82．奈落の森を楽々探索する
魔族を殺す魔法を作ったわけだけど……これを皆にも使えるようしないといけない。
「魔法の習得には、どうしても、反復練習がいります」
とモリガン。
「別に私、魔殺呪文は訓練せず使えたけど」
「それはミカの魔法適性が最高値だからです。通常は、何度も練習しなければいけないのです」
そういうもんなんだ。
「最高神様は優れた魔法の使い手でいらっしゃるのですね！ 素晴らしい！」
ルシエルをはじめ、ハーフエルフたち全員が、私に拍手してる。
私が森の神の上司って知ってしまったからなぁ……。
「あのね、皆。私……静かに暮らしたいんだ。だから……」
「わかっております。ミカ神が今、下界に休暇中ということは、黙っております！」
なんか微妙に勘違いされてる……。
いや、私天界の神じゃあなくて、元人間なんですけどね。
「反復練習って、魔法をただ繰り返し撃つだけ」
「その通りです、ミカ神さま」
「でもそれって効率悪くない？ 体内魔力量って決まってるんでしょ？」
一日に練習できる量は決まってるってことだ。
それに、確かに魔殺呪文は必要魔力量は少ない。
でも他の魔法と比べるとけっこー魔力を消費する。
もし魔族に襲われたとき、魔力切れ起こしてたら、大変だ。
「魔力量って増やせないの？」
「増やせません。魔力は、子供の時期にしか延ばせないのです」
「へー、そういうもんなんだ」
「はい。一定時期を過ぎると、いくら魔力を使っても魔力量は増えません。絶対に」
と、ルシエル。うーん、絶対ってことあるかなぁ？
ってことで、私は全知全能で検索してみる。
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成人でも魔力量を増やす方法
→世界樹の雫を使う方法
魔法を使い、魔力が体内から完全になくなったあと、世界樹の雫を摂取することで、魔力量が増える
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「こんな方法が存在するなんて……！」
ハーフエルフたちが驚愕している。
「しかし……ミカ神様。これは、中々に困難な方法でございます」
とルシエル。
「世界樹の雫があればいいんでしょ？」
「その世界樹を、見つけることが困難なのです」
～～～～～～
世界樹
→世界にたった９本しかない、魔力の源、魔素を生み出す特別な木
その存在は秘匿されている
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「世界樹は魔素を産む……いわば資源。それを悪人が独占せぬよう、いにしえの大賢者さまが、まじないをかけて、その存在を隠蔽したと聞きます」
と、ルシエルが教えてくれた。
なるほど隠蔽ねえ……。
「まあ全知全能で調べればわかるんですがね」
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ここから一番近い世界樹の居場所
→奈落の森
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奈落の森
→世界四大秘境が一つ。
デッドエンド領、東に広がる大森林。強力な魔物がうろつき、高濃度の瘴気が漂い、また特殊な呪いのせいで侵入者を必ず迷わせる。通称【死の森】
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「奈落の森ってお隣でしょ？ すぐ近くに世界樹あるじゃん。ねえ？」
ハーフエルフたちがざわついてる。
「ミカ神様、恐れながら申し上げます」
ルシエルがかしこまったように言う。
うーん……前の彼女を知ってる身からすると、今の態度は、正直違和感ありだ……。
「前みたいな感じで対応してくれない？」
「そんな恐れ多い！」
「いいから、なんか調子狂うし」
「わ、わかりま……わかった、ミカ神様」
様付けもいいんだけど、モリガンが「呼び捨て……？」とちょっとキレてたので、そのままにしておいた。
「で、なぁにルシエル」
「奈落の森は、死の森と呼ばれている。入ったら最後、二度と帰っては来れない。そんな危険な場所なのだ。森の民とて、滅多に近寄らない」
うんうん、とハーフエルフたちがうなずく。
「じゃ、私が行ってくる」
「わたくしも同行しますよ、ミカ！ 二人きりで……デートですね……！」
いや、単にお遣いなんだけど……。
「あの、お母様。わたしも……ついて行ってもよろしいでしょうかっ。領地の問題を前に、領主が何もしないのは、駄目だと思いますので！」
うーん、真面目。
「い、いけませんよリシア様！ 死の森は、本当に危険な場所なのですっ」
「大丈夫大丈夫。私が守ってあげるからさ」
可愛い娘を守るのも、お母さんの役割ってね。
「……わかった。では、アタシも同行する」
