182.無自覚に信者を作る
開田くんが美味しそうに、納豆ご飯を食べている。
「う、うまい……! なんだ……ただの納豆ご飯なのに、どうしてここまで美味しいのだ!?」
がっがっが、と開田くんが納豆ご飯をかっくらっている。
人が食べてるものって、妙に美味しそうに見えるなぁ。じゅるり。
「マスター……ワタクシも納豆ご飯食べたいですじゅるり」
「お、きぐーだね。私もだよ」
ってことで、私はパックご飯をレンチンする。
「そうか、飯だ。白米! この器に入ってるのは、全部白米なのだ! 雑穀が一つも混じっていない! だから美味いのだっ!」
ぴー、とレンジの音がなる。
えっと……。
けっこー当たり前のことを、この子言ってるような……。いや、待てよ。
昔は食料が不足していたって聞いたことあるぞ。
白米を腹一杯食べれないくらい、困窮していた時期が日本にはあったそうな。
彼がその時代から来た人間だとするなら、驚くのも無理は無い。
なんとも……辛い時代を生き抜いてきた人だ。うん。
「たくさんお食べ」
レンチンした私のご飯を、彼に出してあげる。
「良いのか……?」
おっと、拒まないし、怪しんでこないぞ?
「いいよ。どうぞ」
「かたじけない」
そういって、開田君が二杯目の納豆ご飯を食べていく。ほんとに美味しそうに、こめをかっくらっていく。
でも、米ばかりじゃものたりないだろう。
ということで、私は新たな冷凍食品をレンチンすることにする。
「もごもご……マスター……何やってるんです?」
「おかずをレンチンしてるのさ」
今、冷凍食品って、めっちゃ種類あるんだよね。
今温めてるのは、たくさん種類のある冷凍食品の一つ!
ぴーっ、という音がしたので、蓋を開ける。
そこには……。
「じゃーん、冷凍唐揚げ~」
「か、か、唐揚げ!?」
開田君がガタタッ、と椅子から転げ落ちる。
え、驚きすぎない……?
「あれ、唐揚げ知らない?」
「い、いや……知ってる。唐揚げは、食べたことある……が。どういうことだっ?」
彼が立ち上がって、私の元へとやってくる。
皿に載ってる唐揚げを見て、驚愕していた。
「湯気が出てる……! どうなってるのだ、この箱にいれただけで、どうやって温かい唐揚げが!?」
えー……っと。
「この箱にいれると、温かくなるのは……なんかマイクロウェーブがえーっと……」
電子レンジの仕組みを説明できない……!
「と、とにかく、これは電子レンジ。電気のチカラで色々やって、食べ物を温めることができるの」
「で、電気!? 電気で……物を温めることが……?」
めちゃくちゃ驚いていらした。
まあ、昔の人っぽいからね。レンジに驚くのはしょうがないか……。
………………ん?
あれ?
なんか今、私……トンデモナイことしていたような……。
「どうしました、マスター?」
真理が近づいてきて、唐揚げをつまみ食いする。
「いや、なんか私、やっちゃったような気がして……」
「? そんなの毎回じゃあないですか」
「それもそっか」
なんか今、トンデモナイことしてしまった気がしたけど、そうだね。いつも、だね!
ほなあんま気にせんでもええか……。
真理も、特に気にした様子もないしね。
「さ、冷食パーティーじゃい」
唐揚げ以外のおかずも、レンチンする。
テーブルに並べられたのは、唐揚げ、ポテト、ハンバーグ、お好み焼き、たこ焼き……。
「へいマスター。粉物はおかずに含まれないと思うのですが」
「はぁん? 粉物はおかずになるから。ソース掛かってるから。ご飯とめっちゃあうから」
「マスターは関西圏の人なんです……?」
口論する私をよそに、開田君が、目をむきながら言う。
「すごい……ここが、極楽浄土というやつなのか……」
「いや大げさな……」
「大げさなものか。未知の機器に、こんなに美味そうなごちそうの山。どう見ても……ここは……死後の世界だろう」
開田君が、辛そうな顔でうつむく。
死後の世界って。
「違うよ。ここは別に死後の世界じゃあないさ」
君がどっから、どういう状況でやってきたのかは知らんけど。
「紛れもなく、現実で、君は生きてるよ」
「……だが、ここはぼくの知ってる場所じゃあない。ぼくは戻らないといけない場所があるんだ」
「…………」
戻らないといけない場所……か。
多分地球のことを言ってるんだろう。
「へい真理。現実……地球に戻る方法はある?」
「現状、存在しません」
……あれ?
