休んで先輩の家に行きますね」
「そうじゃなくて。私が学校を休んだら、ミヤはあの不良グループをどうするのって話だよ」
「先生ガード」
「効かないと思うよ」
「ええ…じゃあどうすれば」
「多分どうもできないね。やっぱりミヤが言った仮病が一番の得策だと思う」
「やっぱそうですかね。っと、終わりましたよ」
「うん、ありがと」
「またいつでも言ってくださいね」
「そうする」
ミヤには感謝している。いつも私の怪我を直してくれるし、私のことを心配してくれる、ただ一人の存在。
「じゃあ、途中まで一緒に帰るか」
「はい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「じゃあ、私こっちだから」
そう言って、私はミヤと別れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「はぁ…」
帰り道。先輩と別れた後だ。
「先輩…やっぱり凄いよなぁ…」
先輩の心強さというか、責任感はとてつもなく高い。
だから、私に迷惑がかからないように毎日来ている。だが。
「そうじゃないんだよなぁ…」
そう。そうじゃないのだ。
私は、先輩に休んでほしい。あわよくば、自殺までいってほしい。何故かって?
私は、先輩のことが大好きだ。誰にも取られたくない。だからふと、こう考えたのだ。
…先輩と一緒に死ねば、ずっと一緒にいられる、と。
だから頼んだ。先輩が自殺するように、不良集団に。先輩を、虐めてほしいって。
彼らは喜んで引き受けてくれた。
その代わり、全財産の半分を彼らに渡した。
「ふふふ…」
微かな笑い声が、口から漏れる。
「もうすぐで…」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今日が始まった。
地獄かもしれない一日が。
「…着替えるか」
クローゼットから制服を取り出し、着替える。
「今日は…食パンでいいか」
6斤入の食パンの袋から1斤取り出し、食べる。
「昼は購買かな」
財布に購買で使い切るほどの金額を入れ、歯を磨き家を出る。…と。
「おはようございます!先輩!」
「今日も元気だね。おはよう」
「元気って言っても空元気ですけどね。先輩の前で元気でいられることなんてできませんもん」
「ははは、そっか」
「…今日も女制服なんですね」
「昨日も言ったでしょ?今の私にはこれが根付いちゃってるの。それに、やめたからといってアイツらが虐めを止めるなんてありえないよ」
「『ありえないなんて事はありえない』、ですよ?」
「それ、いつも思うけど矛盾してるよね」
「ははは、確かにです」
そんなこんなで、私とミヤは登校中、他愛のない話をしながら、学校へ行く。
「ミヤ」
「はい?」
「今まで聞くのやめてたんだけど、聞いていい?」
「はい」
「ミヤは、なんで私に関わってくれるの?言えなかったらそれでもいい。でも、言えるのであれば言ってほしい」
「そうですね。言えることがあるとすれば…」
ミヤは一拍おいて、口を開いた。
「私が、先輩に恩があるから…ですかね」
「恩、かぁ。私ってミヤになんかしたっけ?」
「それ以上は、ちょっと言えませんね」
「まぁ、それならいいけど。私は深追いはしないから」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
教室に着く。
何も変わらない。変わることのない、視線。
誰も私に近寄らない。誰も私に話しかけない。関わろうとしない。
唯一の幸いは、不良集団が別クラスだということのみ。ただ、それだけ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
痛い。だが慣れた。こいつらの暴行にも。でも、今日だけは違った。首に縄をかけられ、吊るされ。なにも抵抗できずに、ずっと。殴られ続ける痛みと、縄が首を締め付ける痛みが続いた。
今までで一番痛かった。苦しかった。死んでしまいたいと思った。
本気で、私に止めを刺しにきていた。
そして。それが終わった時。いつもいたミヤはいなかった。
その日、私は久々に、一人で帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は、ついにやってしまった。
学校を…休んでしまった。
先生方には、体調不良だと伝えた。
そして、ミヤに一通のメールを送った。
もう、参ってしまったんだ。
『――――――』
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
朝日で目が覚める。私は朝食を食べ、着替えて身支度をした。すると、先輩から一通のメールが届いた。
『さようなら。今までありがとう。』
その一文で、私はなにが起こったか瞬時に理解した。
私は直様、家を飛び出した。先輩の家に向かって、鍵だけ持って。ただひたすらに走った。
そして、先輩の家のインターホンを押した。
…返答はない。
すぐに先輩の合鍵で、鍵を開けた。
扉を開け、家に上がり、扉を閉めて、鍵をかけた。
扉を閉めた理由はもちろん、邪魔者が入ってこないようにするためだ。
リビングに行くと、そこには。
自身に包丁を突き刺して横たわっている、先輩が居た。
「は、ははは…」
乾いた笑い声が漏れる。
「やっと…やっとだ…」
先輩が自殺した。目からは涙がこみ上げてくる。
「これで…」
そうだ。これで。これでいいんだ。
私は先輩が刺した包丁を手に持ち、先輩の近くに座った。
「ずっと一緒ですよ。先輩」
そうして、私は。
――手に持つ包丁を、私に突き刺した。
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