202.ダルマ落とし
オベロンの息子問題を解決した。
あとは、封神の塔を攻略するだけだ。
大転移で、フォティアトゥヤァへと戻ってきた私たち。
「ミカりん様!」
「ドラン」
塔の入り口には、冒険者であるドランたち(遭難者)がいた。
ドランたちがこちらへとやってくる。おや……? なんだか様子がおかしいな。
「どうしたの?」
「封神の塔の入り口が、完全に閉鎖されてしまいました!」
「なんですと?」
私たちは、塔の入り口へとやってきた。
一見すると、ただのゲートだ。石造りで、特に扉などはない。
けれど、中に入ろうとすると、透明な何かに行く手を塞がれてしまうのだ。あらま。
「へい、真理。どういうこと?」
私の後ろには、真理、オベロン、そして開田くんがいる。
オベロン夫婦には、別に着いてこなくてもいいよといったのだ。
けれど、オベロンは「赤ちゃんをほっとけないので」といって着いてくることになったのだ。
おかしいな、赤ちゃん(舞弥ちゃん)は置いてきたはずなのにね。
で、真理に状況を聞こうとしたそのときだ。
【ふははは! ざまぁであります~!】
「この声は……キルケー?」
この塔を占拠してる、魔女キルケーの声が、どこからか聞こえてきたのだ。
【この塔には、てめえの神スキル、絶対防壁をはらせて貰ったでやがります~!】
「ほぉん? 絶対防壁を?」
相手の攻撃を完全に無効化する防御スキルだ。
「なんで私のスキル使えるの?」
【てめえがのんきに小休止してるあいだに、てめえの対策を考えて、作りあげたんですぅ! なにせ、うちは天才でやがりますからねー!】
どことなく、誰かさんに似てるなって思いました、まる。
ちら。
「? マスター、なんでワタクシを見るのですか」
「いや……。てゆーか、神スキルって他人でも模倣できるもんなの?」
「可能です。全知全能と違って、その神に固有のスキルではありませんので」
「固有のスキル?」
「はい。その個人にしか覚えられないスキルを、固有スキルと言います。それは他人に模倣できないです」
裏を返すと、それ以外のスキルは、模倣可能……と。
あれ?
「完全削除も?」
「まあ、やろうと思えば。もっとも、高い神格と、コピー術が必要ですが」
「ほうほう。つまり高い神格とコピー術があれば、可能と」
「そうですね。固有スキルじゃあないので」
マジかよ……。
【てめえはのこのこと、うちの神域に足を入れました! 神域とはすなわち、神の支配領域! そこに踏み入れたてめえの力は、こちらには筒抜けでありますよぉ!】
……ほーん。なるほど。
ようするに、キルケーの神域に、私が入ったことで、私の力をやつが学習したってことか……。
「ねえ、真理」
「なんでしょう」
「今キルケーが言った展開ってさ、全知全能で検索可能だった?」
「そうですね」
「そうですか……」
じゃあそれの危険性をですね、あらかじめアナウンスしておいてくれませんかね……。
すぱんっ、とオベロンが真理の頭を叩く。
「ぶったね! 高性能AIの完璧なる頭脳を! パーになったらどうするんですか!?」
「元からパーでしょうが!」
……酷い言われようだ。
「神域内で神スキルを使ったら、模倣される可能性があるなら、なぜそれをアナウンスしないのです!」
オベロンが私の言いたいこと全部言ってくれた。
やっぱり、真理にはツッコミ係が必要だなって思ったね。うん……。
「あ」
あ……って。その可能性に気づいていなかったの……?
「も、もちろん気づいていましたよ。ええ、もちろん、気づいてましたから。ほんとに気づいてましたからマジで」
気づいてなかったみたいだ。
まあ、全知全能の弱点って、スキル使用者が検索しないと、発動しないってところだもんね(パッシブスキルじゃあないところ)。
……あれ?
その弱点を補うために、自動検索用のAIである、真理を導入してるんじゃあなかったっけ……?
「し、しかーし! 大丈夫です。今、全知全能で、この防壁に対する対抗策を、ばちこーん! と検索しましたので」
どうやらこの絶対防壁を突破する術を、すでに検索済みのようだ。
「できるなら最初からやりなさい」
「うう……ますたぁ~……ほめてぇ~……」
真理がコアラのように、私に抱きついてくる。
「ミカ神さま」
ぎろり。
「あー……真理。突破の方法をおしえて」
「うう……ワタクシをだれも褒めてくれない。グレてやる!」
ぷいっ、と真理がそっぽ向いてしまう。め、めんどくせぇ~。
開田くんちの0歳児のほうが、よっぽど聞き分け良かったんだけど……。
「良いから、言え」
オベロンが真理のほっぺたを引っ張る。
「ひゃい……。こほん、キルケーの絶対防壁には、重大な欠陥があります。それは、防壁を広域展開できないという点です」
ほーん?
「どういうこと?」
「つまりですね、敵は絶対防壁を、この長い塔全体に張ることができないのですよ」
あー……なるほど?
