184.ダンジョンアタック(物理的)
私たちはついに、南の国フォティアトゥヤァへとやってきた。
上空から、島を見下ろす。
一面の砂漠がどこまでも続いていた。
「フォティアトゥヤァは、マスターたちのすんでる西の大陸から南にくだった先にある小国です。1つの島からなります。国土のほとんどが砂で覆われており、主要となる都市は迷宮都市ナントただ一つとなってます。また、ミタケ火山という活火山もあります」
と、真理が全知全能で調べた情報をおしえてくれる。
ほーん……。
「都市は一つだけなんだ」
「はい。なにせ、一面の砂漠です。オアシスもなく、本来ならば人が暮らせる土地ではありません」
「でも街があるんでしょ?」
「はい。迷宮都市があるからです。封神の塔、ダンジョンクリアである、『どんな願いも叶えてくれる』という餌につられ、国外から多くの冒険者がやってきてるのです」
なるほど、それで街……というか国が成り立ってるわけね。
でも……。
「それって、世界が大混乱しない? クリアすれば、だれでもその人の望みが叶うんでしょ?」
たとえば、世界征服したいとか、大金持ちになりたい! みたいな、そんな願いが連発されちゃ、この世界おかしくなっちゃうような気がする。
「ご安心を。ダンジョンの難易度は高く、今までクリアできた人間は、数えるほどしかおりません」
「あ、そうなんだ」
だから世界がめちゃくちゃになるってことは無いみたい。
「とはいえ、封神の塔は、クリアできずとも、置いてある宝箱の質の良さや、出てくる魔物の死骸を売ればかなりの値段になるため、リターンは大きいのです」
なるほど……。
冒険者たちは、願いが叶うという餌、そして、ダンジョンがクリアできなくても見返りは大きい、この二つ餌につられて、はるばる南の果てまでやってくるわけね。
「で、魔女キルケーが現在、封神の塔を占拠してると」
「隠蔽スキルで隠されてますが、その可能性は高いです」
なるほどね……。
「国は何してるのかしら? 魔女にダンジョンを占拠されたら、国も困るでしょ?」
自国に多大なる利益をもたらすダンジョン。それを占拠する不届き者がいるのだ。排除しようと考えるのが自然だ。
「塔に入っていったフォティアトゥヤァ軍は……全滅したようです」
「全滅っすか……」
「はい。みな帰らぬ人となりました」
うーん……なるほど。
封神の塔は、キルケーに占拠されてる。
王国軍や、冒険者がキルケー討伐に挑むも、失敗。
手詰まり、という状況のようだ。
「そいじゃ、ちゃちゃっといっちゃいましょう。真理、出発!」
「らじゃー」
エア・バードが凄まじい勢いで動き出す。
開田くんはモニターに釘付けになっていた。
「す、すごいな……ミカ! 空を! 空を飛んでいるぞ!?」
ん……?
なんで驚いてるんだろう。
「君の時代にも、飛行機はあったでしょ?」
特攻機とかね。
「ああ、あった。だが、基本は戦闘機だ。このように、移動手段としての飛行機は普及しておらなんだ」
「ほーん……そうなんだ」
「ああ。それに、戦闘機は乗り心地最悪だと聞く。だがこの飛行機は、揺れ一つしない! どういう原理なのだ!?」
「ど、どういう原理って言われても……うーん……」
わからん……。
「ふふん、仕方ないですね」
すっ、と真理がタブPCを開田くんに差し出す。
「なんだ、この板……? わ!? ひ、光った!? なんだこれは!?」
真理がドヤァ……と得意げに言う。
「これは、パソコンです!」
「ぱ、ぱそ……?」
「何でも検索できたり、遠くの人と会話したりできる、すごいデバイスです」
「なっ!? そ、そ、そんなことが可能なのか!?」
「ええ、できるんですよ」
「す、す、すごい……!」
にまにま、と真理が笑う。
「いやぁ、いいですね。文明が未発達の人間に、未来の凄い技術を見せつけて、優越感に浸る人たちの気分がよくわかりますよぉ~」
ん……?
んんっ?
いま……私、なーんかひっかかったぞ?
