229.サービスエリアにて
開田くんの用意してくれた自動車に乗る私たち。
都心を出発し、1時間ちょっと経過した。
現在は練馬を抜けて、山梨県へと突入してる。
サービスエリアでちょっと休むことにした。
「うひゃー! これがうわさの、サービスエリアのご飯ですかー!」
サービスエリアの建物前には、食べ物屋が並んでいる。
糸こんにゃくだったり、たこ焼きだったり、串焼きだったり。
風に吹かれて、美味しそうなご飯の匂いが漂ってきた。
「ますた~。お腹すいた~」
「はいはい。何食べる?」
「ぜんぶー!」
真理が糸こんにゃくの屋台の前へ行く。
茶色い、球体のこんにゃくが串に刺さっている。
ダシが良く染みてて実に美味しそうだ。
『アホ姉、最近特に知性を感じさせない言動をする。おまえは赤ん坊か?』
「え、なに天理ぃ~? あんたも糸こんにゃく食べたいの? 残念! これは真理ちゃんのでーす。悔しかったらこっちに転移してこいってんだーへっへへーん」
『ぶくぶくに太ってと畜場に出荷されろ無能豚』
「こんにゃくはカロリーゼロだから、いくら食べてもふとらないもーん」
真理がウマウマ、とこんにゃくを食べてる。 私は……こんにゃくの串を余分にかって、車のとこへ行く。
運転席をノックする。
「あのー、すんません」
ドアが開くと、ぬぅう……と大男が現れた。
サングラスをかけた、筋骨隆々の男である。
どうやら贄川さんの息子さらんらしい。
「あっしに何かご用でございますか?」
ターミネーターみたいな見た目の男が尋ねてくる。
「運転お疲れ様です。これ、良かったら」
ここまでずっと、彼は運転してくれていたのだ。
なんだか申し訳なくなったので、こうして差し入れを持ってきたのである。
「ありがとうございやす」
贄川息子さんがぺこりと頭を下げて、私から糸こんにゃくを受け取る。
いかつい見た目に反して、丁寧な物腰の人だ。
「あとどれくらいでつきますかね」
「塩尻という場所へまずいきます。そこまで2時間もあればつきます。そこから、下道を通って、木曽までで1時間。そこから開田高原まで1時間です」
あと四時間か……うへぇ……遠い。
「高原様が木曽に宿を取っていただいておりやす。そこで一泊して、翌日、開田高原へ行く予定です」
「あら、そうなんだ」
開田くん、宿とっててくれたとは……ありがたい。
お礼のラインしとこ。
『もう送ってあります』
天理が私のスマホを使って、ラインを送付していたらしい。
しかも、天理は気を利かせて、心の声で話しかけてきていた。
「あの、その……贄川の息子さんは、その、超常的存在をご存知で?」
「いえ、あっしは全く」
そうなんだ……。皆が皆、超常的存在(異世界からの魔物や人間)を知ってる訳じゃあないんだ。
「ん? でも、私の側にいたら危ないんじゃ……?」
天理が武装を送ってきた。それはつまり、荒事(戦い)が起きる可能性があるってことだ。
一般人の贄川息子さんが巻き込まれるのは、ちょっと忍びない。
「心配ありがとうございやす。ですが、大丈夫でございやす。鍛えてますから」
「な、なるほど……」
確かに凄い説得力だ……。
むっきむきだもん。
「長野さまはあっしのことを気にせず、ご自分のしたいようにしてくだせえ」
「ありがと。いい人だね、君」
ふふふ、と私たちが笑い合っていると……
『マスター。アホが』
アホ? 真理のこと?
『アホがナンパされてます』
………………はぁ?
ナンパって……。
確かに、屋台の前で、真理が男にからまれていた。
陰キャおぶ陰キャの真理は、あうあう、と困ってる。
ありがと、天理。
『仕事ですから』
贄川息子さんといい、天理といい、仕事できる人が多くて助かる。
……真理は、まあ、うん。
「真理~」
「ますたぁああああああああ!」
真理がこっちに近づいてきて、ラッコのように、抱きついてきた。
「陽キャにナンパされた!」
「良かったじゃん」
真理、見た目【は】美少女だからね。見た目は。
「よくないですよ! 好きでも無い男から好意を持たれるの、恐怖でしかないですよ!」
「あ、そう……」
まあそういうもんか。
どれ、真理をナンパしようとした、変わり者の顔を拝むと……。
「あ? 魔族?」
一発で、わかった。真理にちょっかい出してきた、この金髪の男……魔族だって。
直感で、わかったのである。
「!? な、なぜわかったぁ……!」
「いや、なんとなく」
魔族とは何度か戦ってるし。
わかるんだよね、魔族の雰囲気。
「くっ……! 【封絶界】」
ふーぜっかい?
瞬間、魔族を中心として、結界が展開される。
広い範囲に、結界が広がっていた。これなんだ……?
『現実独自の結界術のようです。内部世界を外と切り離すことで、外から見えなくするようです』
「な、なるほど……?」
つまりどういうことだってばよ……?
『封絶界の外からは、我々を視認できなくなります』
ということは、つまりここでいくら暴れても、問題ないと。
『どうやら地球にいる超常的存在どもは、この封絶界を身につけているようです』
あ、なるほど……。だから、私たち一般人が、魔法や化け物を認識できてなかったんだ。
「バレてしまってはしょうがない!」
魔族が不敵に笑う。おお、なんだか強そうだ。
そういえば、地球の魔族ってどんなくらいの強さなんだろう。
もしかして異世界の魔族より強いとか?
「おれさまの名前は【ワンパンチ・デ・キエリュウ】だ!」
あ……(察し)