入り口しか防壁が展開できていない(=入り口以外には防壁が張り巡らされていない)ってこと。
「なんでだろ?」
「コピーしたばかりですからね。使いこなせていないのですよ」
「なるほど」
「ま! それと神スキルという扱いが難しいスキルの使用を、サポートする高性能AIがいないのも、大きな要因ですがねっ!(ちらちら)」
はいはい。
ようするに、防壁は現在、入り口だけを塞いでるってことだ。
なら、話は単純。
上の階層の壁をぶん殴って、壊し、そこから侵入すれば良いだけ。
【ばーか! そんな幼稚園児でもわかるようなこと、うちが対策してないとでも思ったでありますかぁ!?】
……ん?
幼稚園児……?
【てめえが上層へ転移して、殴ろうとした瞬間、その部分をピンポイントで防壁を展開すればいいだけであります!】
「ふーん……でもそれやると、入り口から人はいっちゃうんじゃあない?」
【てめえ以外なんて雑魚でやがります! てめえの対策だけやってれば問題ねーであります!】
うーーん……まあ、彼女が指摘してるとおり、私以外に塔を攻略できないからね。ドランたちは途中でリタイヤしちゃったし。
【きゃはは! どうでやがりますぅ? てめえはこの塔に入ることすらできない! うちの勝ちでーす!】
「そんな勝ち方で嬉しいんですかね? 戦って勝つんじゃあなくて、そもそも試合させないみたいなやりかたで」
【ひゃっはは! どんなやりかただろうと、勝てば良かろうなのだー! でやがります!】
……ほーん。
ふーん……。
「どうしたんです、ミカ神さま?」
「いんや、なんでも」
まあ、直接会えばわかるでしょ、真相は。
「それで、ミカ。どうするんだ?」
入り口から入ろうとすると、防壁で防がれてしまう。
上の階層の壁をぶち破って入ろうとするのも、同じやり方で防がれる。
完全に、私が入るのを、相手は避けている。
「勝てない相手とは勝負しない。あいつは、口と態度は悪いですが、中々考えてますね」
とオベロン。
「ふん! ばかめ! うちのマスターを、その程度の浅い策で、突破できるわけないじゃあないですか!」
真理さん、なんでそんな自身満々なん?
「なぜって? マスターにはこの最先端最新鋭超高性能サポートAIがついてますからね!」
結局自慢がしたいわけね……。
さて、どうしようか。
うーん……。防壁で攻撃は防がれちゃう……あ。
「そうだ。真理。これってできそう?」
私はふと、思いついたことを、真理を経由して、全知全能で検索する。
「いけます」
「よし」
「相変わらず、マスターはヤバいですね。そんなやり方で防壁を突破するなんて」
さて、真理に検索して貰い、実現可能であることは証明できたので、実行しますか。
【はは! 無駄無駄無駄でやがります! 絶対防壁は、絶対の防壁! ぶち破ることは絶対、不可能でありますよぉ!】
「そーね。そこは認めるよ。そこだけはね」
【はぁん?】
私はオベロンにいう。
「……オベロン。眠りの魔法で、ドランたちを眠らせられる?」
「? 可能ですが」
「じゃあ、お願い。ちょっと見られるとやばいから」
「……わかりました」
オベロンが無詠唱で、眠りの魔法を発動させる。
ドラン達が、その場にこてんと倒れ、寝息を立てる。
「ありがと。んじゃ……やりますか」
私は封神の塔の入り口前に立って、右手を思い切り振りかぶる。
「神プロテクト、解除!」
制限していた、神の力を解除する。
そんで……。
「じゃんけん……ぐー!」
私は思いきり、入り口を拳でぶったたく。
ゴィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン…………。
という、鈍い音が鳴り響く。
【はは! バカでやがりますか!? 攻撃は通じないって言ってる……え、ええええええ!?】
封神の塔、最下層部分が、まるごとすっ飛んでいったのだ。
そして、上に乗っていた塔が、そのまま一段下に落ちる。
ずずずうぅううううううううううううううううううううううううん…………。
【な、何が起きてやがるのですか!?】
「マスターは、ダルマ落としのごとく、下層の層まるごと、吹っ飛ばしたのです」
【はぁ!? だ、ダルマ落としぃ!?】
この塔は、階層構造になってる。
いくつもの階層というなのダルマが、上へ上へと伸びている構造をとっているのだ。
塔の中に入って攻略できないなら、階層をダルマのごとくすっ飛ばして、最上層を下へ持ってくる。
「防壁は、マスターの物理攻撃による破壊を完全に防ぐことはできても、打撃による衝撃を殺せない」
【ま、まさか……! これを何度も繰り返すつもりでやがりますか!? 最上層が、一番下へ降りてくるまで!?】
そのとおり。
【あ、アリエナイ……非常識すぎる……】
「ははっ! 残念! うちのマスターは! こと非常識っぷりにかけては、右に出る者がいないんですよぉ!」