「え、なんで？」
「森に詳しい人間がいたほうがいいのではないかと思って」
正直、全知全能があれば、案内人は要らないと思う。
けどせっかくの申し出を断るのは、ちょっと気が引けた。
「じゃ、よろしく」
ということで、私、リシアちゃん、モリガン、そしてルシエルの四人で、奈落の森に、世界樹の雫を取りに行くことなった。
ややあって。
私たちは奈落の森の入り口へとやってきていた。
先行するのはルシエルだ。
「まず、奈落の森で気をつけないといけないのは、方向を惑わすこの深い木々だ」
確かに、右を見ても左を見ても、同じような木々しか広がっていない。
それに全知全能情報によると、人を迷わせる呪いがかかってるみたいだし。
「大丈夫だよ。マップがあるしね」
スマホには、マップが表示されている。
全知全能を利用し、現在の正確な位置や、目的地までの最短ルートを調べられる。
「な、なんだこの精巧すぎるマップ！ こんなの見たこと無いぞ！」
ルシエルが驚愕してる。
現代技術を異世界人のルシエルが知らないのは当然だ。
「これがあれば、今どこにいるってすぐわかるから、迷子になることはないから、安心して」
「ああ、ミカ……頼もしい……好き……」
モリガンが私の腕にしなだれかかってくる。
逆側の手を、リシアちゃんがきゅっと掴んでいる。
「迷子にならないように、しっかり、ミカお母様のお手を掴んでおります！」
全知全能のマップのおかげで、迷うことなく、サクサク奈落の森を進んでいく私たち。
「つ、次に気をつけないと行けないのは、瘴気だ。少し吸い込んだだけで肺をやられる」
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瘴気
→人体に有害な毒ガス。長く吸い込むと死ぬ危険性もある。聖なる特別な力がないと、浄化不可能
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確かに、歩いていると紫色のガスがどこからか発生し出す。
「全然息苦しくありませんっ」
「瘴気が中和されてる！？ 特殊な聖なる力がないと、浄化できないのにっ！？」
するとモリガンがどや顔で言う。
「ミカのおかげです」
「どゆこと……？」
「ミカ、お忘れですか。あなたが居るおかげで、領地の水や空気が浄化されてるってことを」
あー……そういえば、そんなのあったね。
神が空気清浄機になってるからか、薬草が生える的な。
「最高神となったミカの体からは、常に聖なる魔力が放出されている。その魔力は瘴気を中和するのです」
はい、瘴気も問題になりませんでした。
てことで、先へ進む。
全知全能で世界樹の場所も特定できてるので、全然迷うこともないし、瘴気も平気。
「魔物も襲ってきませんね！」
「ミカ神様が恐ろしくて、誰も手出しできないのだろう……」
私、怖い神じゃあないよ？
ほんとだよ？
苦戦することなく、死の森を進んでいく私たち……。
「地図上だと、このあたりに隠し通路あるみたいだけど……」
「ないですね……。ただ崖上に、木々が生い茂ってるだけです」
リシアちゃんが周りをキョロキョロしてる。
周りには木々が生えている。
崖下には海が広がってる。潮の音が聞こえてきた。
「ミカ神様。ここは森の外れだぞ。この奥に世界樹があるわけない」
「でも地図上だとここに隠し通路ありってなってるし……」
隠し通路ってことは、通路が魔法か何かで隠蔽されてる可能性あるな。
私はここら一帯に、術式解析を行う。
「やっぱり隠蔽の魔法が掛かってるみたい。ほい、完全削除」
隠蔽魔法そのものを、削除する。
「人面樹！？」
ただの木だとおもってた、見上げるほどの巨大な樹木に、顔が突然出現した。
「しかもこの大きさ、魔力量……樹木王だ！」
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樹木王
→人食いの樹木型モンスター、その王。
【レベル】３５０
～～～～～～
『ジュロロロロロオオオオオオオ！』
「…………」すん。
『じゅ、ジュロロロロロオオオオオオオ！』
「…………」すん。
『…………』
「通って良い？」
『あ、はい、お通りください……』
んがっ、と樹木王が口を大きく開く。
その奥に、空間のゆらぎがあった。
「この口の中が隠し通路になってるみたいだね……って、どうしたの、ルシエル？」
ルシエルが頭を抱えながら言う。
「樹木王が、言うことを聞いてる……。伝承によると、何人もの猛者を、葬り去っていったバケモノだっていうのに……」
「え？ レベル３５０ごときで、バケモノなの……？」
「普通は、レベル三桁ってバケモノなんだよっ！」
感覚完全に麻痺ってるな……私……。
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