創作詩6: 方舟
本投稿では、創作詩 ”方舟” を発表します。本作は家族崩壊を比喩的に表現した詩です。私が出張中、自宅で暴れた息子は警察に収容されましたが、自宅に戻ることはなく隔離病棟に強制入院となりました。当時、機能不全に陥った家族の姿が私の無意識の記憶から鬼と化して本詩に現れたのかもしれません。
蛇口から、
幽かに漏れ落ちる水の音が気になった。
修理するにはもう時間がなかった。
夕食もほどほどに家を出た。
会社に着くや否や顧客から大クレームだ。
午前3時を過ぎて漸く休憩できた。
私はうとうとしてしまった。
薄ら灯りの中で台所のシンクが見える。
ガタガタと震える蛇口からダダ漏れる泥水*、
突然に蛇口のコックが吹っ飛ぶ、
潮吹きの如く肉汁色の飛沫が天井を突き上げる、
瞬く間に悪魔の噴水ショーと化す。
室内が侵されていくよ!
残してきた家族よ!
目覚めよ!
気が付けよ!
外に出て元栓を閉めよ!
ランダムに四方八方へ突風の如く、
溢れた大量が窓を破く、
もはや土石流の如く、
ドロドロの渦が我が家を飲み込んでいく、
瞬く間にあたりの人影や田畑や森も犯されてゆく。
息子は?
娘は?
妻は?
神は?
方舟は?
あ〜・・・
お〜・・・・・
う〜・・・
お〜・・・・・
あ〜・・・
方舟から、
降り立つ生き物達の中に妻子の姿はなかった。
終わり
*脚注:「泥水」は ”どろみず” と読む。
各連の脚韻(〜た。/〜う列/〜よ!/〜く/〜は?/母音〜・)、各連の形状(文末のレイアウトの対称性)にこだわりました。また、詩の連構成においても、前半と後半がシンメトリー(行数=2-555|555-2)になっています。