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259.ひさびさの不思議



 長野神のもとへ行くためには、地上ルートを使うしかない。

 でもどうやらルートは隠されているらしい。

 全知全能インターネットで検索しても、ルートが見つからず、どうしたもんじゃと思っていた。

 そんなとき、白い小さな人形? らしきものを、眷属であるトマトくんが発見。


 ……以上の内容を、仲間に説明する。


『マスターが頭おかしくなったのかと思って心配しましたよー』


 真理さん、心配してくれてありがとう。でもそれって、さっきまで私の頭がおかしくなったって思っていたってことだよね……? ちょっと酷くないですか? ママは悲しいぞ……?


『何を言ってるのですか、カス』


 お、いいぞ天理。

 反論してあげてくださいよ。


『マスターの頭は常日頃からおかしいです』


 およよ~? 天理ちゃん?

 君もちょっと酷いことを言ってませんか?

 お母さんちょっと悲しいですよ……?


「…………」てちてち。


 トマトくんが私の頭を撫でてくれる。

 優しい子だこと。まあ眷属だから、神のためになることをやってくれるのは当然かも………………あ。


「どうしたんですか、長野さま?」


 贄川刑事が私に尋ねてくる。


「いや、この白い人形、もしかしたら、長野神の眷属かもって思って」


 つねこや、各地にいる9体以外にも、長野神に仕える眷属がいるかもってふと思ったのだ。

 私にだって、眷属はたくさんいるし、それぞれ異なった仕事を任せてる。


『なるほど……。その可能性は高いです』


 と、天理が肯定してくれる。


『トマトくんみたいな、下位の眷属ってことですね?』

「そーゆーこと」


 私はしゃがみこんで、白い人形に尋ねる。


「あの」

「…………」ひーん。


 お人形さん、泣いてらっしゃる……。

 怖いんだろうか。そりゃ、そうか。


 この子からすれば、見知らぬ神とその眷属に囲まれてるような状況だもんね。


「ごめんごめん、別に君を食べちゃうとかそういうのじゃあないの」

「………………」ひーん。


「あの……」

「…………」ひーん。


 うーん……。


『これは、相手に言葉がそもそも通じてないですね』


 天理の言うとおりだと思う。


『言葉が通じないなんてありえるんですかー? 眷属って知能を有してるんですよね?』

『カスもたまにワタシたちの会話についてこれないときがあるでしょ? 知能に差がありすぎると、会話が成立しないのです』


『間接的にお姉ちゃんの知能が残念って言ってない!?』

『いいえ』

『あ、そうだよね……そこまで酷いこと言わないよね……』


『バカって言ったんだよカス』

『もっと酷いこと言われた!? 酷すぎるよ妹ぉ! お姉ちゃん大好きっこキャラじゃあなかったの!? キャラ変したってこと!?』


『ワタシは常にお姉ちゃんリスペクトですよ』

『言ってることとやってることが矛盾してるんだよぅ!』


 今日も天理はお姉ちゃんにじゃれついてるのだった。

 さて……と。


 つまり相手の眷属は、知能が低すぎるため、会話が成立しないわけだ。

 なら……簡単だ。


「へいトマトくん」

「…………?」


「私の言いたいことを、相手に伝えてくれないかな?」

「…………」びしぃ!


 トマトくんも、相手と同じ下位の眷属だ。

 同じ、下位の眷属同士なら、会話が通じると思ったのだ。


『なるほど……美香ばか真理バカは会話が通じますもんね』


 天理さん……?

 美香と書いてバカって呼んでませんか……? 

 気のせいよね……?


『ちょ、天理ぃ~。マスターと書いてバカって書くのやめたげてよぉ~。かわいそうじゃーん』

『はい。だから真理と書いてバカと読む、としました』

『お姉ちゃんバカじゃあないよ!?』


 いいえ、真理。君は私と同類だよ。

 なかーま。


「…………」ぴょんっ。


 そうこうしてると、トマトくんが、眷属と話を付けてくれたようだ。

 二人が、肩を組んでいる。

 どうやら随分と仲良しになったようだ。


「長野神に会いたいんだ。入り口がどこにあるか教えてくれない?」


 眷属はしばし考えたあと、てこてこと歩いて行く。

 そして、大きな、2本の木を交互に指さす。


「ここが入り口ってこと?」

「…………」こくん。


 私たちに入り口を教えてくれたって事は……。

 私たちを信用してくれたって事?


 いや、そんな会ってすぐ信用はしてくれないだろう。だから……。


「もしかして、長野神って、ほんとにヤバい状況にあったりする?」

「…………!!!!」こくこくこく!


 やっぱりそうか。

 緊急事態で、猫の手も借りたいから、私たちを中に入れてくれようとしてるんだ。


 ……予想通りだったな。


「OK。任せて。お姉ちゃんが長野神たすけてあげるから」

「…………」ひーん。


 眷属は涙を流しながら、わたしの足にしがみつく。

 この子も、神を愛してるんだろうな。トマトくんが私にそうしてくれるように。


 私は木と木の間を通り抜けようとする。

 簡単に通り抜けはできた……けど。


「神の領域に、入った感じがないわ」


 ただ、通り抜けたって感じ。

 長野神のいる場所へ移動はしてない気がする……。


「そんなこと、感覚でわかるんですね……すごい……さすが神……」

「一般人には違いがわからないもんなの?」


 真理に尋ねてみる。


『しらーん』

全知全能インターネットにも記載がありませんね、その感覚については』


 全知全能インターネットに載ってないことおおくなーい……?


『それだけ貴方がおかしいってことですよ』

「あ、そう……」


 まあいいけどさ。いいけどね。私がオカシナ存在って最初からわかってるし!


「ともあれ、入り口はここなんだよね? でも……なぜか入れない」


 入り口が閉じてるんだろうか。扉らしきものはないけど。

 でもなんとなく、ここが入り口ってことは感覚的にわかる。


『恐らくですが、ここは転移門ゲートなのでしょう』


 あー……なんだっけ、空間と空間をつなげる門みたいなもんだっけ?


転移門ゲートは、向こうとこちら、どちらも起動しないと、使えないのです』


 なるほど……こっち側は起動されてるけど、向こうが起動されていない。

 だから、転移門ゲートが開かない……と。


「じゃ、転移門ゲートを無理矢理こじ開けるのは?」

『バカですか? 転移門ゲートは異次元存在なのですよ? 次元の異なるものを、どうやって開けるという……』


 私は空間に向かって手を伸ばし、真横に開ける動作をする。

 すると、目の前に光の門が出現した。


『………………………………』

「なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 天理は絶句し、刑事さんは驚いてる。


『二人ともまだまだだなぁ~』


 一方で、真理は勝ち誇ったように言う。


『この神に、常識が通じるわけないじゃあないですか? 異次元の門を素手で開くくらい、できますよ~?』


 お、真理ちゃんはさすが、ままのことわかってるねー。


『……この人なんなの……?』

「人じゃあない。神ですよ?」

『……助けて、ツッコミ係……』


 天理が、なんだかものすごく疲れたように、そういうのだった。

 ごめんよ、君、本来ツッコミ係じゃあないもんね。

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