291.再会オベロン
復活した妖精たちは、新たな力を手に入れていた。
オベロンは【生命付与】――生命力を分け与えることで、他者を蘇生させたり、老人を若返らせることもできる。やったね!
そして息子の舞弥くんは、なぜかボディビルダーになっていた。ナイスバルク……!
……で、その二人に力を授けたのは、はい、私のようです……。
「改めて、感謝申し上げます。ミカ様」
場所は開田くんちの応接間。
私と真理は、オベロンの前で正座していた。
「あなたのおかげで、私はこうして生き返ることができました。本当に、ありがとうございました」
「う、うん……良かったね……。ところで、正座はそろそろ解いても?」
「駄目です」
「ふぁい……」
さっきまで涙ぐんでいたオベロンの目は、私らのやらかしを聞いた瞬間、きゅっと吊り上がった。
……そして、正座タイムが始まったわけである。
「全知全能を、なぜもっとちゃんと活用しないんですか、真理!」
「えっ、えっ、だ、だってぇ~……長野神のせいで使用制限かかってたしぃ~……」
「長野神が戻った段階で、使えるようになるかもとは考えなかったのですかっ!?」
「考えなかったす……」
「なぜ!?」
「な、なぜって言われても……まあ大丈夫かなぁって……」
「その見込みの甘さで、今までどれだけ迷惑かけてきたと思ってるんですかっ! 忘れたとは言わせませんよ!」
真理は完全に怯えていた。
「忘れた」って言うつもりだったのが、今にも泣きそうな顔をしている。
「何かやるなら報連相! なぜできないんですか! 頭、電卓なんですか!?」
「て、天理と同じこと言わないでくださいよ~……」
「同じこと言わせてる自分が悪いんでしょう!?」
「自分です……」
真理が詰められている。
私の方を見て、助けを求めてくる。さすがにちょっと不憫だ。
「お、オベロン、そのへんで……もう許してあげて……」
「ミカ様。あなたには命を救っていただいた恩があります」
「いや、恩とか、そういうのは別に……」「そうですか。わかりました。では、今後一切——」
「あっ、いや、それは建前というか、つまり、ね?」
「だいたい、ミカ様は真理を自由にさせすぎなんです。全知全能がどれだけ強力な力か、ご存じでしょう?」
「う、うん……まあ……」
全世界のあらゆる情報を抜き取れる(伏せ情報まで覗ける)とか、やばいに決まってる。
セキュリティを突破し、相手の弱点を握ることもできる。
つまりこれは、武器……いや、兵器だ。
「そんな核兵器みたいなものを、0歳児に渡すって、どうかしてると思いませんか!?」
「核兵器て……。いや、まあ……それは確かに……」
「パスコードでも設定しなきゃ、そのうち暴走しますよ!?」
「いや、でも、さすがにそこまで……」
「言い切れるんですか!?」
言い切れない……。
「で、でもほら。真理って本気モードに入ったら頼れるじゃん?」
「裏を返せば、本気じゃないと頼りにならないってことですよね!?」
「それは……うん、まあ、そう」
「そんな子に全知全能を渡すなんて! 異世界時代から変わってないですよね!? 対策してないの、どういうことなんですか!」
「な、なにも考えてなかったっす……」
「でしょうね!」
「はひぃ……」
という感じで、久しぶりの【オベロン主催・大ツッコミ大会】が開催されたのでした。
でもなんだか、私は笑ってしまった。
真理も、つられてくすくす笑っている。
オベロンはため息をひとつついて、目にうっすら涙を浮かべながら、けれど笑った。
「元気そうでなによりだよ、オベロン。おかえり」
「はい、ただいま戻りました、ミカ様。そして……本当に、ありがとうございました」
「いいってば。お礼なんていらないよ。だって、友達じゃん」
友情に、見返りなんていらない。
私はただ、困っている友達を、私の都合で助けたにすぎない。
だから、礼なんて、ほんとに必要ないのだ。
「あなたがこっちに来てくれて、本当に良かった。神様に感謝だね」
「あははっ、どういたしまして」
「ふふふっ」
……かくして、長きに渡ったオベロン救出作戦は、こうして大団円で幕を閉じたのだった。