「でも聖女召喚あるじゃん?」
「あれは、異世界からこちらに、人を呼び出す方法です。召喚方法はあるけど、転送方法は存在しない。ましてや、彼の生きていた時間軸は、マスターが居た時間軸と異なります。彼を正確に、彼の居た時間に送り返すのは、現在のマスターでは不可能です」
なるほどね……。
「そんな……」
絶望の表情をする、開田君。あれれ?
「なんでそんな顔してるの?」
「え?」
「真理は、現在の私では不可能って言ったのよ。つまり……方法がないわけじゃあない。そうよね?」
今は無理でも、未来では無理じゃあない。私には、真理がそう言ってるように聞こえたのだ。
「その通り。さすがマスター。ワタクシのことをよくわかって……ぶぎゃっ!」
オベロンが真理の頭をはたく。
「何するんですかっ」
「わざと遠回りないい方をして、子供を泣かせるんじゃあないですよ」
あら、オベロン、開田君のこともしかして気に入ったのかな……?
まあ、元々ママっぽかったし(母性強いし)。
泣いてる子供がほっとけなかったんだろう。
オベロンがぎゅっ、と開田君を抱きしめる。
「大丈夫ですよ、カイダくん。ミカ神さまなら、君を送り届けることができるみたいです」
「ほ、ほんとうか……?」
「ええ。ミカ神さまは、全知全能の神。彼女に不可能という二文字は存在しない。必ず、君を家に送り届けてくれます。だから、泣かないでください」
オベロンが優しく、開田くんをよしよしする。
彼の目に涙がたまり、安堵の息をついた。うん……良かった。
「へいマスター。オベロンのやつ、ちょっとワタクシに向ける態度と、違いすぎやしませんか? ワタクシも子供なのに、0歳児なのに、ちょー厳しい」
「そりゃあんた優しくするとつけあがるでしょ……」
「ぐう」
ぐうの音をあげるやつって初めて見たわ……。
「で、真理。帰す方法はあるんでしょ?」
「はい。封神の塔を使えば、帰せます」
「ほう、なんで?」
「封神の塔は、時空間をつなげる特別な装置となっております」
封神の塔とは、これから私たちが向かうダンジョンのことだ。
「ダンジョン自体が、時空間転移装置となっているのです。それを使えば、彼を地球の、彼が居た時間軸に戻すことは可能です」
「まじか」
なんと好都合な。
「じゃあ、封神の塔へいって、塔をぶんどればいいわけね」
もとより、量産ミカが、封神の塔で何らかのトラブルに見舞われてるようだった。
彼女を助けるついでに、塔もいただいてしまおう。
「マスター……考えが山賊のそれですよ?」
「山賊? 何言ってるの」
にや、と私が笑う。
「私は神なんだよ? この世界のものは、全部私のものよ」
おお……と開田くんが、なぜか歓声をあげる。
なんでそこで歓声があがるんだろ……?
「世界は全部自分の物……。人間、ここまで……強欲であってよいのか……」
「いや、カイダくん。この人のこと参考にしちゃだめですよ? この人、本当に神様なんで……」
「人間はもっと欲深くあるべきなのか……」
「聞いちゃいない……! だめですよ! そっちにいっちゃ! ミカ神さまがうつっちゃいますよ!?」
なに私がうつるって……。
開田くんは、席に座ると、パンッ、と手を合わせる。
「いただきます!」
がつがつがつ! とご飯を食べ出す。
さっきまでは、ただ空腹を満たすためだけに、食べていた。
しかし、今の彼からは、なにか活力? というものを感じる。生きるために、ご飯を食ってる。そんな気がする。
「元気になった?」
「はいっ! ミカ神さまは、おっしゃりました。帰る手段があると。なら、ぼくは……貴女の言葉を信じます」
お、おう……。なんか急に、私への態度が、軟化してません……?
「帰る手段があるなら、それまで生き延びる必要があります。なので、食べます!」
「う、うん……それは良いことだね」
「はい! しかし、美味しいです! どれもこれも!」
「そりゃ良かった」
まあ、なんだ。とりあえず元気になってくれてよかった。
あと、私を敵だと認識してこなくなったのはよかったな。
やっぱり、ご飯のチカラは偉大だ。一緒に食べれば仲良くなれる。
「むしゃむしゃ……いや、多分ご飯のチカラでは無く……もぐもぐ……まふふぁーのことばにふぁんふぁされたのかと……」
真理がハムスターみたいに、頬を膨らませながら飯食ってる。食事中にしゃべるのやめい。
とりあえず、食ったら封神の塔へ出発だ。