そうだ、前もあった。
電子レンジを、開田くんに見せたときだ。あのときも、すごい違和感があった。
今も……。
「ねえ、真理。やっぱり何か……」
「こうやって好きなワードを入力するとぉ~、知りたいことが検索できるんですよぉ~」
真理は開田くん相手に、得意げに知識を披露してる。
開田くんは「す、素晴らしい……」とつぶやきながら、飛行機の情報を検索していた。
う、うーん……。
なんだろうこの違和感……。
「ねえ、真理。凄い違和感覚えない?」
「え、別に。いやぁ、いいですねぇ、技術チート。未開人相手にマウントとるのきんもちぃ~です! マスターはいつもこんな快感を得ていたんですね」
別にマウントなんてとったことないし……。
「真・理」
オベロンが真理の背後にたち、こめかみをぐりぐりする。
「いたたたたた! でぃーぶい! マスター! 今現在進行形で、DVが発生してますよ!」
「はいはい、オベロンそれくらいでね。真理も運転に集中して」
ぱっ、とオベロンが手を離す。
「行き過ぎた体罰は、子供の人格をゆがめますよっ!」
「大丈夫です、真理。あなたの人格はとっくにゆがみ切ってます」
「ぐぬぅ……。た、確かに初期のキャラとは変わってきますけどぉ」
なんだ初期のキャラって。
真理がおふざけしてる一方、開田くんが、タブレットにかじりつくように見ている。
「すごい……これが未来の技術……。飛行機……なるほど……」
開田くんは勉強熱心な子やなぁ。
「お、まもなく封神の塔が見えてきますよ」
正面のモニターに、馬鹿でかい塔が映し出される。
「なんじゃありゃ……」
「天を突くほどの、巨大な塔ですね……」
オベロンも驚愕するほどの、デカい塔。
砂漠の中にぽつんと出現した、1本の白い柱にも見える。
「あれが、迷宮都市ナントに現存する、最高難易度のダンジョン、封神の塔です」
すごい。あれみたいだ。あれ……えっと……。そうだ、軌道エレベーターだ! SFでよく見る!
「高すぎでしょ……やばぁ……」
「半端ない高さです。なにせ、成層圏突破してますので」
「まじか」
え、それ上れるの……?
いや、上れないから、最高難易度って言われてるのか……。
逆に言うと、突破できた人たちすごいね……一から上るの無理ゲーすぎる。
「へい真理。街の手前で着陸してね。騒ぎを起こしたくないし」
街の外にエア・バードをとめて、上っていくつもりだ。
こんな機械が都市の上に現れたら、みんなを驚かせちゃうからね。
「え?」
「え? って、なによ、え? って」
「いや……そういうのは速く言ってくださいよ」
「え?」
どんどんと、封神の塔が迫ってくる!
「止めて!」
「か、慣性の法則があるので……その……」
「その!?」
「つ、つっこみまーす」
「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
エア・バードが超スピードで、封神の塔にツッコんだ!
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
……これだけの大事故を起こしても、しかし、中の揺れは不思議と軽微だった。
とはいえ、私はその場に尻餅をつき、オベロンは開田くんを抱きかかえて、床に伏せている。
「怪我は、ないですか? カイダくん?」
「あ、ああ……ありがとう、オベロン……さん」
ぽっ、と開田くんが頬を赤く染めてる。
え、なに? 恋愛フラグ……?
いや、それより……。
「ふ……計画通り」
「じゃあないよ、真理!」
真理は操縦席から転げ落ちていた。犬神家みたいに、足を上げたポーズ。
「止めなよ!」
「いや、だって……止めろって言われなかったし……」
「止めなきゃこうなるってわかってたでしょ?」
「わかってますよ。バカじゃあないんだし」
……まったくもぉ。
「バカはあなただぁあああああああああああああああああああ!」
オベロンが立ち上がり、真理を後ろからぐりぐりする。
み、みさえ~。
「ひぃいいい! 暴力! 家庭内暴力! 令和じゃこの表現は禁止されてます!」
「うるさい黙れバカ! ポンコツ!」
「ば、バカじゃないもん! 高性能AIだもん!」
「子供が! 怪我したらどうするですかこのバカぁああああああああああああああああ!」
オベロンから見れば、開田くんは幼子みたいなもんだもんね。
そりゃ、怪我したら大変って考えるんだろう。
「オベロンさん……」
ぽっ、と頬を赤く染める開田くん。
あれ、もしかして……?
「ま、まあまあオベロン。それくらいに。真理もほら、子供だからさ」
「ミカ神さまがそうやって甘やかすから! このバカがいつまで経っても成長しないんですよ……!」
「は、はひ……すみません……」
ま、まあ何はともあれ、封神の塔に、突入成功したのだった。




